店主とエルフは互いの世界を知る 11
セレナの道具屋で作業を始めた店主は、その最中に話しかけてきたセレナに怒鳴り散らし、すぐに作業に戻った。
双剣の試用の感想を頼まれた冒険者チーム『スケイル』はその判定と新たな依頼をセレナに頼み退店。
それからしばらくして、店主はようやく作業の手を止めた。
「ふうぅ……。……あ~、セレナさんよ。作業中に話しかけてくんじゃねぇよ。気が散るだろ。手がけている品物の目的に、素材をどう生かすか考えながら仕事してんだよ。その作業が止まっちまったら、まとまる考えもまとまらん。道具や素材をゴミにしちまいかねねぇんだよ。あまりに失礼な話だと思わんか?」
「品物製造の依頼客が来たら、いろんな意見聞きながら作るでしょ? その話を聞かずに物を作っていったら、依頼人の意にそぐわないものが出来ちゃうわよ」
セレナの反論はもっともである。
客は自分の依頼に料金を払うその料金分の働きはしなければならない。その働きは、依頼人の望み通りの物ができたかどうかにもよる。
しかし店主はそれを鼻で笑い飛ばす。
「いえに飾る装飾品ならそれでもいいだろうぜ。だが武器や防具を扱うんだろ? 使用者に見合った道具を作るのがベストだろうよ。その使用者はどんな能力を持ってるか、どんな力を持ってるか。それが分かれば、何が欲しいか以外の話は聞く必要はねぇよ。使用者の力に見合った物を作る。もっとも使用者がその力を伸ばしていけば、いつかはその道具から卒業する時期はくるかもしれねぇがな」
「使用者が持つ能力って……そんなの……。あ……テンシュ、まさか……」
「あぁ。元々は宝石や石が持つ力しか見ることは出来なかったが、宝石の加工の仕事をしているうちに他の素材の力とかが分かるようになって、そのうちそれを使う人物がどんな体質か、どんな力があるかとか分かるようになってな。あとはその力を放出させたり発揮させたりするためにどんな組み合わせがいいかとかだな」
セレナは言葉を失った。
いくら魔法や魔術が頻繁に使われるこの世界でも、そんな能力を持つ人物はいやしない。
そんなことを出来る者はこの世界にもいやしないし、自分で自分自身のことを理解することだって難しい。
けれど、この店主はそれを当たり前のように正確に出来る。
それに比べて自分には、その素材に含まれている魔力の種類の判別くらいだ。
「お前はこの店の手伝いをしてくれって言うんだろ? ならまずお前と俺が作る物に差がないと意味がねぇ。その結果は……聞くまでもない、と思ってるが」
「え、えっと……」
セレナが店主に手伝ってほしいと思っていることは巨塊一連の件。
むしろ店も手伝ってもらえるならそのついでに、という程度のつもりだった。
しかし物作りの腕は店主の圧勝。
たった今帰った客は、自分よりも店主の腕を求めた。
店主が思ってているセレナの要望と、実際のセレナが望むことに食い違いはある。
しかし店主の思い込みには、セレナに利点がないわけではない。むしろ大きな恩恵を受けるのは目に見えている。
おまけに、巨塊の一連の件を頼んでみても、爆発事故の現場の洞窟はその付近ごと封鎖されていた。
討伐計画が中止された以上討伐部隊に採用されたセレナの今の立場や肩書は、どんなに腕が立とうが一冒険者であり、道具屋の主でしかない。
国指定の立ち入り禁止区域内を自由に入り込める権利もなく、むしろ法の違反者になりかねない。
おそらく生涯最大の危機を迎えているであろう憧れの存在を助けることも出来ず
行方不明となった数多くの仲間や部下を見つける手段もなく
冒険者として生計を立てている傍ら、自分が身につける装備品に満足することが出来ず、自ら動いて店を作り、販売するために品物を作るその腕も差をつけられた。
無力感に打ちひしがれるセレナ。
「何落ち込んでんだ? この店一緒にやってほしいって話じゃなかったんだっけ?」
そんなセレナに、店主の気の抜けた声がかけられた。
一瞬、店主の言うことを理解できないセレナは驚いた顔を彼に向けた。
「俺の店とここ、普通に考えりゃ両立させるのは難しいが、時間が経過しないってのは大きいし倉庫にゃ魅力ある素材がたくさんあったから腕の振るい甲斐がありそうだ。で、あの客からは何か意見はなかったか? 効果が同じ立ったってんなら俺がここにいる意味はねぇんだけどさ」
いつの間にかセレナは勘違いをしていた。
セレナと店主が作る物に差があるかどうかの確認をしたのであって、製作者としての腕の優劣を決める競技などではなかった。
「え……えぇ。そ、そうね。そうだ、さっきのお客さんから預かったの。もう片方も糸がついた武器と同じ性能にしてくれって。それで……」
「ほう。んじゃさっさと終わらせよう。こないだと同じくらいの時間で完成するだろ。接着の方は頼むぜ? 俺にだって出来ないことは山ほどあるんだ」
依頼の期限を伝える前に店主は仕事に取り掛かる。
その際にセレナに向けた言葉に、彼女はいくらか救われた思いを持てた。
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