前のエピソード――常連客二組目との出会いもトラブルでした　１

　『法具店アマミ』に駆けつけた、蝙蝠の羽を背中の防具からはみ出させた女戦士は息を整えてゆっくりと中に入る。

　「いらっしゃいませ」と二人の女性の声が同時にかかる。

　彼女の見慣れた店内はそこにはない。用心しながらゆっくりとカウンターに向かって足を運ぶ。

　そしてたどり着いたカウンターの前。彼女には女性と言うより女の子に見える爬虫類の獣人族の双子の姉妹がそこで笑顔を向けている。もちろん彼女は見たことのない二人。

　客を迎え入れる挨拶をするからといって、必ずしも店員とは限らない。

　女戦士は警戒心を露わにする。

　そのカウンターの奥では、一人の男が机を前に細かい作業をしている。

　目新しい品物はこの男が手掛けた物だろうとは考えるが、目に入るこの三人とセレナとの関係は不明である。

　その女性は、気持ちを落ち着けながら少し乱れた髪の毛を手櫛で整える。一見獣と人かエルフの混ざった獣人族か獣妖族に見える彼女。その頭髪から横に突き出て現れた耳の一部が、彼女の種族を物語る。横方向に尖った耳はエルフ種の象徴である。

　店内にはセレナの姿はない。すでにこの町を後にしたのか、それとも予期せぬ事故に巻き込まれたか。

　最悪、目の前にいる三人によって害されたか。

　しかしセレナは冒険者たちの中でも屈指の実力者。比べてこの三人のどこに彼女を抑える力を持っているか。そう考えるとそれも有り得ない。

　だがもしそうならこの者達を一刀のもとに斬り捨てねばなるまい。誰かにとって大切な存在を、町の中に潜みながらこの先何人亡き者とするかわからないからだ。

　黒い羽を持つエルフは静かに声を出す。

「セレナはいるか？　ここの店主、セレナ＝ミッフィールのことだ。そこのお前も何か知らないか？」

　男は作業を止めない。それどころか作業に集中しているのか声が聞こえていないようだ。

「セレナさんとお知り合いですか？」

「えっと、どちら様でしょう？」

　今まで目の前にあるカウンターを挟んで店主のセレナと幾度もいろんなやり取りを重ねて来たばかりか、カウンターを越えてセレナの住まいでくつろいだこともある彼女。

　彼女は双子の獣人族からセレナとの関係を尋ねられるが、逆に二人に聞き返す。

「おまえたちこそ何者だ。セレナの店と知っての事か？　この店の中の品物の半分は彼女ではない別の誰かが作った物だな？」

「お前ら、下手なこと口にすんじゃねぇ」

　突然奥から声がかかる。

　いつの間にか作業を止め、ゆっくりとカウンターに向かう男を見て、彼女は自分に適う男ではないと確信する。しかし彼には妙な迫力を感じる。

「あんたが俺達を知らねぇように、俺もあんたの事は知らねぇよ。この二人はどうだかは知らねぇがな」

　双子はそろって首を横に振る。

「ご覧の通り、この二人もあんたの事を知らねぇ。つまり俺らにとっちゃあんたはここの初めての客だ。なのに前からここの事を知っているような大きな顔をされたって、こっちはこっちの仕事をするだけだ。あんたが何を思って確認したかは分からねぇが、俺にだってそれなりの誇りと品質のへの確信もある。文句があるなら他に行きな。そうすりゃ互いに気分は悪くはならねぇはずだ」

「彼女の作った物をバカにする気か？」

　黒い翼の女は三人に殺気を向けながら腰の剣と思われる柄に手をかける。

　自身が持つあらゆる力はその彼女の足元にも及ばない。それでも双子は傍らに置いてあった自分の杖をそれぞれ構える。

　双子の仲間全員揃っても用心棒にもなりはしない。ましてや二人だけでは敵うはずのない相手。しかし最低限その男の命を守ろうと、必死な面持ちで立ち向かおうとする。

　しかしその女から突然その殺気が消え、構えも解く。視線は二人の杖に釘付けになり、驚きの顔を見せた。