法王のジジィが日本文化の道具作製を依頼した先は宝石職人 3
日本の碁盤がこの世界にもあった。
厳密に言えば、若干違うところもあるし、その競技の呼び名も違う。
果たしてそのルールはどうか。
「ルールが一致するかどうかを確かめればいいんでしょ? ハンデなしでやってみようよ。私白にする」
セレナがそう言いながらこのゲームに使用する片方に手を伸ばす。
「……俺先に打っていいってことでいいな?」
「え?」
「ん?」
セレナの驚きの声に反応する店主。
いきなりルールの相違点が見つかる。
先手は黒。
碁の決まりである。ちなみにオセロも黒が先。チェスは白が先手になる。
店主は碁の説明を始める。
セレナばかりではなく、ウルヴェスも興味深く聞き入っている。
「まぁそういうことで始めるぞ。ルールも同じみたいだし、お遊び程度なら楽しめるか。だが星がないのがちょっとな」
「星?」
「……いちいち説明しながら進めるのかよ……面倒くせえな」
店主は顔をしかめながらセレナとの対局を始めた。
ルールはほぼ同じようで、対局中の混乱はほとんどない。
実力の差はあったようで、店主が圧倒的優位。
しかし勝負とは無関係の、ルールや用語などを確認しながらの対局である。
三十分もしないうちに終了となった。
「実戦も特に問題なかったな。実力差はあったようだが……」
「用語の呼び名は違ったよね」
いつの間にか注文していた昼食が運び込まれている。
食事と一緒に討論も始まる。
「この競技の名前をどうまとめるかだ。統一しないままってのは」
「テンシュ殿の世界の呼び名で行こうかの。不公平が絶対にないからの」
ウルヴェスが即答。しかしいきなり日本式の用語を持ち出すのも後々問題が起こりはしないかと心配する店主。
「それもどうかとは思うが……。んじゃ碁で。その方が俺にとっても正直やりやすいしな。で、その碁盤と碁石の作製を何であんたが誰かに頼む立場なのかってことだ」
「国主杯、と呼ばれる大会があってな。国の王たる立場の者がその大会の優勝者を称えるんじゃよ」
「その褒美に?」
「それもある。が、理由はそればかりではない。木材はやがて朽ちる。道具もあちこち壊れていく」
「普及したくても道具がなきゃ何ともならない。紙に書いても盤は作れる。だが消したり書いたりじゃとてもゲームに集中できない。滅多に壊れることのない道具がたくさんあれば普及も進む。となると、なぜ法王さんがそのゲームを広めたいかってことが疑問なんだが……」
「才能ある者の発掘、人材登用。これはさっきも言うたよな? 得することはあるが損することはない。国が支援するのは当然のこと。そしてそのような考え方を皇族や王側にも定着させるためじゃ」
「自分をそんな考えを根付かせるための礎とする、と?」
「ま、そんなもんじゃ」
ウルヴェスの返事に、そのような考えは国を繁栄させる狙いがあるから自分の立場は当然そうなるという意思が込められているを感じる。
自分は本来今のような立場にあるべき存在ではない。
そんな、我が身の引き際時が来るのを待ちわびているような思いも、店主には同時に感じられた。
「国一番の権力を、次の物に引き継ぐまでのつなぎ役、か。苦労性だな、ジジィ」
「なぁに、そうでもないさ。皇族の若手の何人かを側近につけた。跡継ぎが出来るのも時間の問題よ。ほっほっほ」
「そ言えばさっき、国主杯とか言ってたな。タイトル戦とかあるのか?」
「タイトル……? あ、大賞戦のこと? 国主、王座、名人、上段、歴王、新帝、総人の七大賞ね。詳しくは知らないけど、」
この世界では、タイトル戦という言葉は存在せず、代わりに大賞戦という言葉が使われていた。
「さっきも言うた通り、国主杯は国の上の立場の者が勝者を称える賞じゃ。じゃからその賞品を探しておったんじゃが」
「材料不足で他の物に目星をつけて、俺に依頼しに来たと。言っとくが俺も意外と暇じゃなかった。セレナが意外と役立たずのままってのが笑えねぇ冗談でな」
「や、役立たずって何よ!」
セレナがいきり立つ。まさか法王を前にして、自分の冒険者以外の能力を評価されるとは思わなかった。
「冒険者としては超一流でいいよ。けど店じゃ接客と雑用以外は戦力外だわ。素材の良さの見分けもつかねぇ。違う外見でも材質が同一かどうかまで見分けがつかねぇ」
「いや、そりゃテンシュ殿の目がいいんじゃよ。あまり周りの者をけなすもんじゃないぞい」
「バイトを雇えりゃ言わねぇよ、んなこと」
店主の口に物申すセレナ。
「それはテンシュの普段の態度でしょう? 『風刃隊』にあやかろうって新人たちがバイト志望に来ても、気まぐれのテンシュの態度でみんな逃げちゃう。で、他の店でバイトしてんだから」
「まぁまぁ。誰でも良いところ悪いところはあるもんじゃ。で、どうじゃろうか。受けてもらえるかの? 期間は一年。欲を言えば半年じゃが、流石にそんな短期間では無理じゃろ」
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