俺、作者だけど、今自分の小説内にいます。
佐野 希
第1話:現代日本にて
『レイド・トリップにログインします。』
その一言から俺の異世界生活は始まった。
………………………………………………
゛キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン゛
「以上でHRを終わる。みんな帰っていいぞー。月曜は祝日だから気をつけろよー。」
先生がHRの終わりを告げる。俺は帰宅部だから今日の活動は帰宅のみ。テストも終わったばっかりで当分用事はないため浮かれていた。
勿論家でダラダラするだけではない。今週末からあることをしようと決めていたのだ。
「っぶねぇ。あ、すみません。」
急ぎ過ぎていたのだろうか、其れ程までに楽しみにいていることがあるのだから仕方がない。興奮して周りが見えなくなるのは俺だけじゃなく、人間の本能だと言うのが持論だ。
家に着いた俺は直ぐに自分の部屋に駆けていき机に向かう。PCが起動するまでの時間が無限に感じる。
やっと起動したのを確認し、直ぐに「執筆ソフト」を開く。
そう、俺が今週末から始めようと思っていたこと、それは「小説を書く」ということだ。纏まった時間が中々確保出来なかなった為に、書き始めるのが遅くなってしまった。“もう
キャラ設定は出来ている”というのに。
今回書くのは異世界転移系のライトノベルだ。近年使い古されたようにも感じるが、俺の中ではまだまだピチピチで大好きなジャンルだ。そんな中でも主人公最強系、俺TUEEEEとも言われているか、主人公に感情移入して読むタイプの俺はそれを読むことで自分が強くなれた気がして好きだった。
これから書く作品の主人公の名前は佐野 柚月(さの ゆづき)。佐野は本当の苗字で、柚月は憧れる名前だ。
設定は無論、剣と魔法のファンタジー世界。中世ヨーロッパのような街並みの世界に転移してしまった柚月が神から授かった自分のチート能力を存分に使って、冒険者として名を馳せていくという、何とも言えない主人公至上主義度である。
しかし、そんな現実離れしている設定だからこそ、書いていて楽しいのだ。現代の日本での生活に刺激が足りない、面白みがない、NPC感が強いと感じている俺からすれば、圧倒的主人公感のあるキャラに感情移入し、妄想をしている方が何倍も生きていると感じる。
そう、俺が小説を書いている理由は自己満足。こんな作品を読んでくれている読者様には感謝しているが、小説家として有名になることが目的ではない。妄想の中により入りやすくするために小説を書いていると言っていいだろう。
もちろん完成までのプロットは出来ていない。俺がやろうと思った事をそのまま文字に表し、世界に入り込む。
そんな時間が丸々3日間もあるのだ。ウキウキするのは止められない。
5時間程経っただろうか。1話を書き終えた俺は妄想の中から意識を帰還させ首を鳴らす。一心不乱に画面を睨みながら文字を打っていたため目がしょぼしょぼする。しかし不思議と不快には感じない。あるのは満足感。
そのまま疲労が押し寄せ意識が薄れる。また明日もある。そう言い聞かせベットへと倒れ込む。そして、意識が完全に途切れる直前、機械音が頭の中で響く。
『レイド・トリップにログインします。』
さっき書いていた作品名じゃないか。そう思ったのと同時に意識が途絶えた。
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