第2話:自分で作ったステータスでも引く時はある

  「んんっ、くっ、はぁわ〜。痛っ、え?」


  なんと忙しい男なのだろう。伸びたかと思うと地面の硬さに顔を顰め、そして自分の声の違いと喉の違和感に驚いた。






  ここ何処だよ。眼前に広がる草原と、“見覚えのある街”が遠くに見えパニックに陥りそうになる。


  確かに俺は此処を知っている。しかしこの状況は知らない。と言うのも、此処は俺が「レイド・トリップ」で最初に柚月が転移される場所をイメージしたものだ。


  無論俺は日本の家で寝ていたし、こんなだだっ広い草原など知る限りでは現実世界にない。ましてや自分が草原にいることなど、少なくとも今世ではないはずだ。




  先程痛みを感じたし、何よりこんなリアルな夢はないだろう。


 そうすると、安直な考えしか出来ない俺が思いつく可能性はただ1つ。




  「異世界転移かぁ」


  不思議と嫌な感じはしない。むしろ、自分のイメージしていた世界に飛ばされ、初めての感覚に囚われている今の現状に興奮すらしている。




  もしかして、此処が俺が考えた小説内の世界なら“あれ”が存在するのでは。そう思い、


「ステータスオープン」と念じる。






  出たよ。出てしまったよ。激しくなる動悸を押さえ込みながら視界に現れた半透明のウィンドウを見る。




 名前:佐野さの 柚月ゆづき


 種族:人間


 年齢:17


 称号:飛ばされちゃった系男子




  …。なんだよ「飛ばされちゃった系男子」って。軽すぎだろ、JKかよ!と1人でツッコミを入れながら次の画面にスライドする。




 レベル:1


 HP :350


 MP :520


 STR:400


 DEX:400


 VIT:400


 INT:400


 AGI:400


 MND:400


 LUK:1500




  うわぁ、超高ぇ。柚月のイメージ通りだけど、レベル1でこれはやっぱり引く。LUKとかもろチートだよ。いや他もだけどさ。


  ちなみに参考までだが、この世界の一般的なステータスは全部100程。騎士とかでも200~300くらいだろう。


  なんでこんなことが分かるかって?それは勿論自分の書いでいる小説だからです。




  そう言えばスキルとかもあったよな。ふと思い出した俺はもう一度画面をスライドする。




 スキル


 武術の天才(全ての武術が最高クラスで使える)


 魔術の天才(全ての魔術が最高クラスで使える)


 生産の天才(全ての生産が最高クラスで使える。尚道具はMPにより代用可)


 異世界言語完全習得(異世界の言語を話したり、書けるようにする)


 鑑定MAX(最大レベルの鑑定が行える)


 スキル獲得簡易化(スキルが直ぐに獲得出来る)


 成長速度異常上昇(成長速度が異常に早くなる)


 成長限界解放(レベル上限が無くなる)


 創造魔法(魔力をイメージ通りに使える)


 アイテムボックス∞(∞の容量のアイテムボックスが使える)


 危機管理能力MAX(自分に近づく危険を察知できる)




  うん。流石にこれはやり過ぎたと思ってる。ただ、天才系スキルを持っていてもまだ本体スキルを獲得してないから使えないんだけどね。それにしても人間やめてる。あと先に言っておくが、俺はクズ人間ではないため無闇にこの力を振り回そうとは思っていない。




  それにしても、俺はもう柚月なんだなぁ。凄く感慨深い。だって、自分がなりたいと思っているキャラを描いてる小説に入って、そのキャラになってしまったんだから。


 退屈な現代日本から出て、憧れの異世界に来たからには思いっきり楽しむべきだろう


 そう思いすぐに俺は、遠くに見える街に向かって足を進めた。此処から街まではそんなにかからないだろう。街の細部まではイメージしていなかったから、どんな風になっているかとても楽しみだ。






  歩き始めてから30分程。たんだんと街が大きくなっていき、あと15分もすれば着きそうなくらいには近づいて来た。そんな時、俺の危機管理能力によって危険を感じた。


 


  すぐさま後ろを振り返るとそこには狼より1回り大きいサイズの魔物がいた。


 こんな魔物は知らないし、ましてや魔物すらしっかりとイメージをしていなかった。


 俺の危機管理能力がビンビン反応する。いきなりピンチそうだ。


  冷や汗が流れるが、体を無理やり動かしファイティングポーズをとった。




  そして、俺は覚悟を決めた。

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