新天地 鳥が飛び去った後の濁りは 後

 天流法国の皇居の玉座の間では、法王ウルヴェスがこの上ない悩ましい顔をしている。

 巨塊討伐の二回目失敗の報告を受けた時よりも深刻な面持ち。

 ライリーとホールスが、『法具店アマミ』の建物解体の報告をした直後のウルヴェスの表情を見ての二人の素直な感想である。


「戻ってくるとは思ってはいなかった。それについては特に何も思うところはないのだが、探す手掛かりがまったくないのがな……」


「……友達が出来ると思ってたのに……」


「……権力者にはすり寄って来る者は多いですが、寄り付こうとしない者と仲良くなるのは難しいものなんですね……」


 ライリーとホールスの心から零れた言葉にその表情を変えるウルヴェス。

 二人に店主との接触を推奨した理由は社会勉強の一環としてである。しかし彼らの気持ちも分からないではない。

 だからこそそんな二人を見て、ウルヴェスは心に痛みを感じた。


「……二人には人事異動を言い渡す。ライリー=デュマー。今日から……十日後か、首都内巡回役に配属。ホールス=エイナ。お前には……来月だな。同じく首都内巡回役とする」


「十日後……ですか」


「私は来月……? あ」


「「誕生日だ!」」


「うむ。年齢の一年の節目。心機一転、気持ちを新たに職に励むがいい」


 急に人事の事を口にする法王を一瞬不思議がるも、町中の見回りならば自由に動ける。

 しかし。


「でもどうして首都なんです?」


「テンシュさんはどこに行ったかも分からないのに……」


 ウルヴェスはそれには答えない。

 もちろんその理由となる根拠はある。しかし口に出したことでどこからどのようにこの人事が広まるかが分からない以上、この二人の社会勉強ということを通す方がメリットは大きい。

 そしてその沈黙は、二人に自分らの質問は身の程をわきまえない言葉と知らしめた。

 法王からの口頭での辞令を受け、二人は現在の自分達の任務である案内役に戻る。


「彼との関わりはすべて非公式。それゆえ頼りになる部分もあるが、こういう時に私が自ら動く理由が見つからないのが残念でならんな……」


 一人になったウルヴェスが、今店主のために出来ることは、行き場のない悔やみの言葉を並べるだけが精いっぱいであった。


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 皇居内某所にて。


「村でのあの店からは手を退いたようだな。……何を笑っている、アムベス」


「何、ちょっとしたことであやつの居場所を予測できたのでな。そんな話は今更聞いても驚かん」


「……ならばすぐにでも動くべきではないのか? お前もそう言っていたではないか」


「今はまだ予測の段階。確認してもすぐには動かん。向こうもすぐには再び行方をくらますことも出来まい。それに忘れてはならぬことは、猊下にあの男と接触させぬようにすること。猊下よりも先にあの男の居場所を把握できればそれでいい。もっとも私も動く準備を整わねばなならんがな」


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