客じゃない客の置き土産 8

 巨塊へ至るトンネルの中で拾った石を見た途端、態度が急変する店主。

 その説明をする店主が、その場しのぎの発言しか思えない三人。


「何かあるんでしょ、その石に。言いなさい」

「普通じゃないわよ。今までの態度と全然違うじゃない」

「ちょっとカッコいいけど」

「お姉ちゃん……」


 ウィーナの真顔での店主の好感を口にし、それを見たミーナが姉へ「趣味悪い」と言いたげな顔をする。


 店主は咳払いをしてその場を落ち着かせた。


「どっちの世界でも今まで見たことがない種類の性質が感じ取れた。これを使えば、こっちの世界限定だがかなりいろいろと役に立ちそうだなと。俺の中じゃ天然記念物クラスだからホントに驚いた。ただそれだけだ。余計な心配させてすまん。それとセレナ」


 店主の説明に疑惑の念持つセレナは、それでも店主の話に耳を傾ける。

「ちょっと込み入った仕事を頼みたい。俺がその石から粉塵を作る。それを鉄の鎖に混ぜて……練り込むというか、そんな感じの物を作ってくれないか?」


 裏があるという思いはありながらも、店主になら騙されても切り抜けられるし大それたこともできないと判断したセレナは承諾する。


「調査に協力する時間は減ってしまうかもしれん。そこは折れてくれ」


 いつもふざけた態度しかとらない店主が頭を下げてまで頼んでくる。

 そこまでしてくる店主を流石に無下には出来ない。


「いいよ。やったげる。いろいろお世話になってるんだからそれくらいはね」


 こうして翌日から彼らの長期の作業が始まった。


「鎖って言うから武器に利用するのかと思ったら、アクセサリー程度の物だったとはね。あんなに改まった態度でお願いされるから、どんだけ大掛かりな物作らされるかと思った」

 改めて説明を始めた店主は、図を書いて細かく指示を出す。

 思ったより簡単そうな仕事であることが分かり、変にかかったプレッシャーから解放されたセレナは、お安い御用、お茶の子さいさいとばかりに量産体制に入る。

 しかし肝心の石の粉塵の生産が追い付かない。


「でも耐久力度外視で、とにかく数作れって、何作る気なの?」

「内緒にするつもり? サプライズのプレゼントにしては色気が全くないんだけど」


 店主は他に針金づくりを頼むが、手間暇がかかる上時間もかかる。双子に近くの道具屋に買い物に行かせて調達は終了。しかしそれをすべて五センチくらいの長さに切り取る作業がかなり細かく面倒。


「作る物は……まぁ防具ってことになるか。シャツの形した物を作りたいんだが人によってサイズが変わる。ベストなら大概は着用できるだろ。それに壊れやすい代わりに修復しやすけりゃ安く買い求められるし修繕費もかからない。修理用のパーツを買うだけでいいんだから」


「でも粉末……だよねぇ? 手間かかりすぎない? 変わろっか? テンチョー」

「いくらお前らが力があっても、石に衝撃を与える道具の耐久力の上限に変化がないと、俺もお前らも仕事の速さは変わんねぇよ。手伝ってもらうのは針金の方が終わってからだ。とりあえず最低五着分とその修繕用のパーツは作っとかねぇとな」


「それにお姉ちゃん、肺活量も多分高いからせっかくできた粉を吸い込んじゃうかもしれないよ? なるべく店主の仕事から離れる方がいいと思う」


 設計図などはない。だが着用できる物というのは分かった。しかし三人は、それを作る目的が分からない。急ぐ理由も分からない。

 だが仕事を言われた以上バイトの立場の二人には、暇を持て余すよりは有意義な時間になる。

 加わり、双子の姉妹はバイトの一応の区切りである十日目まではその仕事につきっきりになった。


 セレナは調査員に申し出る。午前は調査、午後は鎖の製造。長さは大体二十センチ。とにかく量産。店主から出された条件はそれだけ。


 その期間中、セレナに会いに来た客が何度か来店したが、誰もが長い時間手を離すことができない。

 買い物客でなければ出直してもらい、ひたすらその作業を続ける。

 期限は双子のバイトの期間に決めたわけではないが、人手が減れば能率も下がる。

 しかしウィーナとミールの初めてのバイトの最後に日までに鎖のベストが完成したのは修繕パーツの合わせて三人分が限度だった。

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