光を抱きたい
わたしを呼ぶ声がする。
いつも、胸のどこか奥から。
心が踊るような、
すべてに優しくなれるような、
美しい夢と世界を見たい。
わたしの知った哀しみは、
知ることになるだろう痛みは、
数えきれないけれど、
数えたこともないけれど、
それでも、怖くない。
この涙の向こうがわで、
きっと、光に出会えるから。
何度間違えても、
あやまちを侵しても、
世界はそのままでいる。
見上げるたびにただ思う。
空は誰の上でも、同じままでいる。
あの青さの、本当の青さを知る。
この途の先を、見たことはない。
見た人は、永遠に帰ってはこない。
それでも、誓いを立てることはできる。
わたしの両手でも、この美しい世界を抱けますように。
終わりを迎える刻が、
必ずやって来る。
その刻に、わたしの胸は静かなままいられるだろうか。
泣かないままでいられるだろうか。
すべてが零になるあの瞬間に、
耳をすませることができるだろうか。
こうやって生きることが、
生き続けることが、
死に向かうための運命が
死の瞬間が、
不思議だ。
それなのに、誰もそのことを教えてくれない。
当たり前だと笑って、
振り返ることもなく、
手を取ってくれることもなく、
この途を、行き先のわからない途を、歩き続けてゆく。
みんな、みんな同じ途を歩いてゆく。
あの花も、この風も、ここにいるわたしも、あそこにいる人たちも、もう会えなくなった人たちも、
みんな、みんな同じ。
わたしを呼ぶ声がする。
いつも、何度でも、胸の奥から。
美しい夢をこの声で聞かせたい。
この指で描きたい。
確かにわたしがいたことを、壊されないように、傷つけないように、
ここに、世界に残してゆきたい。
哀しみをすべて並べるには、まだ早い。
ただ、そっと歌い続けよう。
誰のことも壊さないように、
傷つけないように、
いつも、いつまでも、何度でも、
世界で一番優しい音で、声で、
歌おう。
いつかわたしが零に戻るあの刻、
この思い出の中に、両手の中に、
いつも忘れずにいたものは、人たちは、変わらずにいてくれるだろうか。
忘れたくない、忘れられない、
あの囁きを、聞きながら消えてゆきたい。
誰も壊さず、壊されず、
誰も傷つけず、傷つかずに。
たとえこの瞳が、
こなごなに砕かれたとしても、
鏡のうえに新しい世界がうつるように、
新しい世界を、わたしも映したい。
また新たにはじまりが告げられる刻に、
終わりの刻と同じように、
わたしは静かなままでいられるだろうか。
一度零になった身体は、
再び充たされてゆくのだろうか。
あぁ、そのためにのみ
わたしは間違え、あやまちを侵したい。
空は誰の上でも、同じままでいる。
あの青さの、本当の青さを知る。
哀しみも、歓びも、同じように抱いたまま光を抱きたい。
誰の手の中にもない、
神様さえ知らないような、
光と静けさを、
この両手に抱きたい。
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