嵐の副産物 1

 セレナからの昼食の誘いに、連日店に迷惑をかけた上食事の面倒まで見てもらうことで肩身が狭く感じた双子は遠慮するが、強引に二階に引っ張り込まれてなし崩しに三人での昼食が始まった。


 事の一部始終をセレナに伝えたあと、さらに気持ちが沈み込む双子。

「……でも気にしなくても大丈夫っ。あの調査員は畑違いとは言え国の職員だし、きちんと処理してくれるよ」


「……うん……でも……」

「冒険者になったけど、いつも誰かに助けてもらってばかりだなぁ……って」


「あ、二人とも、ちょっと待ってて」

 

 二人の話を途中で止めたセレナは急に立ち上がり、一階に下りる。


「セレナさん、どうしたの?」

「あぁんのバカテンシュ、また何も言わないで帰ろうとしてるのっ。ちょっとー、テンシューっ!」


 二階に残った二人は顔を見合わせる。


「下から何か聞こえた? ミール」

「全然。何で分かるんだろね、お姉ちゃん」


 そして階段の方を見て、同時に呟いた。

「「まるで夫婦だね」」


──────────────────


「ちょっと、テンシュ! テンシュってばっ!」


 セレナからの呼びかけにも応じず、出口に向かう店主。

 セレナは自動ドアの手前で店主に追いつき袖をつかむ。


「ちょっと待ちなさいよ! いきなり帰るんじゃないっ! 何とか言いなさいよ!」

「何とか」


 ここぞとばかり、満面の笑みで答える店主。


「あのねぇ……。『何とかと言いなさい』と私が言ったならそう答えてもいいでしょうけどねぇ」


 空いている手で額を押さえるセレナに店主がすかさず返す。

「じゃあ『何』」

「もういいから」


 流石の店主も、このセレナの低い声の迫力には負けた。


「仕事一区切りついたし着替えはここにはないし。ついでに飯食いに……」

「ここに来る前は朝だったんでしょ? だったらこっちで食事したらいいじゃない。テンシュのも用意してあるって言ってるでしょ!」


「俺だったら『今日は用意してないんだ。残念』って言うところだから、お前は昼飯は用意してないと思ったんでな」

「一緒にするなっ!」


 女性とは言え、兼業であっても冒険者である。

 二階まで引きずられた店主の着衣のダメージは、五人の乱入者からのものよりもセレナからの方が上だった。


「……尻に敷かれてる夫」

「ダメダメな男、そんなイメージ」

 その二人を見て、思わず本音が口から飛び出す双子。


「ほんっとにそんな感じよね、テンシュ」


 双子の後を受けてセレナからも一言。

 無理矢理椅子に座らせられた店主は口をとがらせる。


「っせぇな。で、お前ら午後もバイトすんのか?」

「え?」

「えっと……」


 二人はバイトを続ける気はあった。

 しかし仕事に集中できる心理状態ではないことは、店主からもセレナからも見て取れる。


「フン。なら言っておくか。聞かれなきゃこっちから口にすることじゃねぇし、いくらバイト先の店主だからってそんな義務もねぇけどよ」


 みんなテーブルの席についている。

 店主と双子では、座高は間違いなく双子の方が高い。

 しかし双子はなぜか、店主から見下ろされている気がした。


「俺は店主として、この店を守るって仕事もある。店主辞めたらどうなっても構わねぇけど、職人として作った物を守るっていう仕事は残る。お前は俺に守られてると思ったか? ケッ、寝言言ってんじゃねぇぞ。お前らを守る気なんざ端からねぇよ」


「ちょっとテンシュ。デリカシーなさすぎだし、守ってあげなさいよ」


 店主はセレナの呆れた声にも構わない。


「バカ言えよ。あ、言ってるか。まぁいいや。つか、なんで非力な俺から守ってもらうつもりでいるんだよ。手前てめぇの身は手前てめぇで守れや。結果として守ったことになるが、俺が守ったのはバイト二人であって、お前らじゃねぇ。当たり前だ。俺はお前らの保護者じゃねぇからな。バイトの時間外に誰かに襲われた時も守れるわきゃねぇだろうが。それにだ」


 店主は一呼吸おいて目の前にある水を飲む。


「泣いたって、いつも誰かがハンカチ貸してくれるわけじゃねぇんだぞ? 涙拭きたきゃ、手前てめぇでハンカチ取り出して拭きな」 


 二人は軽いショックを受ける。

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