水際
わたしたちの受難もいつかは実を結んで、空の彼方に、星空の彼方に消えてゆくことでしょう。
それまで、何をしましょうか。
何を言いましょうか。
何を与え合いましょうか。
何を分かち合いましょうか。
幸せ、歓び、愛や信じることですか。
たった一つの祈りと、この受難を、できれば分かち合いましょう。
不幸、嘆き、憎悪と不信の種をともに、せめて半分にしていきましょう。
文字は誰のためにあるのか、考えたことはありますか。
音楽は誰のためにあるのか、考えたことはありますか。
神は誰のためにおられるのか、考えたことはありますか。
そして、その誰かは本当に存在するのか信じたことはありますか。
何か言えることはあるでしょうか。
何かを与え合うことはできるでしょうか。
何かを分かち合うことはできるでしょうか。
たった一つの祈りと、この受難を、できれば分かち合いましょう。
不幸、嘆き、憎悪と不信の種をともに、せめて半分にしていきましょう。
船は出てゆきます。
あなたとわたし、どちらか一人しか乗れません。二人では、重すぎるから。
どうか振り返らず、焦らず、乗っておゆきなさい。
それが、わたしたちの受難です。
もしも、果てまで二人で舟に乗ってゆけたとしても、いつか必ず降りなければならない刻が来ますから。
いつか必ずわたしたちのどちらかが、この舟を降りなければならない刻が来るのですから。
これがわたしたちの受難です。
それでも、どうかそこまで来てほしい。
せめて、水際まで。
もしも果てまで、ともに舟を漕いでゆけたとしても、いつか必ず降りなければならない刻が来ます。
それが、わたしたちの受難です。
もしも果てまで、ともに凡ゆるものを与え合い、分かち合えたとしても、いつか必ず水際を挟まなければならない刻が来ます。
これが、わたしたちの受難です。
わたしの受難です。
あなたの受難です。
今は振り返らず、焦らず、知らずにおゆきなさい。
あなたの舟を、そのまま知らずに乗っておゆきなさい。
わたしが、不幸と嘆きと不信と憎悪を半分抱えて、あなたの舟が沈まないように軽くしますから。
いつか、揺らぐ水面が落ち着くように、波が止まるように祈って、見送ってゆきましょう。
水際まで、静かに。
わたしたちの受難もいつかは実を結んで、空の彼方に、星空の彼方に消えてゆくことでしょう。
ただ今だけは、いつか揺らぐ水面が落ち着くように、波が止まるように祈って、あなたを見送ってゆきましょう。
いつか、知る刻は必ず来ますから。
必ず来てしまいますから。
この受難もいつかは実を結んで、空の彼方に、星空の彼方に消えてゆくでしょうから。
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