水銀色の台所

水銀色に染まった台所で、カップ焼そばを作って食べる。眼球を転がすと、街が生きている。

夜景は誰かの長時間労働の末に作られる現代のアート。あるいは、プロテクト。

けれど、誰にも顧みられずに消えていく。銀河は目の前にある。人工的な、箱庭状に縮小された銀河群が窓の向こうに。

立ったまま、カップ焼そばを食べる。下腹には次第に脂肪が蓄えられてゆく。それは、そのまま私の生の長さを表している。人は生き続けることで、肥り続ける。そうならないように、我と我が精神とを苛め抜く人が賞賛される。

こうやって、カップ焼そばを食べることは誰だってやっている。それが朝であろうと、夜中であろうと、地球上ではカップ焼そばを独りで食べることはごく当たり前のことだ。

脂が真っ白なシャツに広がって、精神病の人が黄昏時に示すような、不穏の予兆みたいに見えてくる。

下腹がふっくらとする。筋肉の繊維が次第に緩くなって、内臓が落っこちるのだ。私はこの体が向ける凡ゆるものについて、考える。大量生産された既製品を摂りながら、私固有の精神について考える。

たとえば、愛や家族や未来について。

私の愛は決して実をつけない。実をつける愛を、私決して愛せない。今日声をかけて、明け方には追い出した女の子の、真っ白な喉笛を思い出す。

避妊なんてしたことがない、と言うと大抵の人は嫌な顔をする。けれど、避妊をする必要がない人たちとしか関係を持つことが出来ないからだ、と言えば彼らは次にどんな顔をするだろう。

これは特別なことで、当たり前なこと。

夜中のカップ焼そばが、特別であって当たり前であるのと、同じように。オーダーメイドで、文化的で、プリミディヴで、大量生産で、既製品であるように。

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