再び巨塊がらみ 調査の現場まで
まだセレナ達は移動中と思われる、セレナ達が出発してからの三日間は店主達も特に心配することもなく、普段と変わらない日常を過ごしていた。
セレナは時折、『法具店アマミ』で仕事をする傍ら、冒険者としての仕事を何日か泊りがけですることもあり、冒険者の常連客からも特に不審に思われることもなかった。
一方セレナは懐かしい面々と顔を合わせていた。
調査団は大まかに分けて掘削作業担当と調査担当の二分野に分けられている。
セレナはもちろん調査担当だが、同じ担当に配属された者の中には、セレナと共に洞窟調査に向かい、ともに意識不明に陥った二人の職員と、店主が初めて法王と対面したときに随伴していた国の役人二名もいた。
初対面よりははるかに気心が知れている。長い時間を要せず打ち解けあい、今回の計画の話の打ち合わせを万全に進めていた。
「巨塊にたどり着くまでの掘削して出てきた瓦礫とかも外に運び出す通路も必要だと思うんだけど?」
「さすがセレナさん。そうなんですよ。ただ進んでいくよりも三倍は時間はかかるでしょうね。けど掘削作業担当の人数は、普通の作業よりも多いです。瓦礫を外に運び出した作業員には、そのまま外でしばらく休んでもらいます。入れ違いで休憩を終えた作業員がその作業員の代わりに入るようなローテーションで」
「休憩時間を多くとってもらうには、休憩中に仕事をする作業員の人数が多くすればいいだけのことですからね。巨塊が襲う対象が我々ではなく彼らである可能性もあります」
「自らの安全確保も大事なんですが、彼らを守る仕事も我々の役目になります。調査だけじゃありませんから多方面に気を向ける必要があるんですよ」
「武力はもちろん知力もないと調査は出来ませんし、魔力にも長けてないと彼らを守ることも同時にできませんからね」
自分に白羽の矢が立ったのはそのためかと納得するセレナ。
その理由が、ただ巨塊を見たことがあるということばかりではないことに納得する。
しかし納得できない部分もある。
「確かに単独冒険者十傑(アローン・テンポイント)に入ってるんだけど、だからといって必ずしも魔力が高い、魔術が得意ってわけじゃないわよ?」
元々セレナは武器を使用する武闘派で、魔術の方も扱えるということだけで、魔力に頼る考えは、実はあまりない。
とは言っても、冒険者チームの上位二十チームに入る者達に引けを取らないどころか上回る魔力、魔術を有してはいる。
「またまた。いろいろ武勇伝は聞いてますよ」
「でもそう考えると……我々がこうやっていろんな役職就く前からセレナさんはご活躍されてるんですよね……。それでも我々よりお若く見える……」
「見える? まぁ年齢を考えるとそれは正しい表現でしょうけどねー」
笑顔は変えないまま額に青筋を立てるセレナ。
調査員達にとってそんなセレナは、現状では巨塊よりも恐ろしい存在に見えた。
「お、お前、セレナさんに謝れよ」
「謝ったら、俺の言うこと否定することになるだろ? 若く見えないってことになっちまうだろ」
「物の言いようで何とかしろよ」
「とにかく謝れっ。早くしないと竜車の中が血の海になっちまうぞっ」
「あんたたち……」
「「「「ひっ」」」」
「私を何だと思ってんのよ……」
ツッコミ役がいないと、簡単に変えられる雰囲気もなかなか変えられないものである。
バルダー村に到着したのは、誰もが予想した通り三日目の夜。
騎士団の竜車の集団と別れ、調査計画の竜車三台は洞窟前に到着。
宝石の乱獲により落盤事故の可能性が高くなった洞窟内。非常に危険な場所となり、洞窟内ばかりではなくその周辺も国の役人など以外は立ち入り禁止となった。
つまり、村で見ることは珍しい竜車の存在も誰に見られることもない。
村の中で食事をすると、そこから調査の噂が流れてしまう。
洞窟前で調査団全員が夕食を兼ねた懇親会が始まる。
掘削作業と調査。役割分担ははっきりと分かれている。
分かれている分、分裂もしやすい。しかし分裂してしまっては、場合によっては命の危険もはらんでしまう。
懇親会を始める前にウルヴェスはそのことを伝えて釘を刺す。
あとは、調査団全員にこの場を任せる。
自分がいては、全員が委縮するだろうという計らいであった。
とは言っても彼らは結局のところ公務員であり、皇居内や庁内で何度か顔は見る間柄である。
むしろ、唯一の民間人であるセレナの歓迎会の色が強い。
セレナもセレナで、普段からしょっちゅうウルヴェスと会話をしたりはするものの、この場ではさすがに立場が違う。
ウルヴェスではないが、護衛の対象の相棒ではなく、法王から依頼を受けた者という立場をてっていしなければならないだろうと考え、その場の流れに身を任せる。
翌日から始まる調査に向けて、現場では外面内面共に準備が整えられていった。
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