20世紀ウィザード異聞 (完)
作者さま:まつか松果
キーワード:現代ファンタジー 児童文学 少年 家族
あらすじ
時は1950年代。気弱な10歳の少年「ステファン」には魔法の才能が有るらしい。父親は行方不明、母親は礼儀作法にうるさい教育ママで魔法なんて信じていない。家の中で息苦しく生活したいたところに、1人の魔法使いが尋ねてきた。そこから始まる不思議な日々と明らかになっていく真実。
感想
非常に描写力があり、豊かなファンタジー世界が見事に伝わってくる。1つ1つのシーンが丁寧で美しい。これぞ現代ファンタジーな場面多数。
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長い指がそれをくるっと回し、車を軽く叩いた。
「もういいよ、アトラス」
声に応えるように、鼓膜に沁みる音を立てて空気が震えた。と、たちまち黒い車は盛り上がり膨れ、巨大な生きものの姿に変わる。
「うそ……!」
ステファンは自分の目を疑った。
逆光の中で長い首が伸びた。
黒い溶岩弾を思わせる頭部に口が開き、牙が二列に並んでいる。全身が黒光りする外皮に覆われ、尻尾の内側にはステファンのトランクがしっかり結わえ付けられている。何よりも驚きなのは——翼だ。絵本で見るドラゴンのような、尖った翼を持っている。まぎれもなくこいつは翼竜だ。
翼竜は背伸びするように翼を拡げると、器用に折りたたんで向き直り、ぬうと首を突き出して、金色の眼でステファンを見た。縦長い光彩はどこまで見透かしているのか。ステファンは震えあがった。
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車が翼竜に変身! 良いですな~! 現代ファンタジーだからこその、ワクワクドキドキな場面。
他にも妖精、動く羽ペン、空中でのダンスなどなど絵になるシーンがたくさん。
そして世界観としても良い空気なんですよね。魔法使いは社会的に存在を認められているが、徐々に衰退している。
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「竜や竜人のたどった道は、いずれ魔法使いもたどる道さ。時代によって利用されたり否定されたり、都合のいい存在だ。今は科学万能とか言って魔法そのものが忘れられようとしてる。昔、科学と魔法は共存してたはずなのにね。そのうち、僕らなんて物語の中にしか存在しなかった、ってことになるんだろうな」
ステファンの胸に冷たい水が流れ込んだような感覚がした。聞きたくないことを聞いてしまった。魔法使いってそういう扱いなのか。
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魔法・ファンタジー要素の書き方も作品によっていろいろとありますが、この雰囲気はとても私の好み。
中世ファンタジーだと魔法って「当たり前」じゃないですか。不思議というより「技術」であり「常識」?
しかし、本作だと魔法は徐々に消えようとしている。不思議・幻想・哀愁・謎……何というか魔法に対する「あこがれ」の気持ちを思い出させてくれます。
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そのうち、僕らなんて物語の中にしか存在しなかった、ってことになるんだろうな
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良いセリフだと思いませんか? 作者さまのファンタジーに対する愛を感じます。
ストーリーも正統派児童文学で高品質。少年の成長、家族の再生、人間関係の改善、社会の変化。読み終わってみるとみんな幸せになっていてしみじみ、とても満足感があります。
ライトノベルじゃなくて児童文学。主人公「ステファン」が親子関係に悩んでいる、そして両親にもそれぞれの悩みがある。親は「完ぺきな保護者」でもなければ「無理解な悪役」でもない。基本的にラノベって親が出てこないもの。そういう意味では親子関係がしっかり書かれているファンタジーって一周回って新鮮に楽しめちゃいますねぇ。
あとキャラの口調がすごく上手いです。10歳の少年の話し方、25歳の青年、60歳近いおばあさん……非常にそれっぽい。
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「まあまあー。面白うございますね、もっと聞かせてくださいまし坊ちゃん」
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すべての面でとても完成度が高い作品。もしかすると正統派海外ファンタジー児童文学すぎるのかも知れませんが……しかし間違いなく面白い。古き良き物語、古き良きファンタジー。そういう雰囲気ですねぇ。
状態:完結
文字数:186,930文字
個人的高評価ポイント
◎ 高い完成度!
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