二.
そうして訪れたまではいいが村は寂しい所だった。
寂しいどころじゃないな。廃れている、荒れている、地の果て。まあそんなところだ。
都と違い気を紛らわすような場所もない。屋台も芝居小屋も、女を買う場所も。
すぐに退屈しそうだ、と俺はふんと鼻を鳴らす。
まず人がそもそも歩いていない。田や畑が不作になる度、きっと多くのものが飢えて死ぬのだろう。田舎の、このような鄙びた地では何も珍しいことではない。
解決するのは実りのいい植物や効率のいい農作業の方法が確立される、もっと先の話なんだろうな。たぶん。
さて、呪術師とやらはどこにいるのか。
俺は辺りを見回すがそれらしき社や祠の類は見当たらない。
人家にそれとなく探りを入れてみるか、と思った時だった。
何かが視界をよぎった。
つと歩みを止めて見てみると、ふわふわと糸のようなものが目に留まる。
一瞬見間違いと思ったがどうやらそれは幻術の類のようだった。同じようなものを都の陰陽師の家に仕えていたとき見たことがあったのだ。
どこまで伸びているかはわからないがそれは道しるべのように一定方向に続いてい た。
ふむ。何かは分からないが俺はその糸について歩いて行ってみることにした。
道に案内がないというのもあるが。
そちらからは何か惹きつけられるような匂いがしたのだ。
花のような。木の実のような。
何かとても懐かしい香りが。
糸はあるところでふつりと途切れるように終わった。
途中から距離を稼ぐためか宙に巡らすのをやめて地を這うそれを下ばかり見て追ってきたので首が疲れた。
顔を上げると堅牢な小屋のような造りの建物が建っている。
それは大きい屋敷の別棟の建物であるようだった。大きい建物のほうは使用人が沢山いることからこの村の有力者か何かだろう。
近付いてとくと見てみると檻のような柵に囲まれた部屋があった。
俺は以前にもそれを見たことがあった。それは都でのことだが、地主が愛人を囲っていた建物によく似ている。
座敷牢。
そう、その時はそのように呼ばれていた。もちろんその意味するところぐらいは俺にだって分かる。
なんだ。呪術師は村人に祀られているというよりはむしろ。
囲われ、畏まられ。
囚われているのか。
俺は建物に足を踏み入れようとして、ところてんの壁に突き入れたかのように見えない力に弾かれた。
顔をしかめる。
人がいるようだ。おそらくはその呪術師だろうが。
人がいる場所には招きに応じられなければ入ることができない。
鬼の呪いのような特性だ。
「誰」
その時、中から声がした。
細い人影が、中から俺を見て目を丸くする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます