休店論争 2
セレナに向かって文句を言い始めたキューリアが止まらない。
「テンシュってば、仕事中に気を散らすことをされるとすぐ機嫌悪くなって仕事止めたり、すごくどうでもいいとか面倒くさいって言ってこっちの話をまともに聞いてくれなかったり、こっちが聞き飽きるようなくだらないこと言って煙に巻こうとするし、言わなくていいことも言う。私たちがミッション終わってから私が大急ぎで店に駆けつけたのは、店が変わったって話だけ聞いたからじゃない。低いレベルのチームからの依頼も受けてるって話聞いたからよ。今まで私達みたいに力のあるチームのためだけに仕事してきたでしょう? どの道具屋も、私達に宛がわれる依頼の難易度についていける道具を扱ってないから、そんなチームのために店を出してくれた。店に並べる品数や種類は追いつかないけど、それでも私達には有り難かった。そんな店がなくなってしまったと思って、そりゃびっくりしたわよ。店に行ったら怪しげな男が一人いただけだったし」
好き放題、言われ放題の店主は、文句の一つも言いに行こうとも思うが、いつまたあの剣幕のやり取りが来るかと思うとなかなか出ていけない。言葉が区切られて静かさが訪れた一瞬に店主の腹の虫が鳴るが、それすら誰も気付かない。
「あんたがどっかに消えてしまったって思ったわよ。実際どっかに行っちゃって、それで戻って来れたのはテンシュのおかげだって言うし、あんたにない力持ってるって言うし。怪しい男って思ったけど、それってあんたの恩人ってことじゃん。その恩人に私はあんな態度とって……。いくらテンシュが気にしてないって言っても、私の自己嫌悪はしばらく止まらないわよ!」
キューリアはそう言いながら顔を両手で隠す。ブレイドはそんな彼女をなだめるが、彼女の話は終わらない。
「口先ではあんなに気まぐれで投げやりな、適当なことばかり口にしてるのに、しっかり仕事はしてるみたいだし。それにあの人、ただ物作って終わりじゃないじゃん。私らがどう行動するかってことを見てから作り始めてたじゃん」
店主は顔を何度も横に振りながら手のひらを横に向けて左右に動かす。キューリアの最初の「口先では」は余計だというようにジェスチャーをする。
もちろん誰からも気付いてもらえないし、気付いてもらうつもりもないようだ。
「テンシュからもあんたからも、こっちで日を跨ぐのを嫌がってるって話聞いたよ。だけど……ウィリックとあんたがここで二人っきりでいた時に、時々下まであんたのすすり泣く声をテンシュと一緒に聞いてたんだけど?」
「私だって泣くくらいするわよ! 悪い?!」
「テンシュも聞いてたって言ってるでしょ? 言ってて気づかない?」
「どういうことよ!」
「……私たちみんなが揃ってここに来るまで、日付が変わった後もテンシュは下にいてくれたんだよ」
セレナは何も言い返せない。
あまり事態を把握できていないスウォードがブレイドにどういうことかと聞く。ブレイドは小声で、後で説明することを伝える。
「向こうに帰っていい? とかもう帰るとか、いつもそんな適当なことばかり言ってるテンシュが、ここは俺の店だからって、私が聞いてても辛そうな声出してそう言ってた。帰っていいじゃん、そんな声出すくらいなら。誰も文句言わないよ」
店主は小さくガッツポーズをしている。
「けどそれでも私らが揃うのを待っててくれたんだよ? テンシュの事だからあんたに全く気がないでしょうよ。この店にいる理由は、この世界のお金じゃない報酬を手にするためだけじゃないんじゃない? その報酬は普通に仕事するだけでもらえるんだもん。それでも自分が嫌うことをやるってことを自分で決断したんだよ? あんたとウィリックの二人の傍で、しかも二人の邪魔にならないようにあんたたちから見えない場所で。あんたたちが心細くならないように見守るために残ったとしか解釈しようがないじゃん! あんたがウィリックに付き添っててその間ずっと下にいたことは知らなかったでしょうけど、あんたらが来た時にはカウンターにいたの見たんでしょ? あたしらが二階に上がった時にも言ったじゃん。テンシュが今まで下にいてくれたって。そりゃあんたの憧れの人ってのは、あたしらに限らずウィリックと一緒に活動したことがある人達はみんな知ってるよ。だから死なれてすごくショック受けてるのはわかるし、私らもセレナの事かわいそうだと思うよ。けど、一人で立って歩けるくらいには立ち直ってさ、ウィリックを見送った後にやろうとするのがあの人の敵討ち? あたしらにはありがとってお礼を言ってくれたけどさ、あんた散々世話になったテンシュの事、頭ん中から消えてんじゃん! 自分がここに戻ってくるために連れて来た。それはいいでしょうよ。出来ないことを手伝ってもらったんだから。自分にない力を持ってるからお店新しく始めて、それを手伝ってもらった。それもいいでしょうよ。ウィリックも行方不明なんてこと知らなかったんだから。けどそんなウィリックの傍にテンシュを連れていけば戻って来られるかもしれないなんて、その話はテンシュにした? ウィリックの事テンシュに相談した? 毎日こっちの世界に来てくれて、ほぼ一日中いてくれたってんなら、いくら聞き取り調査でテンシュと顔合わせる時間が少なくなったっていっても相談する時間くらいはあったはずでしょうよ? テンシュには何も言わず、彼の傍に連れてってっていうのはそりゃ勝手すぎない? それに彼の力って貴重なんでしょ? その貴重なことが頭の中から消えてるのってどうなのよ。その貴重なものは自分のそばにいて当たり前、逆らわなくて当然とか思ってんじゃないの? 私も人のこと言えないけどさ。でもあんたの場合は、ずっと世話になってんじゃん! それとも素で忘れるくらいなら、テンシュの事解放してあげなよ。でもテンシュがまだこの世界の石をまだ欲しがってるってんなら、私が雇うけどね。テンシュの世界との往復の件は他にも伝手あるし、その人達に頼るわ」
キューリアの主張の独り舞台に全員が静まり返る。
言い終わったキューリアが、そこでひょいと階段から顔全部を出した店主にようやく気付く。
彼女は、ずっと話していた店主のことを本人に聞かれたと思ったのか、急に顔を赤くする。
「んだよ。俺、モテモテ? でも種族違うし住む世界が違うって何度言やわかるんだこいつら。つか、羽根頭率高ぇなオイ」
そんなキューリアの気持ちを知らずにそんなことを口にするこの人は、やはり店主であった。
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