鏡像

私はラ・トゥールの蝋燭に、内省の色を見る。

頬杖をついたマグダラのマリア。

彼女が見つめるのは、蝋燭でもなく自らの豊満な女でもなく、生であり性である。

ラ・トゥールの灯りは、内省の灯りである。精神の鏡に映る自らの顔である。

私はラ・トゥールの蝋燭の向こう側に、それを見ようとする。



バッハの音楽は、内省の音である。

鬱蒼とした、ゲルマンの森。

屈折から立ち昇るのは、メランコリアと自己否定ばかりではなく、静かな対話である。

バッハの音楽は、内省の音である。精神の鏡に映る自らの顔である。

私はバッハの音の向こう側に、それを見ようとする。



うまくいかないことがあると、棚の奥に仕舞い込んだウヰスキーを、舐める。

口内で弾けて、喉が焼ける。

それが、生の不器用さである。

血管が浮腫んで、目を回す。

そこでは、ラ・トゥールの蝋燭も、バッハの音楽も見れやしない。


ウヰスキーを舐める。

ウヰスキーを舐める。


ラ・トゥール……。

バッハ……。




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