第151話あらやだ! 三回戦だわ!

「……お姉ちゃんずるい」

「賢い言うてほしいな。せやかてあのやり方やないと正直勝てへんかったわ」


 ジト目でこっち見てくるエルザにあたしはパンを口に運びながら返答した。

 ほんまに危なかったわ。おそらくルール無用のバトルやったら負けてたわ。

 そないなわけで三回戦が始まる直前、あたしは恨み言をぶつぶつ言うエルザと一緒に朝食を食べてた。昨日は潔よう負けを認めとったエルザも、一晩経ってしもうたら納得いかへんようになってた。まあそれだけ悔しかったんやな。

 他のみんなは別のところで食べとる。せっかくの修学旅行やのに、団体行動せえへんのは、なんや淋しいなあ。

 ちなみに三回戦にはあたし、イレーネちゃん、デリア、ランドルフ、キールの五人が勝ち上がった。惜しくもラウラちゃんは二回戦で負けてもうた。


「次の相手は、クォーツていうドワーフで、結構な実力者らしいよ」

「よう知っとるな。あたしのために調べてくれたんか?」

「違うよ。お姉ちゃんには勝てると思って、先に調べておいたの」


 おお、かなり下に見られとったんやな。


「一回戦で戦ったメノウさんの操気法を覚えてる?」

「昨日のことやからな。それがどうしたんや?」

「その先の技術で『狂化』を使うらしいよ」


 するとここまであたしの合成魔法よりも冷たい態度を取っていたエルザが心配そうに言うた。


「絶対に無茶しないでね? 狂化使いは理性の代わりに莫大な力を得るし、疲れも感じないんだって」

「ほんまかいな。せやったら柔道技使えへんやんか」

「うん。氷で動きを止めることもできないよ」


 うーん。それならまたエルザのときみたいに搦め手使うしかあらへんな。

 そう思いながら、あたしは牛乳を飲んだ。濃厚でとても美味しかった。




「第三回戦! 『雪氷の魔法少女』ユーリ・フォン・オーサカ選手と『狂化使い』のクォーツ選手の勝負が始まります!」


 武舞台に上がると実況がなんや知らんがあたしに異名を付けてきた。リングネームみたいなもんやろか? 

 平和の聖女に加えて雪氷の魔法少女……もうちょっと可愛らしいあだ名がええなあ。ちょっと恥ずかしい気持ちもあるしな。

 目の前のスキンヘッドなドワーフ――クォーツを見る。顔に傷が多く、筋肉隆々で、格闘家そのものやった。


「ヘイ、ガール! 降参したほうがいいぞ! 悪いが狂化した俺は手加減ができねえからな!」


 挑発ちゅうか事実やろな。それでもあたしは勝つつもりで戦うだけや。


「それでは――試合開始!」


 お決まりのように銅鑼が鳴る。するとクォーツはさっそく狂化をし始める。目が赤く充血して、筋肉が破裂するくらいに盛り上がる。


「きしゃあ……きしゃあ……」


 もはや言葉やのうて唸り声に近い。

 あたしは足元を凍らせた。まあ滑らせて転倒したところ狙うつもりやった。


「きしゃあああああああああああああああああああ!」


 クォーツが拳をぶんぶん振り回しながらこちらに迫ってくる。

 思わず身構えた――


「き、しゃああああああああああああああ!?」


 クォーツは凍った武舞台で滑り、あたしの隣を通り抜けて、そのままの勢いで武舞台から落ちた。 頭から落ちたようでゴギンと嫌な音がした。


「……えっ?」


 そないな言葉しか出えへん……

 闘技場の観客もあまりの出来事に静まり返ってしもうた。

 しーんちゅう擬音が場を支配する。


「しょ、勝者、ユーリ選手……」


 審判が戸惑いながらも宣言した――




「運が良いですねえ。ユーリさん」


 頬に包帯巻いとるクラウスがにこにこ笑いながら、武舞台から戻ったあたしに声をかけてくれた。


「まあ楽に勝てたからええけど、なんか申し訳ない気持ちもあって、複雑やわ……」

「ラッキーと思えばいいんですよ。それより今日は見るべき試合があります」

「ああ。デリアとランドルフやろ」


 魔法大会優勝者と剣術大会優勝者。はたしてどっちに分があるんやろ。普通に考えたらランドルフに軍配が挙がるやろけど、デリアもなかなか侮れん。


「もうすぐ始まりますよ。見に行きましょう」

「せやな。どないな戦いになるんやろ」


 光の鎧のランドルフにデリアはどう対抗するんか。結構楽しみやった。


「さて、みなさま! 『光の騎士』ランドルフ・フォン・ランドスターと『破壊の体現者』デリア・フォン・ヴォルモーデンの試合が始まります!」


 どうやら三回戦以上は異名で呼ばれるらしいな。

 でも破壊の体現者って……女の子に付けるもんやないやろ。


「ふふふ。ランドルフ。あんたは勝てないわよ」


 デリアが自信満々に宣言する。


「絶対に私が勝つわ」

「……大した自慢だな」


 ランドルフは腕組みしながら言うた。デリアは「その根拠知りたいかしら?」と余裕たっぷりに訊ねる。


「いや。どうせお前のことだ。実際に味わってみろとか言うんだろう」

「当たりよ。まあ長い付き合いだから分かって当然ね」


 デリアは――長い鞭を見せびらかすように出した。


「いろいろ考えたけどね。しっくりきたのが、この武器なのよ」

「……なるほどな。よく考えてやがる」


 ランドルフは剣を構えた。

 そして――試合開始の銅鑼が鳴る。


「くらいなさい!」


 デリアは短い言葉で鞭を繰りだした――避けるランドルフ。

 そして懐に切り込もうとして――爆風に吹き飛ばされる。


「なあ!? なんやあれは!?」

「……なるほど。考えましたね」


 見間違えやなかったら、鞭が当たったところが爆発したような……まさか!?


「はあん。なるほど、付与か」

「ご名答。褒めてあげるわ。ま、あなたも同じ付与を使うのだから気づくのは早いわね」


 まさか、鞭に爆裂魔法を付与させたんか!?

 なんちゅうことを考えつくんや!?


「さあ。あなたに勝機はあるかしら?」


 自信満々のデリア。

 それに対して、不敵に笑うランドルフ。


「やってみなくちゃ、わからねえだろ」


 光と爆発が交差する――

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