法王のジジィが日本文化の道具作製を依頼した先は宝石職人 4
店主は改めてその道具を見る。
いくつかのパーツに分けて作り上げるやり方なら、そんなに時間はかからない。
しかし一塊の石から完成させるとなると、時間がかかるのはその素材である。
巨塊が活発に動いていた頃は、力のある石も数多くあっただろう。
それが今では住民達にとって有り難いことに、すっかり地中深い場所で大人しくなってしまっている。
そして討伐の攻略のために作られたトンネルは、装備品の素材集めのための巨塊の残骸を採掘によりどんどん広がっていく。今では力のある大きな宝石の塊が見つかることはほとんどない。
碁盤の寸法をざっと見た。
縦五十センチ、横四十五センチ。厚さが十五センチ。床、つまり畳からてっぺんまでは、足が大体十二センチくらいとみて二十七センチ。
それ以上の大きな宝石の塊さえあれば十分作れるはずである。
しかし、色の問題がある。ガラスや『天美法具店』の前にあるトルマリンのような無色透明の盤では、目が疲れやすいのではないだろうか? 木の色彩だからこそ目に優しいのではないだろうか。
そもそもそんな宝石の塊はまだ採れるのだろうか。
あれこれと思案する店主。
「この仕事、難しいのならワシから取り下げてもいいのじゃが……」
ウルヴェスの口調は、店主に対して諦めの気持ちではなく、無理をさせるには忍びないという思いに満ちたもの。
店主はウルヴェスを見た。
この老人がこの国にどれほどの思いをもっているのだろうか。
そんなことにも頭を巡らす。
ウルヴェスとて、ただ娯楽に力を入れるだけということではないはず。
この競技を通じて人材登用しようと考えていると言った。
二度の巨塊討伐失敗による軍事力低下。作物の不作や地震の被害による住民達の疲弊。
おそらくくたびれている天流法国を建て直そうと頑張っている。
自分の力を住民に分け与えることは出来るだろう。だが建て直す意志がウルヴェス同様、住民達にもなければ、分け与える力は浪費されるばかり。
娯楽にも力を入れることで、国民に自分達も共に立ち上がる力を養うつもりでいるのだ。
そんな気概のある人物から依頼を要請されたのだ。
店主は、断る決断は決して下すべきではないと考えた。
自身は、宝石の力を知り宝石の価値を高める仕事をしている。
ウルヴェスは、国の力を知り国の価値を高めようとしている。
方向性は違っても、やろうとしていることが同じなのだ。
「ジジィ、あんたからの依頼、受ける」
「テンシュ……大丈夫なの? 冒険者達からたくさん依頼あるけど、待たせることに」
セレナは心配そうに店主を見る。
店主の視線はウルヴェスから離れない。
「人がいい性格。そう嗤ってもらって構わんぜ。手のひらで踊ってる。そう思ってもらっても構わねぇ。このジジィからの依頼を最優先にする」
「店は客からの信頼が大事って話を以前テンシュから……」
「気難しい気まぐれ店主。そう思われてんだろ? いいよそれで。後回しにしなきゃならん理由はあるさ。だが疑わしい事実が一つある。国主杯なるものが国民に知れ渡っているかどうか。一部の国民にしか知られてないとすりゃ、ちょっとヤバい橋渡ことになるが」
「それはないよ。七大賞自体国中に知られてるから」
「俺は初めて知ったぞ。お前は何で知ってた?」
「あ、うん……放映機、買っとくの忘れてた……」
「放映機? 何だそれ?」
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