再び巨塊がらみ いってきまーす

 巨塊と呼ばれていた魔物は、もはや人くらいの大きさになっているのではないかという事前の調査結果が出ていた。

 もはや巨塊と言われる大きさではないが、便宜上その呼称を続ける公式発表があり、さらに詳細に調査するために新たに調査団を結成。セレナもそのメンバーに入る。


「もう俺がお前にできるのは、帰ってきた時の飯と風呂の準備ぐれぇだ。どうも嫌な予感……違うな。妄想だ。バッドエンドな妄想が簡単に頭に浮かぶ。まぁこれまでの経験上、俺が望まない結果が簡単に頭に浮かぶ妄想は百パーセント外れるから、ある意味心配はしてないが」


「ややこしいこと言わないでくださいよ、テンシュさん。でもセレナさんも気を付けて行ってらっしゃい。出発は今日ですけど、現地集合なのかしら?」


 店主とシエラが『法具店アマミ』の入り口でセレナを見送るところである。

 国が用意した馬車に乗り、皇居まで移動。皇居から竜車で調査団全員が出発する。意外なことに、ウルヴェスも同行するという。


「それで片方が来てるのね」


 ウルヴェスはいずれ法王の座から退く。それを見据えて後継者を育てているのだが、その候補者は二人。

 そのうちの一人、ライリー=デュマーが来ていた。早朝の勉強会に参加する子供らの最年長とそんなに変わりはない風貌だが、有する魔力はセレナと肩を並べるほど。


「法王様はしょっちゅう外に出られるからなぜかと思ってたんですが、昨日初めて理由を聞きました。何といいますか、えー、いろいろとご迷惑を……」


「別にお前が悪いわけじゃねぇよ。極力大人しくしてるからお前さんにはあまり苦労かけさせないつもりだ。その分ウルヴェスの奴に苦労してもらおうか」


 店主は冗談のつもりだったが、ライリーは神妙にしている。


「で、竜車ってことだけでもちょっと目立つのに、何台もバルダー村に向かうんでしょ? 内緒の調査のはずなのに意味ないんじゃない?」


「いえ、国の境界線沿いの地域には時々治安のために国軍兵士を派遣することがありますから。実際軍隊も移動します。もっとも洞窟に警備をかけるわけにはいきませんから、秘密の調査であることには変わりありません」


 ライリーからの説明で、余計な心配をする必要もなくなった。

 仕事以外で心配する材料は、あとは村民の知り合いと会った時の気まずさくらいか。

 しかしいちいちあれこれ考えていてはきりがない。

 何より出発の時間も近づいてきている。


「じゃ、そろそろ行ってくるわね」


「行ってらっしゃい、セレナさん」


「あ、一つ忘れてた」


「何? テンシュ」


 馬車に乗り込もうとするセレナは店主を見る。


「……ぬいぐるみ、必要ないか?」


「いるわけないじゃないっ! 仕事に出かけるのよ? 全くもうっ! 変なところに気をまわしすぎっ。いつものテンシュじゃないよね? こっちが心配しちゃうじゃない。じゃ、行ってくるからねっ」


 店主に背中を向けるセレナの表情は、完全に仕事モードに入る。見送る三人に馬車の中から手をかざしてそれに答えると、セレナは進行方向に向けてまっすぐ見据えた。


 やがて馬車の姿が見えなくなる。

 三人は店に入り、それぞれの仕事と役目にかかる。


 調査の期限はなし。

 巨塊の正確な大きさや力量。能力などが判明するまで。

 ただし巨塊に襲われた時点で調査の期間は終了。それと同時に即時撤退である。


「ま、巨塊が無抵抗なら往復期間も含めて十日もありゃ釣りが出るだろ」


「戻るときは通話機などで知らせるって話でしたけど」


「テレパシーみたいな力はないのかね。魔法が使えるっつっても、全部が全部都合がいいようにはいかないか」


「テレパシーって言うと、思念による会話ですかね? あれば便利ですけど、受信する側にも相応な力がないと難しいでしょうね」


 だろうな。

 店主はそういうと、もう一時間もすれば集まってくる子供達の相手をする準備を始めた。

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