交わりたくない相手と密会 6
「ちょっと……普通のお客さんじゃないのよ?」
「地べたに一緒に座って相談してくる客のどこが……あぁ、そりゃまぁ普通じゃないか。まあ俺もおんなじことしてるし、同格ということで」
店主に悩みを打ち明けているのは天流法国の法王。一国の主である。
その依頼に即座にノーを突き付ける店主に、セレナと国の役人三名の顔が青ざめ、体は硬直する。
しかしウルヴェスはそんな店主の態度どころではない。
即拒絶した理由を聞きたがる。
「俺の知ってる情報は不確かな部分が多い事と、みんなが知ってる事実に比べてはるかに少ない情報量。何の役に立つってぇの。それに俺なんかが参加したって、あんたの知識と知恵の多さにゃ焼け石に水どころじゃねぇだろ。五千年くらい生きてそうだよな。俺とおんなじ人の形はしてるが、力の源が体から溢れてるように見える。ホントの姿はもっと大きいだろ。見た者の気が狂いそうな姿してそうだが……なぁ、セレナ」
そう言われたセレナの体は一瞬震え、生唾を飲む。
「セレナですらこれだ。そしてあんたは前国王の補佐やってたんだよな? 暴君だった皇太子時代にはよく反乱軍とか起きなかったもんだと思ったんだが、そいつはあんたよりもよほど……ってわけか」
室温は決して高くない。しかし店主のこめかみから汗が流れる。
「テンシュ殿。少々話題がずれてしまったようじゃな。テンシュ殿は別の世界から来たと聞いた。となると、考え方もワシらとはかなり違うところもあるのではないか? いくら長生きして知識も知恵も蓄えられとっても、凝り固まった頭のままでは、多くの不幸を生み出す結果にしかならん」
「だがこの世界の者では思いつくことが出来ない発想は、この世界での常識から外れるということでもある。俺の世界でも、俺の考えが通用しないことも多くある。せっかく優秀な人材を見つけても、周りがその才を閉じ込めることだってある。俺の仕事に関しちゃ、俺のいる世界はまさしくそれだ。宝石の加工の仕事、なかなか充実した時間を過ごせたよ。こいつがこっちの世界に突然来るのは、こっちの世界にとっちゃおそらくかなり危険な行為だったがな」
ひょっとしたらセレナの突然の来訪は、俺がいない間に彼女が親しくなったこの老人の差し金か?
そんな疑念が店主に湧く。
しかしウルヴェスは執拗に聞きたがる。
「ならば、ここだけの話、巨塊を何とかできる方法を、思いつきでもよい。聞かせてくれんかの……」
自分だったらどうするか。
店主はそのようなことは考えたことはなかった。
しかし事故か事件か、セレナが遭遇した爆発に巻き込まれる前は無関係だった人物の一人である。
その爆発とは一体何だったのか。それについては考えなくはなかったし、二度と巻き込まれることがないための対策を立てるために知りたいと思ってはいた。
チェリムからこの国の過去の話を聞き、自分なりに推理もした。
しかしいくらここだけの話だとしても、その推理をウルヴェスに伝える義務はないし義理もない。
店主はそう言おうとしたが、かすかな殺気が自分に向けられたのを感じた。
目の前にいる老人からではない。周囲の四人からである。
目だけセレナに向けると、悲しそうな表情をしていた。
弾圧されたのは一般人だけではなかった。
冒険者や役人にもそれは及んだのか。その巨塊を討伐すれば、ようやく本当の穏やかな日々が彼らの元に戻って来る。
店主はそこまで思いを巡らせると、仕方がないという顔をして口を開き直した。
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