13.

「これは猟だ」


 俺は村雨が言った言葉を思い出していた。

 先ほどの言葉をもっと真剣に受け取っておくべきだったのだろう。

 おそらく奴にはここで起こっていることがある程度読めていたのだ。なのに俺はきちんと話を聞かないまま勝手に一歩を踏み出して勝手に敵の策中にはまった。思惑通り、柵の中に収まったというべきだろうか。

 近頃は考えるより先に行動しろ、行動力が第一というやつが多いが所詮それもケースバイケース。一長一短なのだ。

 考えずに動けば怪我をする。傷ついて、時には自分だけではなく誰かを傷つける。

 そんな小学生でも知っているようなことを、何かにつけて学ばない俺は意識のはざまで考える。



 目が覚めて俺は激しい酩酊感のようなものを感じた。

 視界がぐるぐると回転して、目眩がする。

 おそらく貧血のためだろうと思ったのだが、そうではないことに時をおかずして気付いた。

 俺がいるのはおそらく屋上だろう開けた空間だった。だが、そこには四方を壁で囲まれているような妙な閉塞感がある。

 それもそのはず、ただ空があるだけのはずの場所にぐるぐると渦巻く壁がうねっているのだ。

 目を逸らし、俺は自分が拘束されていることに気付く。

 椅子のようなものに縛りつけられていた。

 またかよ。緊張感のない感想だが拘束プレイが好きな奴みたいな妙なキャラクター性がつかなきゃいいんだがな、と明らかに余計なことを思う。


「お兄ちゃん、おはよう。朝じゃないけどね」


 クスクスと笑いながらそんな声が聞こえていた。


「春野……」

「ねえお兄ちゃんには永遠に朝は来ないんだよ?ねえだからもっと残念そうな顔をして。もっと怖がった顔をして。もっとぜつぼうした顔を、私に見せて?」


 奇妙なものを見ている感覚。

 裏と表のように。どっちが虚言うそでどっちが真実ほんとうなのか俺には見分けがつかない。

 先ほどとまるで違う様子の少女を見て、俺は言う。


「……そうか。ここの元凶はお前か」


 少女は一瞬俺の反応に訝るような顔をした後、頷く。


「そうだよ。あれ、全然驚いてないね。いつから気付いてたの。ここは私のためのなんでも願いを叶えてくれる場所なんだから」


 お前こそ気付いているのか。

 俺は口を開いて言おうとした言葉を飲み込んで、いったん口をつぐんだ。

 だが、もう一度口を開く。

 言わずには終われない。もうすでに終わっているとも言える物語を、俺は今度こそ終わらさなければならないのだ。

 それが今回の『始末』。

『始末屋』である、俺の仕事。


「お前こそ、気付いているのかよ」


 春野の顔を見る。

 それは、現実は残酷だという話で。

 ある意味ありふれたただの事実だ。

 俺は、告げる。


「お前もう死んでいるんだぜ」

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