第150話あらやだ! 飛ぶ姉妹だわ!

 二回戦でエルザと戦う。そん前にクラウスのところ行って怪我治したろと思うたけど、敗退者とは会えん決まりで駄目やった。まあ宿で会うからええやろ。

 ほんまは勝ち続ける気はあらへんかった。適当なところで負ければええかとか怪我せえへんうちに棄権しよ思うてた。

 でもそんなんはあかんと思い直したんや。


『勝つために戦う人に諦めて挑んでも、勝てるわけありません』


 その言葉が、心に突き刺さったんや。

 せやから相手が最愛の妹で最強の妹でも勝たなあかんと思うた。

 あたしはクラウスの心意気を受け継いで、決勝まで進みたい。


「東からはユーリ・フォン・オーサカが入場します! 一回戦は常連のメノウ選手を見事な戦いで下した驚異の新人! 合成魔法の使い手でありながら不思議な体術の使い手でもあります!」


 実況が仰々しい煽りで紹介する。正直気恥ずかしいわ。周りの観客も騒いどるし。それが緊張を増してくるようやわ。


「西からはエルザ選手! 黒き翼を操り一回戦でカーボ選手を寄せ付けない圧倒的な戦いを見せてくれました! そして情報によりますとなんとユーリ選手の妹だそうです! 奇しくも姉妹対決となった二回戦! どちらに軍配が挙がるのでしょうか!」


 会場が一気に盛り上がる。そんなに姉妹対決が面白いんやろか?

 武舞台であたしはエルザに向かい合った。そないに怪我はしとらんな。

 エルザは目を伏せて、それから正面を向いて、何かを決意したように言うた。


「お姉ちゃん。棄権したほうが良いよ」


 珍しいな。てっきりあたしと戦うんは嫌やと思うたけど。


「あん? 何を言うとるんや? まだ試合は始まっとらんよ?」

「私には分かるの。お姉ちゃんは私よりも弱いって。だから怪我をしないうちに、棄権して?」


 あたしらの会話を聞いとる観客はどよめいとる。


「確かにな。あんたはあたしよりも強いわ」


 さっきの実況の話やと化身を自由自在に使えるちゅうことやからな。アイディアはあるものの実際には化身が使いこなせないあたしが不利なのは否めないわ。


「分かっているなら、棄権――」

「嫌やわ。戦う前に棄権やなんて」


 あたしはエルザに語りかけた。


「確かにあたしは強ないわ。デリアに負けたしな。でもな、エルザ。あんたに教えたるわ」


 妹に大切なことを教えるのは姉の役割やからな。


「弱いことも勝てないことも、戦わん理由にはならへんのや」


 その言葉を聞いて、エルザは深く呼吸をして――


「分かった。じゃあ本気で戦うね」


 決心が着いたようやった。

 あたしと戦うということに対して。


「互いの名誉を懸けて――試合、開始!」


 銅鑼が闘技場内に鳴り響いた。


「行くよ、お姉ちゃん!」


 その言葉通り、エルザは背中から大きな翼を出した。そして羽根を――射出する!


「遠慮なしやな!」


 アリマ村でエルザが暴走したとき、羽根が刺さったら麻痺したことを思い出す。

 せやから――羽根がやばい!

 あたしは氷の魔法を発動し、降り注ぐ羽根を防ぐためにドーム状の壁を作った。


「即席のかまくら……いや雪ちゃうな」


 あたしは後ろに下がりながら考える。遠距離では羽根が襲ってくるんは明白やった。せやったら――近距離でやるしかあらへん!

 羽根を避けつつ、あたしはエルザに突撃した。羽根の攻撃は直線的で避けるんは簡単――


「甘いよお姉ちゃん!」


 翼が急激に大きなって――あたしに襲い掛かる。まるで極太の鞭よろしくあたしを撥ね飛ばした。


「うげっ!」


 蛙のような呻き声を出してまう。そのまま武舞台に叩きつけられた。


「痛ったいわ……はっ!」


 そこを羽根が狙い打つ。ほんまに容赦あらへんわ!

 転がりながら立ち上がり、どないすればええのか考える。


「羽根やったら、これでどうや!」


 あたしは氷やのうて水の魔法を放つ。羽根が濡れたら射出できひんようになるんやないかちゅう浅はかな考えやった。


「駄目だよお姉ちゃん。これは普通の羽根じゃないんだから」


 エルザは難なく翼で水の魔法を弾く。水は武舞台の床を盛大に濡らしただけやった。


「もう棄権してよお姉ちゃん。私、こういうこともできるんだよ」


 エルザは翼をはためかせて――空を飛んだ。


「あはは。まるで天使みたいやな。翼が白かったら完璧やけど」

「……そしてこんなこともできるんだよ」


 エルザは空を飛んだまま、羽根を――射出する。


「あかん! それは反則やで!」


 手の届かへんところでそないなことされたらあかんやん! 魔法は届くかもしれへんけど、避けられるやんか!

 しかも高いところから下に向かって撃ってきよるから威力が増しとるわ!


「ぐうう!」


 左脚に当たってしもうた。めっちゃ麻痺しとる。


「これで――最後!」


 エルザがとどめとばかり羽根をあたしに向かって大量に射出する!


「うわああああああああああ!」


 悲鳴を上げながら、あたしは――




「ふう。やりすぎちゃったかな」


 エルザは武舞台に降り立った。羽根のせいで土煙が起こって何も見えへんようや。


「お姉ちゃん。大丈夫だよね」


 エルザは土煙が晴れるまで動かへんようやな。

 なら――反撃開始や!


「――っ!? なにこれ!?」


 まあ驚くんは仕方ないことやな。

 自分の足が凍りついとるんやから。


「水の魔法が役立つとは思えへんかったわ」


 あたしは武舞台に右手を着きながら言うた。


「お姉ちゃん、まさか――」

「水溜りだらけの武舞台。状況は整っとるわ」


 土煙が晴れた。そして全貌が明らかになる――


「こ、これは――武舞台が凍ってる!」


 そうや。まるでスケート場のようにほとんど氷付けになっとる。

 そしていたるところに氷柱――いや氷筍やったな。それができとる。

 ちなみにあたしはかまくらをまた作って羽根を防いどった。水がぎょうさんあったから速く作れたんや。


「氷の武舞台や。あんたには不慣れな場所やで」

「そ、それなら飛んで――」


 足に貼りついた氷を剥がそうとするエルザ。その隙をあたしは逃さん!


「一気にあんたんところに行くで!」


 氷の魔法で足場を高くして――スキージャンプよろしくエルザに向かって一直線に飛ぶ!


「エルザぁああああああああああああああああああ!」


 エルザにぶつかり、あたしらは滑りながら武舞台の外に――


「くっ! 忘れたの!? 私は飛べる――」


 エルザが翼使こうて飛ぼうとする。あたしは片翼に捕まった。手が麻痺して動かん。ちゅうか離れられん!


「放して! お姉ちゃん!」

「駄目や。解除しないかぎりな」

「私は勝たないといけないの! ロゼちゃんのために!」


 あたしが掴んどるせいで上手く飛べへんようやった。


「はあ? ロゼちゃんのため?」

「イレーネさんに勝って、ロゼちゃんに謝らせるの!」


 せやからやる気があったんやな。なんか納得したわ。


「あかん。そんなんで解決しても駄目やわ」

「だったら、これでどう!?」


 エルザは翼を引っ込めた――発動をやめたんや。

 当然、あたしとエルザは落下する――


「お姉ちゃん昔教えてくれたよね! 物体は同じ速度で落ちるって! だったら、下にいたお姉ちゃんのほうが先に落ちる!」

「そないな昔なこと覚えとるな!」


 あたしとエルザは武舞台の外に――落下した。つまり場外や。


「やった! 勝った――」


 起き上がったエルザは嬉しそうな顔をして――それが驚きの表情に変わる。


「昔教えたことを覚えとるのに、武舞台の状態を覚えとらんのか?」


 あたしは武舞台の下ではなく――氷筍の上に立っとった。


「審判さん。どっちの勝ちや?」


 審判は既に武舞台から下りとった。そしてあたしたちに向かって言うた。


「規則では『武舞台の外の床に触れたことを場外とする』とある。ユーリ選手のほうが先に落下したが、見てのとおり床との接点を持っていない。よって勝者は――」


 審判はあたしのほうに手を向けた。


「勝者は、ユーリ選手!」


 闘技場内を観客の声が埋め尽くした。

 これであたしは三回戦へと進み。

 明日以降戦うことになるんや。

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