嵐の副産物 3
暗に、自分の身は自分で守れと言う店主の発言の真意を読み取ったセレナは、助言を求めるウィーナに応えるよう店主に促す。
「正直こいつらに何かを言ってやれる中身はねぇな。ただ俺の作業で一番重要なことは、石のことだった。石から俺に何かを訴えかけてきてんじゃねぇかってな。俺が感じ取れた、そいつらが持つ力ってのにも興味はあった。高い価値を持つ同じ種類でも、力の有無の差もあったりした」
店主の話が始まるとウィーナは椅子に座り直す。三人は、一旦切れた店主の次の話を待つ。
「……この世界で一番価値の高い宝石の名前は知らんが、俺にとっちゃ二束三文の価値しかねぇ物もあるだろうな。この世界の道端に落ちている石の中には、それよりも高く値をつけることもあるかもしれねぇ。おんなじ種類の石でも一つ一つでも違うんだよ、いろいろとな。見てると面白くて夢中になる。そして、こう思うんだ」
店主の顔が次第に緩む。次に出る言葉に思いを込めるせいだろう。
「誰もが目もくれない石に貴重な力があったら、いかにみんなが高額の値をつけてやれるか。俺にとっちゃ無価値な高値の宝石をいかにしてその値に近づける力を持たせられるかってな。そしたら、その石の力を引き出すために必要な物も出て来る。それをはめ込む金属板。数多くつなげる紐、糸、鎖。宝石が脇役になることもある。それらの材質を見る必要も出て来た」
「それでそんな力を持つようになったんですか?」
「知らねぇ。いつの間にか分かるようになったとしか言いようがねぇ。俺がやってきたことは、それだけだよ」
ウィーナが一番知りたい部分を詳しく聞こうとするが、暖簾に腕押し。店主の言う通り、店主の話の中に、ウィーナの期待に応えてもらえそうな内容はなかった。
セレナは、差し出がましいことを言ってしまったのを後悔。
ウィーナは、自分にとって収穫になるような話が出てくる思惑が外れて力が抜けている。
ミールはそんな姉に掛ける言葉が見つからない。
三人は黙り込む。
「お姉ちゃん、諦めよう。店主のように力を成長させるなんて無理だよ。今まで通り地道に訓練とか実戦とかやってくしかないんだよ。店主は特別なんだよ。店主は、自分の世界には魔法がないって時々言うけどさ、だからってこっちが優れてるわけじゃないんだよ。店主が出来ることは私達もできるって思ってるなら、大きな勘違いなんだよ。きっと店主をバカにしてる気持ちがあるんだよ」
ミールは喉の奥から絞ったような声でウィーナに言い聞かせる。
しかし逆に妹に怒りの感情をむき出しにした。
「……バカにするわけないでしょう! だってテンシュは、あいつらの怒りの矛先を私達から自分の方に向きを変えてくれたのよ?! 体力だって、武力だって、ましてや魔力だって敵わない相手によ?! テンシュよりも力ある者がこのままでいいはずないじゃない! 諦めるなんて、できるわけないでしょう!」
それでも妹は否定する。
そのきっかけの時点で既に店主と自分達が違っていた。
「私達には無理だよ! だってテンシュの今の話の中で、自分が成長したいなんて思いがどこにもなかったもの! 私もそうだし、お姉ちゃんも成長したいって思ってるでしょ? でもテンシュは、そうする必要があったって言ってただけ。だから多分、テンシュとは考え方が違うの……」
「お前らいつから俺を呼び捨てに」
「そういうのいいから!」
相変わらずの店主をセレナが小声で抑える。
ウィーナはミールの言葉に折れる。
冒険者として成長したい。いろんな人から信頼を得たい。障害を乗り越えたい。
目の前に、言動が人よりおかしくても成長し、信頼を得、障害を乗り越えた人物がいる。
しかし、そんな彼の関連めいた話は何の参考にもならない。
「……姉妹喧嘩はおうちでやりな。けどまだ昼休みの時間か。午後の仕事の時間までなら議論はしてもいいけどよ。んじゃ後は任せたぜ、セレナ」
「ちょっとテンシュ! 私だって午後から調査の続きがあるわよ! 二人とも、ここは切り替えてバイトを頑張ってほしいって私は思うんだけど……」
「横から口挟んでんじゃねーよ、セレナ。……午後の仕事の始まりの時間はお前ら次第だぜ、双子。んじゃな」
そう言って反応を待たずに席を立ち、一階に下りる店主。
バイトできるようになったら昼休みは終わり。店主はそんな意味合いのことを言っている。
「……テンシュってばほんっと分かりにくい事言うんだから……」
一階に下りる店主をそのまま見ていただけのセレナはため息交じりに呟いた。
「……お姉ちゃん、テンシュはさ、石の事しか考えてなかったんだって。あたし達もいろいろ考え直さないといけないと思うんだ」
「何を、どう考え直すの?」
「テンシュは石の事を考えてた。じゃああたし達はどんな事を考える? 力を伸ばすことだけじゃ足りなかったんだよ。せっかく道具作ってもらったのに、このままじゃ宝の持ち腐れだよ」
「私は……」
ウィーナはミールからの問いかけを受けながら、店主の話を反芻した。
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