第105話あらやだ! 氷と爆発の戦いだわ!
悔しそうな顔をしとるデリア。せやけど不利なのはあたしやった。
多数の理由があるけど、まずは錬度の違い。魔法大会はだいぶ前に開かれとった。その間、デリアは練習しとったはずや。でもあたしは最近ようやく形になったんや。ショット系の魔法と盾もどきの氷の塊しか戦闘では役に立たん。
次にさっきは盾が間に合ったけど、それはデリアが宣言して何かしてくると分かってたからや。爆裂魔法は音と火花がしたと思うたら、次の瞬間攻撃が当たる。流石に勝負の内容上、殺すのはなしやから多少は手加減してくれるやろうけど、それでも当たったら痛いで済まされへんやろ。
向こうが攻め気になったらやばいちゅうことや。錬度不足で不可視に近い攻撃で攻め立てられたらやばいってことは誰にでも分かるやろ。それにあたしが氷を選んだのは戦闘のほかに医療に役立つと思うたからでもある。そんな二兎を追うような欲張り者が一途に戦闘のための魔法を磨いとるデリアのような天才に勝てるわけないやろ。
せやから、あたしが取るべき行動は決まっとった。
「行くでデリア! アイス・ショット!」
氷の塊を撃ちだす。デリアは慌てて爆裂魔法で迎撃する。氷は綺麗に割れて地面に落ちる。
「いいわ! 私の爆裂魔法とどっちが上か、勝負してあげる!」
「望むところや! アイス・マシンガン!」
「エクスプロージョン!」
そこからは先ほどと同じく、魔法の応酬やった。
あたしに唯一勝機があるならば、それは二つの道しかなかったんや。
一つは攻め立ててデリアの爆裂魔法を掻い潜り、氷の魔法を当てること。
せやけど今気づいた。爆裂魔法の範囲は広いんや。これでは当てることは敵わん。
だったらもう一つの方法を使うしかない。
「ユーリ! いくら繰り返しても無駄よ! あなたの氷よりも私の爆裂魔法のほうが上なんだから!」
「そうやろうな。でも負けを認めるほど諦めが良くないで!」
それから十分、いや三十分ほど攻防が続いた。そろそろこっちの限界が近い。まだやろか――
「無駄だって言ってる――」
声を張り上げたデリアやったけど、突然、膝から崩れ落ちた。それとほぼ同時にあたしも膝をついてしまう。
「お姉ちゃん!」
エルザの驚く声。そして駆け寄ろうとするのをイレーネちゃんが止めた。
「エルザさん、駄目です。まだ決着がついてません」
「もう引き分けでいいじゃないですか!」
「そんな決着、二人とも望んでませんよ」
そのとおりや。流石『不屈の魔法使い』やな。
「あなた、何を……」
「半分、は、あんたが、やったんや……」
デリアがなんとか立ち上がろうとする。あたしもなんとか立とうとする。
でも力が入らない。
「爆裂、魔法は、火の魔法よりも、燃焼が激しい。つまり、酸素を使うんや……」
「ねんしょう? さんそ?」
「空気の、中に、含まれる、それが無くなると、呼吸が苦しくなる……」
酸素不足。それがあたしが狙ったことや。
しかし他にもあるんや。
「呼吸が、できなくなる、くらいで、こんなにも……」
「それだけやない。魔力が枯渇しとるやろ」
あたしの指摘に大きく目を見開くデリア。
「合成魔法は、二つの、属性魔法を、同時に、使うんや」
「嘘でしょ……ランクSの魔力を持つ私が……」
「もう魔法は使えんやろ……」
でもそれはあたしも同じや。酸素不足と魔力の枯渇。その二つの負担がどっとあたしに襲い掛かる。
あかん。限界が来てもうた。デリアのほうが体力と気力があるなあ。なんとか立ちあがっとるやん。あたしなんか両膝着いとるのに。
「でもまあ、ここは、あたしの負け、か……」
そのままうつ伏せに倒れてしまう。
「お姉ちゃん!」
エルザの声が遠くに聞こえた。
気いついたらベッドの上に寝かされとった。ふかふかのベッドや。
「……ここは、どこや?」
「気がついたか」
声のするほうに目を向けるとランドルフが居った。脇に置いてある高級そうな椅子にどっしり座っとる。
「えっと、あたしは……」
「デリアに負けた」
短い言葉で結果を教えられた。あたしは「そうか……」と呟いた。
正直、悔しくは無かった。むしろ――
「なんであんたは負けたのに嬉しそうなんだ?」
ランドルフの指摘に自分の顔がにやけとるのに気づく。
「ええと。なんて言うたほうがええのか分からんけど……」
「当ててやろうか。デリアが成長したのが嬉しいんだろ」
図星やった。あたしは「そうやな」と答えた。
「もしかして、デリアやイレーネを成長させるために、旅に出たのか?」
「あたしが居ると頼りっきりになってしまうから? 考えすぎや」
あたしは「他のみんなは?」と訊ねた。
「エルザはトイレ。デリアとイレーネはクラウスと一緒に料理を作ってる」
「イレーネちゃんはともかく、デリアが料理か?」
「あんたのためだよ。まあアップルパイしか作れないけどな」
そしてランドルフは改まって訊ねた。
「デリアたちに前世のことを話すのか?」
「あんたには悪いけど、話すつもりや」
「……即答か。しかし信じてもらえるのか?」
ランドルフは腕組みをした。
「もし俺なら気が狂ったとしか思えない」
「せやろな。でも信じてもらえへんでも話すわ」
「そういえばクラウスから聞いたぜ。家族には話したようだな」
ランドルフは何故か羨ましそうやった。
そういえば、ランドルフは異世界の実の親に捨てられたんや。
「よく信じてもらえたな。そして受け入れてもらえた」
「あたしにはもったいないくらいのええ家族や」
それからしばらく沈黙が続いた。ランドルフが物思いに耽ったからや。
あたしはこの際やから前々から訊こうと思うてたことをランドルフに言うた。
「なあランドルフ。なんであんたは魔法騎士を目指すんや?」
ランドルフはじっとあたしを見てから何かを言いかけて――
「お姉ちゃん! 目が覚めたんだね!」
エルザが言うなりあたしの胸ん中に飛びこんできよった。
「い、痛い……」
「お姉ちゃん! どこか痛いの!?」
「今の衝撃やろ……分かるやろ……」
「じゃあ問題ないね!」
このやりとりでランドルフは噴き出してもうた。
結局、魔法騎士について聞けんかった。
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