常連客二組目との出会いもトラブルでした 4
『法具店アマミ』に駆け込んできた背中に黒い羽を持った黒髪の女が、店主とその日からバイトを始めた駆け出しの冒険者チーム『風刃隊』のメンバーのトカゲの獣人族の双子姉妹の三人に威圧しながら問い詰める。
女と双子の間に力量の差を感じた店主は、双子を店から追い出しカウンターを挟んで睨み合う。
「あいつがどこに行ったか知らされてないし、こっちからも聞くつもりはなかったからいつ帰って来るかも知らねぇ。あんたの聞きたい答えは何一つ知らねぇよ」
店主はゆっくり移動する。
女は、その男が自分に近寄るのかと警戒したが、出口に向かって進んで行く。
「お前、一体セレナとどういう関係だ? 全くの無関係ではないのだろう?」
店主はドアの上を触り一旦閉じる。
「出来れば無関係でいたかったんだがな。訳の分からんヤツが時々店に来るってことも報せねぇんだから、俺もあいつがどういうつもりか全くわからんよ。じゃあな」
店主の最後の言葉で、この場から立ち去ることを悟った女は店主を追いかける。
彼女の居場所の手掛かりはその男しか持っていない。ここで彼を見失おうものなら、セレナとは二度と会うことができないかもしれないのだ。
店主は外に出た。女は確かに店主が店の外に出たのを見た。後を追い外に出て辺りを見回す。女は店主の姿を見失った。
女は、店主が消えるとは思わなかった。腰の武器に手をやるよりも、なぜ彼の腕をつかみにいかなかったのだろう? なぜ会話を交わすことを優先しなかったのだろうと激しく後悔し途方に暮れた。
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「やれやれ。ホントにあいつは俺をどうしたいのやら。今後もあんなアブナい奴の接客をしなきゃならんとなると仕事どころじゃなくなるぞ」
『天美法具店』に戻った店主は、冷汗をかきながら独り言。『法具店アマミ』で平然としていられたのは、確実に逃げ切ることが出来る場所があると確信があったから。
向こうの世界の人物はセレナ以外に移動できない。まんまと黒い翼の女から逃げおおせた。
女の態度や仕事の邪魔をされて怒りの感情がないこともないが、セレナからは『法具店アマミ』で仕事をすることを強制されてはいない。彼女がいつこっちに押しかけてくるかの不安さえなければ、ずっと行かないままでも問題はない。
店主はそう気持ちを切り替え、『天美法具店』での一日の始まりを迎えた。
その日の『天美法具店』の営業時間が終わった後、セレナがやって来た。セレナ自身もそうだが、押しかけて来た女が店主にお詫びをしたいと言う。
「ホンッッットーにごめん! 彼女には私からよーーく説明しといたから」
「すごく面倒くせえ」
セレナは取り付く島もない。しかしそれでもセレナは店主に、店主が不在の間のことについて説明した。
彼女は冒険者で『ホットライン』という六人編成のチームのメンバーであること。彼女の名前は『キューリア』と言い、エルフ種で獣妖族という種族の女性であること。キューリアは謝罪するためにバイトに来ていた獣人族の双子姉妹の元に足を運んで直接お詫びしたこと、『風刃隊』とも面通ししたことなどを語った。
「ふーん。覚える気はないし、黒っぽい羽としか印象にない」
そんな話を聞いても、店主は相変わらずである。
「それとそのチーム全員から仕事を依頼したいって言うのよ。引き受けてくれると有り難いんだけど……」
すでに前払いで報酬を受け取ったらしい。
店主への報酬となる、野球の硬球くらいの大きさの宝石を見せた。その数八個。
「引き受けるかどうかも分からねぇのに報酬受け取るってどういうつもりだよ」
「私が受け取ったからそういう名目だけど、店主にお詫びのしるしの意味も入ってるって」
店長に毎日トラブルをもたらす『法具店アマミ』に、自分から首を突っ込む気は毛頭ない。
しかし誰からの異論もなく最後まで仕事をやり通せる作業場があり、そんな職場がある。
店主にとってなければならないものではないが、あればあったで有り難い。物の力を引き出すだけの作業よりも誰かが目的をもって依頼を持ち込んでくる仕事の方がやり甲斐はある。
「お店の警備係も手配したから」というセレナからの断わりもあり、店主は重い腰を上げた。
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