第9話 オムライス
三時間目の講義も
僕の今日の予定はここまでだ。四時間目に取れる講義はなかったので、タクとヒロも三時間目で終わりだ。
「よっしゃ終わった! というわけで、俺たち三人交流を深めるために遊びに行こうぜ!」
タクが手を握り締めてテンション高く宣言する。
「えっ」
しかし予想していなかったのか、ヒロは『なんで?』という表情になっている。というか予定も聞かずに唐突だよね。大人しい雰囲気のアニメオタクという予想から、あんまり外で遊ぶ感じはしないけれど……。
「ぼくはちょっと……」
「ええーっ、何か予定あるの? せっかくの機会だからこう、友情を深めたいと思ったんだけど」
「僕もちょっと予定が……」
今日はすずが四時間目まで講義があるので、夕飯は僕が作ると約束しているのだ。誘われたから遊びに行ってくると急に言って怒るとは思わないけれど、約束はちゃんと守らないとね。
「いっちーもかよ!? 二人とも友達じゃなかったのか!? くっ……、俺だけが一人で浮かれていたなんて……!」
「あ、いや、……ごめん、そういうわけじゃないんだけど」
わざとらしく悔しがるタクに、どうしていいのかわからずにおろおろするヒロ。なんとなくタクという人物がわかってきた気がしてきた。
「まぁまぁ、急に話を振られてもダメなこともあるから、ここはラインの交換で手を打とうじゃないか」
「ああ、そうだな。いっちーが言うなら仕方がない。次は予定を聞いてからにしといてやるよ。だから絶対にその時は予定を空けておいてくれよ」
機嫌が直ったのか、三人で連絡先を交換することにして今日は解散となった。
学校帰りにスーパーで食材を購入し自宅へと帰る。夕飯を準備するにはまだちょっと早い時間だ。食材を冷蔵庫へと仕舞うと、少しだけ楽器の練習だ。我が家には八十八鍵盤のキーボードがあるのだ。メインではないけれど、たまに仕事でも演奏することはあるので練習は欠かさない。
「ただいまー」
しばらくするとすずが帰ってきたので、練習は終わりにする。
「おかえり」
リビングに出てすずを迎えると、ちょうど時間も五時前になっている。そろそろ夕飯の支度をしますかね。
「今日の晩ご飯はなぁに?」
エプロンをつけてキッチンへと向かう僕に、すずが問いかけてくる。
「今日はオムライスだよ」
「やったね!」
嬉しそうにするすずを自室に見送りながら、昨日の残りの冷凍ご飯を電子レンジに入れて解凍する。オムライスに使うのは、玉ねぎ、にんじん、ズッキーニ、鶏むね肉だ。
多めのバターをフライパンに入れると、みじん切りにした野菜と細かく切った鶏肉を炒めていく。ある程度火が通ったら、解凍されたご飯と追加でバターに顆粒タイプの鶏ガラスープをフライパンに投入だ。
「いい匂いしてきた。誠ちゃん、何か手伝うことあるかな?」
部屋で着替えてきたすずが手伝ってくれるらしい。今日は僕の当番だけれど、いつも完全にお互いに任せっきりというわけではない。
「あー、それじゃあサラダをお願い。冷蔵庫にミニトマトも入ってるから」
「はーい」
サラダの他にもう一品、スープを作ろうと思ってるけれど、こちらはほとんど準備ができている。
フライパンのバターライスを適度にかき混ぜながら、別に用意した鍋に少量のバターを入れると、オムライス用にみじん切りした野菜の余りを投入する。適度に火が通ったら水を入れて、鶏がらスープと塩コショウで味付けして完成だ。
「こっちもできたよー」
隣を見るとボウルの中に生野菜サラダが出来上がっていた。レタスときゅうりにミニトマトが入っている。
「ありがとう」
お皿にバターライスを盛ると、次は卵だ。二個の卵を溶いてフライパンに流し込むと、弱火でかき混ぜながらしばらく火を通す。多少固まってきたところで混ぜるのを止め、ゴムベラでフライパンの端に寄せて形を整えていく。
「うまくいくかなぁ?」
ある程度形になったら完成だ。お皿に盛ったバターライスの上に乗せて、卵の真ん中を割るけれど……。
「ああー、失敗……」
「あはは!」
ちょっと火を通し過ぎたかもしれない。予想だととろとろの卵がバターライスの裾野に広がると思ってたんだけど。
僕はがっくりと肩を落とすと、気を取り直して二回目のふわふわ卵に挑戦する。……の前にあれだ。
「すずはカレーとハヤシライスどっちがいい?」
買っておいたレトルトパックを差し出すと、間髪入れずにすずはハヤシライスを手に取った。
「こっち!」
満面の笑みで箱を開封すると、中身のレトルトパックをレンジに入れる。最近のレトルト食品はパックごと温められるから便利だよね。
そして次は、僕の二回目のふわふわ卵の挑戦だ。さっきと同じようにフライパンの上をゴムベラで転がしながら火を通していく。今度は火を通し過ぎないように注意すると、見事に成功した。
「やったね誠ちゃん!」
自分の事のように喜んでくれるすずだけれど、もちろん成功したオムライスはすずに譲ってあげますとも。
こうしてハヤシオムライスとカレーオムライスが完成した。
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