交わりたくない相手と密会 7
ウルヴェスから巨塊討伐の案を求められた店主。
今まで考えないでもなかったが、ウルヴェスにその発言を求められても答える義理も義務もない。
しかし巨塊退治、討伐を望んでいるのは住民ばかりではなかった。
ウルヴェスが法王の座に就く前に暴君ぶりを発揮していた皇太子。
生活が困窮していたのは住民達ばかりではなかった。
セレナですら、ここにいる国の役人ですから日々の生活においても苦しめられていたのだ。
今度こそ、この件が落着さえすれば、もう十分だろう。
この世界には無関心のままでいい。無関係でいたい。
だが、向けられた殺気よりも、殺気を飛ばすこいつらの切ない表情を見る方がつらすぎる。直視できない。
苦しんでいる者を前に、無関心でいられる素振りは出来ても、助けを求められても振り切るような性格ではなかったか。
店主は、人の情に流されるタイプではないと思っていたし、事実そうである。
しかし相手の立場や持っている力がどうであれ、自分にしかできないことがあるならば、そのことで多くの人が救われる思いをしてくれるなら。
店主は改めて自分の一面を思い知る。
そしてゆっくりと口を開く。
「巨塊の体の一部が石化する。それが天然よりもはるかに上回る力を持つ宝石になる。そのままでもいいし、加工して装飾品とかにすれば高く売れる。ここら辺の経済は間違いなく潤う。だが農業林業に適した土地が減っていると聞いた。石関係とどちらが経済的に潤うかと考えた時に、間違いなく鉱業の方が潤う。俺はそう結論付けた」
異議を唱えようとしたセレナはウルヴェスから無言で手で制される。
「加えて出さなきゃならん話題がある。地震の件だ。鉱業の現場で崖崩れや坑道封鎖なんてシャレにならねぇ。巨塊の活動を止める必要がある」
四人は大きく頷く。
「巨塊を討伐した際、その体はどうなる? それこそ現場は修羅場になるだろうな。セレナが遭遇した爆発事故なんか比べ物にならないだろうよ。そして体の至る所から命あるものを内部に取り込むっていうじゃねぇか。打つ手なしだろ、はっきり言って」
五人は店主の言葉に何も言い返すことが出来ない。
「救出作戦の時のあの洞穴もそうだ。あれだけ広いトンネルを作るのにどんだけ期間がかかった? その間に爆発が起きる可能性だってあっただろうし、意識不明事件が起きてたら工事も途中で終わってただろうに。本体を目指すにはさらに掘り下げにゃならんだろう。そして討伐でどんだけ国の軍事力と冒険者達の戦力を費やした? ……そしてどれほど浪費した? 無駄死にさせた?」
「何か……何か方法はないの?! 何でもいいから! でないと……ウィリックは……あの人は何のためにっ……」
「国民達、住民達の苦しみの声もあります。放置するわけにはいかないのです。何か……思いついたことはありませんか?」
絶叫に近いセレナの泣き声。それがやがて力尽きるように消えていく。それに続いてイヨンダの縋る声。
「……隣村の住民全員引っ越せばいいんじゃねぇか? 新たな土地を開拓する。それでいいだろ」
「それは……」
「それはできん」
イヨンダは言いよどむが、ウルヴェスは即座に否定する。
「地中の生き物の命を食らい、さらに地底の奥深くまで進む。そこで巨塊の成長が止まれば問題はないじゃろう。だが成長が続けば、地震や意識不明、爆発の現象が間違いく広がってしまう。早い段階で食い止めたいのじゃよ」
一理ある。ならばと店主は別案を出す。
しかし不確定要素が高い話を前提にした内容。店主は自分でも納得できない部分もある。
ゆえに確認する必要がある。
「……巨塊が成長する要因は何だっけ?」
「生き物を体内に取り込むことで成長していきます。その者が持つ力が大きければ大きいほど成長の度合いも大きいことは調査済みです」
イヨンダははっきりと言い切る。しかし
「……ほかに……あるんじゃねぇの? なぁ、法王さんよ。何でもかんでも情報は入って来てるんだろ? しかもここだけの話と来てる。俺ばかり話しをさせるのはフェアじゃねぇな」
「魔導師が変化した姿か魔界から呼び出した魔物かは判明せん。じゃが魔物を呼び出した呪いの結果であることは確かじゃ。その呪いの動機が皇太子をはじめとする王族への怨み辛みじゃろうな。恐らくその影響か、近くに存在する人々の同じ思いを吸い取って成長していくようじゃ」
チェリムから聞いた話が、ほぼそのままウルヴェスからも聞けた。
「初めてその話を聞いた時、そんなことがあり得るかと思ってた。だが地面を掘り下げていくほど生物は少なくなるはず。にも拘らず成長していっている話を聞いて、生物以外を成長の糧にしているとは思ってた。法王さんがそういうなら当たってるんだろうよ。ならその逆の感情で包み込めばどうなるんだろうな?」
「感情で包み込む……なかなか綺麗な言い回しをするの。しかし具体的にはどうすればいいのかさっぱり見当がつかん」
店主の言葉が止まる。
腕組みをして俯いたり、宙を向きしかめっ面で頭を掻いたりと、何かを迷っている様子。
「言うたじゃろ。ここだけの話じゃ。ワシは何を言われても腹を立てることはないし不愉快に思うこともない。泣きつきはするかもしれんがの」
店主から言葉を引き出そうと、ウルヴェスは聞きに徹する。
「具体的に、どうやればいいのかは俺でも説明はできないが……感謝祭……なんかどうだ?」
「「「感謝祭?」」」
ウルヴェス、セレナ、イヨンダが同時に店主に聞き返した。
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