近所の客一組目 3
「……で、あれからどうなった?」
「んぉれぁえ、あぉえぅいーあんぉえ」
『法具店アマミ』の二階、セレナの生活空間。
バイトの双子姉妹と用心棒の二人、そして店主の五人での昼食。
店主は狙っていた。
料理をほおばりながら何かをしゃべる亜人達というシチュエーション。
「ほおぇ……ぼっ」
その企みに引っかかったのは、口の中のものを少し噴き出したのはヒューラー。
「……まぁお前らが作った昼飯だから、別にどうなろうが知ったことじゃねぇけどな」
「ケホッ。人が口に物を入れた直後に話しかける間の悪いことするからでしょ? それよりも……来月式挙げるらしいんだって。出来たら支払う。出来なかったら式の後で贈り物にしたいって言ってた。今日のところは雑談で終わったけど……」
「警備係から接客の報告を受けるのもどうかと思うんだが。ともかく、どんな人が身に付けるのか、着る衣装がどんなものか、身に付けたその装飾品に何を期待するのかが問題だ。サプライズの演出なら引き受けない。喜んでくれる予定が悲嘆にくれるなんて話は珍しいこっちゃねぇし。それに式場もどんな場所なのかにもよるかな。ま、まだ雲をつかむ段階の話だし、貴金属店が近くにないならこの店ならではの物にする必要もない。ただの飾り物でもいいのかもな」
「あの人、私と同じエルフの亜種っぽいね。お嫁さんに行く人については詳しくは知らないんだけど、結婚して子供ができるじゃない? その子供が結婚して子供ができると、そっちでも孫って言うでしょう? 孫が結婚してできた子供のことは何て言うの?」
老エルフが自己紹介した通り、店主にはエルフとしか分からなかった。双子とヒューラーも彼がエルフ族と思っていたが、エルフ亜種であるキューリアには、彼にはエルフのほかに別種族の流れが混ざっていることが分かったらしい。
「ひ孫だな。その次の世代は#玄孫__やしゃご__#。さらにその次の世代の子供にも名称はあるが、一般的に使われて、すぐに理解できるのは玄孫までだな」
「それがエルフとか、まぁ五百年以上寿命を持つ種族になるのかな。そんな長寿の種族の場合、孫よりも若い世代も全部ひとまとめにして孫って呼ぶの。だからチェリムさんが言う孫は多分、テンシュの方で言う玄孫かその次の世代の子のことかもね」
随分と大雑把な定義である。しかしそれだけ長生きの種族になると、そんな認識になるのは仕方がないことかもしれない。
「で、同じ一族でも子供の世代と玄孫の世代が結婚するってこともあるの」
「近親相……ゲホッ!」
今度は店主が噴く。キューリアがいきなりデリケートと思われる話題に入った。好奇心だけで立ち入っていい話題ではない気はするが、聞かないまま話を進めることは難しい。
「種族によっては寛容だったり禁忌だったりモラルに反してたりすることもあるけど、エルフの場合はある条件がある限り許されてるの」
「ハァ、ハァ……というと?」
咳き込みが治まり、呼吸を何とか整えてから尋ねる店主。
「いろいろ理由があって、他種族同士の結婚をする人もいるのね。すると相性次第では本来の種族の特徴が薄くなるのよ」
「なんかアンタッチャブルな話題になりそうだな」
この世界には関心がない店主が、この世界の風習の話を聞いている。
しかし誰もそのことを指摘したり咎めたりすることなく、全員がキューリアの話に耳を傾けている。
「その理由も言葉では表せられないことがいろいろあるからね。当然本来の種族の一族とは疎遠になることもある」
「一族や種族から追い出される理由ってのは、追い出される本人ではなく一族に理由があったりするしね」
ヒューラーもその類の話を耳にしたことがあるらしい。
「ひょっとして、こんなやつはうちの一族ではないとか言われて一方的に決めつけられたり、こいつがいたら一族から追い出されてしまった、なんて話か?」
店主の世界でも今でも稀に聞く話。電気のない時代では割と目耳にする話でもある。双子はやや表情をを曇らせている。
「けど類は友を呼ぶって言葉があるが、その反対の現象が自然に起きることもある。本来の一族の人なら誰でも出来ることなのに、自分だけが出来ないとかな。その出来ることが話題の中心になれば、話題に参加することも出来ない。そこんとこは知り合い同士や友人同士だって起こることだろ? 繊細な部分って言うより、自然の流れだよな。話が噛み合わないんだから。気持ちを共有することも難しい。気持ちを分かち合うことが出来なければ、その輪から外れるのは仕方がないことだ。誰が悪いって話じゃない。最初から縁が結べるか結べないかって問題なのに、縁がすでにあると勘違いしてただけのことだ」
結婚の話から、種族などの話に広がるのは自然の流れか。
キューリアの話もさらっと身の上話からその方面に伸びていく。
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