客じゃない客の置き土産 7

 セレナが調査員二名と共に、大きな魔物『巨塊』が引き起こした爆発事故のこの日の調査を終えて『法具店アマミ』に帰って来た。


 この日の調査で得た物を店主に見せ、調査員たちからも協力を願われる店主。

 店主は拾得した石を鑑別し、その結果と感想を述べる。


 依頼客の顔と名前を覚えることに無気力な店主っぷりは健在。

 それでも作った防具については決して忘れない店主は、改めてスウォードに作った防具の解説をする。


「七種類の属性をつけたってのは、ありゃ正反対の力を持たせたんじゃなくて、正反対の力を発揮できる調整ができる能力をつけたってことだ。だがこの三つの石は正反対かもしくはそれに近い二種類の力っぽいのを宿してる。だが一つは先天性、もう一つは後天性と判断すりゃ納得はいく。だがどちらも傾向が見当たらない。七個すべての力の系列も順列もな」


 チュレガーナは力を落としながら店主に尋ねる。

「石の成り立ちまでは分からないと聞きました。その後天的な力もいつついたかまでは……」


「分からねぇ。その力も先天性に比べて限度もあるようだな。ただ石の価値だけ見ればかなり貴重だ。こいつで作った道具は、この店の中で同じ物を作ったら、俺なら一番高値で売る」


「商売の話は置いといて……ほかに何かわかること、ある?」


 店主は石を置くと、地図を手にして気の乗らない目で見つめる。

「爆発ってのは四本のトンネル全部で起きたのか?」


「はい、四か所同時で」

 ギャッカーからの答えも、店主にとってはあまり興味深い内容ではなかった。


「そういや、討伐隊ってどれくらいの人数が参加したんだ? 被害が相当あるって言ってたよな?」

「一部隊十人。それぞれのトンネルに先陣に一部隊ずつ。その後方には縦に隊列を組んだ隊が三っつ横に並び、それが七つ編成されて……」


「二百二十人ずつ四つのトンネルに……意外とトンネル広く掘ったんだな」

「えぇ。詰めれば横に七部隊くらい並べるくらいには」


 店主は二人から聞かされる話を頭の中で再現している。


「つまり中で混雑することはなかったってことか」

「さらにトンネルの入り口で待機していた部隊が、一か所に付き左右に八部隊」


「八かける八の六百四十人? 二千人足らずで国の軍事力半分以上って」

「その周囲や住民の警護や避難にも関わってますからね。住民の被害はゼロに抑えられた甲斐はありましたが」


 調査員二人からの説明を受けて納得する店主だが、今一つ頭の中で整理がつかない。


「あぁ、石の事だけで見ていただければ十分ですよ。我々の事を案じていただかなくても結構です。我々はトンネルごとに十人程度で調査を担当しますし、危ないと思われるところには絶対足を向けることはありませんしね」

「特に他に目新しい結果が出なければ、今日はそろそろ戻ります。お手数おかけしました」


「あ、あぁ……うん、まぁ、気になることがありゃまた来りゃいいさ」

「テンシュが気遣ってる……」

「明日槍が降るかも」


 ミールの言葉を聞くと店主は急に立ち上がり、調査員に危機感を煽るような口調で話しかける。


「だそうです。明日の天気は槍。盾を上にかざしながらお出かけするとよろしいかと」


「「そこ拾うの?!」」


 双子に店主がうつるのはまだだいぶ先のよう。調査員二人は苦笑いをしながらお辞儀をし退店した。


「テンシュ、今日もお土産あるよ。カウンターの上の石は採掘した物だけど、これは拾ったものだから調査の参考にはならないかなって。ならお土産になるなって思って」


 手のひらよりも大きい宝石が八個、さらにカウンターに乗せられた。

 へぇと横目で見る店主だが、一瞬にして顔色が変わる。急に立ち上がり、食い入るようにその石一つ一つを覗き込む。

 その剣幕に三人は怯える。


「な、何かあったの?」

「危険物……ならそんなに触りはしないよね?」


「あ、いや、俺の思い過ごしかもしれんが……」

 一つ一つを手に取りじっくり見る。

 そして考え込む店主のいつにないその真剣さに三人は息をのむ。


「セレナ!」

 突然立ち上がり怒鳴る店主に全員が飛び上がるほど驚く。

「な、何なのよテンシュ! いつもと違うよ? 何があったの?」

「あ、いや、調査用の石も欲しいが、こういう転がった石があったら持てるだけ持って帰ってきてほしいなと」


 その後に続く店主の言葉がありきたりの願い事。

 三人は、間違いなくその言葉に裏があるという疑念を持った。

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