『天美法具店』の店主が異世界で職人として 1
『天美法具店』の店主は、異世界での事故に巻き込まれたその世界の魔術師セレナ=ミッフィールの帰還に気まぐれで手伝い、彼女は帰還を果たした。
店主から許可をもらった彼女は、『天美法具店』の入り口に細工と術をかける。その細工は、一般人だが石の力や性質を見抜く力を持つ店主の協力なしではできなかったこと。
その結果、『天美法具店』から、彼女の経営している店の入り口を繋げることが出来た。
ただし誰でもいつでも移動できるようであっては困る。
偶然の一致すら有り得ない手順を踏むことで、店主とセレナの二人だけが移動できるようにした。
自分だけではなく店主も移動できるようにしたのは、協力してくれた店主の力にセレナが見惚れたため。
セレナもいろんな物に込められた力を見ることは出来るが、店長のように短時間で判定することは出来ず、力の種類や性質まで見抜くことが出来なかった。
店主が自分の店の経営などに協力してくれたら自分の願いを叶えることが出来るということで、店主を執拗に『天美法具店』に日参して頼み込む。
紆余曲折はあったが、店主にもセレナの店で仕事をするメリットを見出したことと従業員達からの後押しもあり、ビジネスライクな関係を持った。
セレナは、自分にとって必要な力を店主が持っていることを知った。しかし店主はセレナが魔術師であること以外何一つ知らない。店主にとって未知の力を持つセレナによる束縛を恐れ、互いに誇りを持っているという仕事に対する誠実さと、『天美法具店』の扉の交換という切り札を持ち出す。
セレナは自分の希望である店主主体の共同経営の店を持つという願いに対し、店主は、その誇りを有した上でここに居残り仕事をするも即座に自分の店に帰るも自分の意志次第という条件を突きつけ、互いにそれを受け入れた。
こうして店主にとって異なる世界でも、セレナと共に店を持つ。
そしてセレナは、それまで自分のものだったその店を『法具店アマミ』という名称に変え、新たな共同経営者を迎え、再出発することになった。
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セレナの店に向かう前日の『天美法具店』のミーティングで、店主は従業員達に念押しをした。
「長期間不在になっても知りませんよ」と。
そして異世界に移動した店主はセレナと共に始める店の開業準備を始める。
ショーケースを六つ注文したセレナから、到着は翌日になることを知らされる。
従業員達も不在は覚悟しているはず。それが届くまでここに滞在することを決めた。
そうなるとショーケースを設置する場所ばかりではなく、ついでに店内全ての掃除に取り掛かる方が効率がいい。それに宝石を加工する作業場も設ける必要もある。
「広めの照明付きの机がありゃそれでいいさ」
「じゃあ今まで使ってたこの机は……」
清掃から店内の模様替えの相談も始まる。
「うちの店と構造がほとんど似てるな。外から建物を見てみたいが、お前と会話できなくなるよな」
「文字も読めないと思います。テンシュは外出禁止になっちゃいますね」
「気にしねぇよ。作業が出来りゃそれでいい。奥に階段があるってのもおんなじか。従業員はいないんだな。ということは事務棟もなしか」
「えぇ。私一人でやってたんですけど、冒険者と兼業……」
「冒険者? ますますファンタジーじみてきたな。モンスターとか魔物とかいるのか」
セレナは少し顔を暗くする。
「えぇ。住民たちの生活を脅かす物もいるんですが、その時のために冒険者達に退治してもらいやすくするために斡旋所もあるんですが……」
セレナは顔ばかりではなく言葉も濁る。
「言いたくなきゃ言わなくていいさ」
店主の言葉にはっきりと否定するセレナ。
「いえ、実はとてつもない大きな魔物……がいて、それが引き起こした事故で、その討伐に向かった私がテンシュの世界に飛ばされたんです。私は無事にこうして戻れたのですが、その討伐が大掛かりなもので……」
「店やってる場合じゃねぇんじゃねぇの?」
「討伐本部みたいなのがあって、戻ったその日に行ったら向こうでも混乱してて。落ち着いたら報告してもらうからって」
約一週間日参出来た理由は、ここですることがなかったからと言う。
その斡旋所とやらも混乱し、そこで受け付ける依頼の数も引き受ける者も普段より少なく、依頼達成するための道具や装備品を買い求める客もなければ店の者もすることがない。
「風が吹けば桶屋が儲かるとはよく言ったな。原因と結果、まさしく因果関係か」
「ショーケースの件も普段だったら三日くらいかかるけど、向こうのお店も全くお客さんがいなかったからすぐ来てくれるって。明日には確実に届くかもしれないけど、なるべく早く到着させるって言ってた」
「セレナ! 帰って来たって噂で聞いて大急ぎでやって来た!」
大声を上げながら店に飛び込み、会話に割り込んでくる者がいた。
店主はその姿に目を奪われる。
体は人の姿で軽金属で出来た防具を身につけている。だが、顔と手足はまるで鷹。体毛もそんな毛で覆われていて、背中には防具は全くなく、鷹のような翼が生えている。
別の世界と言う言葉は何度も聞いた。しかしその客の姿を見た店主は、それを改めて強く実感した。
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