嵐の副産物 2
駆け出しの冒険者チーム『風刃隊』の後方支援担当の魔術師であるウィーナとミールの双子姉妹は、バイト先である『法具店アマミ』でのトラブルに遭遇。
喧嘩を吹っかけて来た相手もまた冒険者達。
しかし、石や物の力や性質を見て触るだけで判別できる力はあるものの、区分としては一般人の店主。どう見ても荒くれの冒険者達を追い払うなど出来はしない。
しかし店主の機転のほか、その場に居合わせた『ホットライン』のメンバーや、昼の時間で調査を中断したセレナと国からの調査団の者達により、受ける被害は回避された。
店主は双子を守ることまでは考えてはいなかった。しかし、自分が作った品物や店、そして作業場を荒らされることに我慢が出来ず、店内を荒らそうとする者達の前に立ちはだかった。結果として損害はほとんど出さずに事は済んだ。
そのことで双子はショックを受ける。
結果として、冒険者が一般人に守ってもらったという事実、しかし店主は自分たちを守ったつもりはないと宣告されたため。
そして何より、トラブルのきっかけは、ウィーナとミールの種族がらみの差別発言だったのに、その言葉を放った相手は、連行時ですら二人に目もくれず、店主の方ばかり見ていた。
トラブルを引き起こした原因を作ってしまったのに、自分達とは無関係なところでその事態の収拾がついたことに二人は打ちのめされた。
「でもテンシュは無傷よね。よく立ち回れたものねぇ。相手は五人でしょ?」
そんな双子の思いまでは察することは出来ず、セレナは店主に話しかける。
「見ただけで力のある種の判別は出来るようになってきたっぽくてな。視界に入ったものの力の方向がどこからどこに行くかってのが見れるっつーか。その隙間に体を持ってけば当たらずに済むと」
冒険者の登録をしたら、これほど心強い人材はいないかもしれない。
セレナの心の中で評価した。もっともそれを口にしたところで、店主からは何の反応もないことも分かっている。この店ですら身を引こうとしているくらいなのだから。
「理論的にはそうなんだろうけど、分かるからって動けるとは違うでしょ」
「動ける範囲内で無傷で済むところを見つけりゃ問題ねぇし、避けきれなくなった俺の世界に帰ればいいこった」
「ちょっと……。それじゃ根本的な解決にならないでしょうが」
「テンシュ!」
いきなりウィーナが大声を出し立ち上がった。
突然の事で、流石に店主ものけ反る。他の二人も驚いて彼女に注目する。
「石の力が判別できるって前に言いましたよね! なのに他のことも出来るようになったんですよね?! どうしてそんなことが出来るようになったんですか?! 教えてください!」
「お、お姉ちゃん、いきなりどうしたの?」
ウィーナが興奮を抑えきれず、力も制御できなくなったらどうなるか。
一階とは違い、見るも無残な散らかりようになることを恐れたミールは一生懸命なだめようとする。
「ミール、テンシュと会ってからまだそんなに経ってないんだよ? でもテンシュの持ってる力って変化したってことじゃない? 良く言えば成長ってことよ。普通の人が急に成長してるのに、冒険者の私達はそうでもないでしょ? テンシュはそのつもりがなかったとしても、私達は店主に守ってもらったんだよ? このままでいいはずないじゃない!」
「残念だが姉ちゃんよ、俺にだってよく分からねぇよ。だからお前の参考になる話も存在しない」
ウィーナの言葉をあっさり否定する店主。
「何か特訓とか鍛錬とかしたんじゃないんですか?」
ウィーナは店主にそれでも食い下がる。
「意外とお前、正面から見ると口大きいな。俺の頭入りそうだな」
「茶化さないでください!」
テーブルに対面に座っている店主とウィーナ。店主に向かって体を乗り出して大声を出せば、店主でなくても自分が頭から齧られるような錯覚を持つのは間違いない。
「ウィーナちゃん、まず落ち着こう? ね? テンシュも何かアドバイスしてあげたら? さっきの話だと、自分の身は自分で守れってこと言ったのよね? だったら自分の言ったことに責任は持ちなさいよ。そのヒントくらいは出してあげたら? 石ばかりじゃなく、物や人の持つ力にも反応するようになったのはここに来てからよね。何か心当たりとかあるんじゃないの?」
やれやれとぼやきながら、店主は椅子の背もたれに重心をかけて、両手を頭の後ろで組む。
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