本当に美しいのは……

本当に美しいのは、星空なんだろう。


そのことに気づく前に、わたしは夜景を美しいと思った。それから、はたと気がついた。

多分なにかを亡くしてしまっただろう。


夜景の美しさとは、誰かの労働で成り立っている。


あの電燈のひとつひとつは誰かの時間と人生を削って点っているのだ。それを弱い眼で、美しいと思うこと。それは共犯だ。

誰かがわたしの背中を押して、わたしの背丈を追い越して、誰かが遠くでわたしを呼んでいる。

そこにひとつひとつ名前をつける前に、わたしは夜景を美しいと思ってみる。

人類が闇を怖れて、闇を削るまま生きてきたことに思いを馳せる。

だから、電燈を美しいと思うことをそのままにしておこうとする。



誰かがわたしの背中を押して、わたしの背丈を追い越して、誰かが遠くでわたしを呼んでいる。

なにかがわたしを哀しくさせて、怒らせて、怖がらせて、最後に楽しませていく。

それを、誰もいちいち気にかけない。

そのままにして、過ぎていく。

わたしはたまに、本当の夜を見ようとする。

街の灯りでない、明かりを見ようとする。

でもそれはすぐに消えて、飛んでいく。一晩灯る、蛍の命のように。



わたしはすぐに忘れて、電燈を、夜景を美しいと思う。

そしてたまに、本当に美しいのは星空なんだけどなと、気まぐれに悩む。

そうやって、今も歩き続けている。

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