輪郭Ⅱ

例えば、灯りを消して風呂に浸かること。窓から差し込む僅かな光に反射する水滴の煌めきを、本当の銀河だと、信じてみること。

見上げた天井を無数の星屑だと、信じてみること。


誰か1人の人を信じてみること。

愛してみること、憎んでみること。


目を閉じてみると、小さな四角があるだけでした。

目を開けても、小さな四角があるだけでした。

その中を、濡れた蟻んこが這い回っているだけでした。

さらにその上に、濡れた銀河があるだけでした。

そして、さらにその上には濡れた神さまがいるだけでした。


誰か1人の人を信じてみること。

愛してみること、憎んでみること。


星屑の彼方にも、私と同じ誰かがいること、いるだろうと夢想すること、願ってみること。

私も星たちと同じこと、同じだろうと夢想すること、願ってみること。


小さな四角の中で、祈ってみること。

私の人生が、この小さな四角の中で流転していくことを、知ること。

不幸せだということ。

不愉快だということ。

哀しいということ。

憎いということ。

愛しいということ。

楽しいということ。

幸せだと、いうこと。

守られているということ。


小さな四角の中で、誰か1人の人を信じてみること。

愛してみること、憎んでみること。

濡れた這い回る蟻んこを、見下ろしてみること。

顔を上げて、星空を見てみること。

その上に佇む、大きく広い別の誰かと、目を合わせようとすること。


目を閉じてみると、小さな四角があるだけでした。

目を開けても、小さな四角があるだけでした。


例えば、灯りを消して風呂に浸かること……

窓から差し込む僅かな光に反射する水滴の煌めきを、本当の銀河だと、信じてみること……

見上げた天井を無数の星屑だと、信じてみること……

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