休店直下 3
『法具店アマミ』に移動したワイアットと店主。
店内は立錐の余地もないくらい人が集まっている。
いかにも冒険者といういで立ちの武装した姿がほとんど。それ以外のわずかな人数は、おそらくこの店の近所の人達だろう。店主の見覚えのある者はほとんどいない。
「うざってぇな」
店主が『法具店アマミ』に到着するや否や開口一番この一言。
その一言が耳に入った者達は一斉に二人の方に視線を向ける。
店主の後ろの閉じた扉を振り向いて見ると、扉の外にも人が大勢詰めかけているのが目に入る。
「あんな下手くそな道具作って売って、なんでこんなに人気があるのやら」
この狭い店内にすし詰めになるくらいの人だかり。
そして店内に展示されている品物の、店主が一目見て分かるほどの劣悪さ。
怒りと不機嫌を混ぜ合わせて歪んだ表情で店内の周辺を見る。
こんなに大勢の者達が、彼女のどこに惹かれたのかは店主には謎である。
そう言えば冒険者業もしていたか。誰でも一つくらいは取柄はあるかと思い直す。
二人が入ってきたことに気付いたのは入口の近くにいる者達。店主には初めて見る顔ばかり。
初めて見る人物が不満を言うことに、その言葉が耳に入った者達も不愉快な思いを店主に抱く。
中には店主を睨み付ける者もいる。セレナに親愛な感情を持つ者達だろう。
「す、すいません。通してもらえますか?」
店主をカウンターの前に連れて行こうと引っ張るワイアットが、そんな周りの者達に恐縮する。
が、店主はその手を振り切る。
「まずお前らでショーケース全部壁際に寄せろ」
「え、お、俺がですか?」
「一人で出来るなら一人でやれ。こんなに人がうじゃうじゃいるとは思わなかった。まるで人がゴミ……じゃなくて、端に寄せたらいくらか隙間ができるだろ。息苦しくてかなわん」
店内でひしめいている者達それぞれが好き気勝手な会話をしている中で、ワイアットは仲間たちを呼ぶがその声は近くにいる者にしか聞こえない。
「ワイアット、どこに行ってた……って、テンシュ! 来てたのかよ! 一体今までどこに」
「ギース、すまん。ショーケース端に寄せるから手伝ってくれ」
ワイアットの呼びかけに真っ先に反応したのは長身のエルフ、ギース。しかしチーム内では目立つ身長もこの人ごみの中ではさほどではない。
そのギースの「テンシュ」の呼びかけが聞こえた者は皆店主に注目する。
誰もが訝し気に見、怪しい者を見る目つき。しかし店主はどう見られようがどう思われようが意に介せず、ワイアットとギースの作業を見るのみ。
「うぉおい。勝手なことしてんじゃねぇぞお前らぁ! 誰がそんなことしろっつったんだよぉ!」
黒い体毛で覆われた小男が二人の傍に近寄ってきた。
「お前の言うことを聞く意味が分かんねぇ。どきな。でなきゃこのショーケースで潰すぞ!」
「邪魔なんだよ! 誰がお前の言うことを聞くかっての! いい加減に……痛っ!」
ギースとワイアットが、近寄って来るギスモに言い返すが、店主がワイアットの尻に蹴りを入れた。
「ワイアット! テメェいい加減にしろよ! 無駄口叩いてんじゃねぇ! とっとと端に寄せろや! でねぇと人の出入りがままならねぇぞ!」
その店主にふてぶてしく因縁をつけるギスモ。
二人の体が、あと一歩前に進めばくっつくほど接近する。
すると突然店主が体をクの字にして床に倒れる。
「テメェまた来やがったな? 出入り禁止って言わなかったっけか? これはペナルティだ。そんでとっとと自分ちに帰んな。テメェの出る幕なんざ何処にもねぇよ」
店主の体に頭突きを食らわせにやりと笑いながら店主を見下ろすギスモ。周りにいる者がギスモの体を抑えようとするが身を翻して躱す。誰も彼を抑えるどころか触ることも出来ない。店主はギスモを睨み付ける。その額に汗がにじみ出ている。
「あ、テンシュさん。今まで何やってたんですか?! みんなホントに心配してたんですよ?」
「ようやく来てくれた! あいつの事なんか気にしなくていいのに!」
「ホントだよ! 私達はずっと待ってたんだからぁ!」
『風刃隊』のミュール、そしてウィーナとミールの双子姉妹も駆け寄り抱きつく。
それでも店主はギスモから視線を外さない。
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