第104話あらやだ! デリアと勝負だわ!

 村づくりやら合成魔法の練習やら、やることが多かったのであっちゅう間に約束の日になってもうた。

 出発の前日、あたしはアルムと勝負した。約束したことは守らなあかんかったし、自分の実力を測るためにも実戦は必須やった。

 場所は村の広間でやった。なんやおとんがあたしの前世の話聞いて何か作る予定の空き地らしい。


 クヌート先生は魔法に相性はない言うてたけど、それはある意味正しくてある意味間違っとる。確かに属性には相性はあらへんと思うけど、使う魔法の性質によっては有利にも不利にもなる。

 結果としてあたしオリジナルの合成魔法はアルムのサンドナイツを打ち破ったんや。


「……見事だ。それしか言えないな」


 アルムは目を閉じてそう言うた。見とったジンやセシール、フローラやエドガー、ワールたち山賊、そして家族は歓声を上げた。


「まさかユーリがここまで強いとはなあ」


 おとんが呆然として呟いた。するとジンは「ユーリは俺にも勝ったからな」と何故か誇らしげに言うた。


「お姉ちゃん、凄い!」


 エルザが抱きついてきたので、あたしも抱きしめ返す。エルザはやっぱ可愛ええなあ!


「……これで俺のやることはなくなった。この村を去る」


 アルムはそう言うて立ち上がり、その場を去ろうとする。


「うん? 何言うてんねん。あんたどこ行くつもりや?」

「さあな。宛てもない旅に出るだけだ」

「せやから何言うてるんや。あんたの居場所はここやろ」


 驚いて振り向くアルムにセシールが言うた。


「もうあんたを恨んじゃいないよ。ていうかあたいが最初に馬車を襲ったのが悪かったし。それに温泉のおかげで今じゃ杖なしに走れるようになったんだ」


 その場でジャンプするセシールに続いてフローラも言うた。


「それにアルムさんは村づくりを手伝ってくださったじゃないですか。土の魔法で土塁を築いたりして。それにアドバイスもしてくれました」

「……だが俺を疎む者もいるはずだ」


 すると皆が一斉にジンを見た。たくさんの視線に思わずうろたえるジン。でも頭を掻きながら「しょうがねえなあ」と苦い顔をして言うたんや。


「ああ! 分かったよ! みんながそう言ってんだ! セシールの怪我も治りそうだしよ! アルム、お前も村の住人になっちまえ!」


 アルムは何も言えへんようになってもうた。そこにおとんが近づいて肩に手を置いた。


「アルムさん。娘をここまで強くしていただいてありがとうございます」

「…………」

「村長として、そして一人の親として、あなたが村のため、みんなのためにここに留まってくださると嬉しい。それに俺も含めて、みんなあなたに居てほしいのですよ」


 そう聞いたアルムは「俺はあなたの娘を殺そうとした人間です」とおとんに告げる。


「そんな俺を、あなたは許すと?」

「ユーリは生きている。そしてあなたは悔やんでいる。それで十分ですよ」


 するとアルムはおとんに跪いて、そしてみんなに向かって宣言した。


「俺はこの村を守る。祖国を守れなかった俺だけど、今度は絶対に守ってみせる。誓わせてくれるか?」


 その言葉に再び歓声が上がった。

 村を守る魔法使い、アルムの誕生や!


 そして翌日。あたしはエルザとクラウスと一緒にプラトに向かった。馬車に乗って姉妹水入らずの旅はなかなか楽しかった。


「ねえお姉ちゃん。どうしてデリアさんと戦うの?」


 おしゃべりしてたら、急にエルザが訊ねてきた。

 クラウスは何も言わんと馬車窓の外を見とる。


「けじめ、やな。何も打ち明けずに出て行ったから、釈明なしにすんなり許してもらえへんやろ」

「……できれば仲直りしてほしいなあ」

「それは違いますよエルザさん」


 クラウスは外を見ながら否定した。


「喧嘩をしているわけじゃないんです。ただ折り合いがつかないだけ。あなたも知っているでしょう。デリアさんは素直じゃないって。あの人が素直になるのはお兄さんのレオさんだけです」

「そうやな。それに魔法大会で優勝したっちゅうデリアとも戦ってみたい気がするな」


 エルザは「私が言えた義理じゃないけど、なんだか複雑」とだけ言うた。


「クラウス。デリアの魔法のことは言わんといてな」

「分かってます。ユーリさんの魔法のことも言いません」


 おそらく想像はつくけどな。二つ名で分かってまう。


 そして約束の日にプラトに到着した。すっかり春めいとるプラトはすがすがしい晴れやった。雲一つない。故郷の春はなんちゅうかええもんやな。


 デリアの屋敷はヴォルモーデン家の屋敷よりも少しだけ小さかったけど、それでも大きくて広かった。門の外からも分かる。

 門の外には古都で本屋をしとるはずのガーランさんが執事の姿で立っとった。


「あれ? ガーランさん。久しぶりやな」

「ユーリ。久しいな。そしてクラウスとお前の妹のエルザだな」


 クラウスたちのことも知っとるみたいやった。


「デリア様に頼まれてな。本屋を休業して執事をしているんだ」

「へえ。大変やなあ」

「別に。昔に戻っただけだ。しかし魔法大会で優勝したら執事に戻るなんて約束、しなければ良かったな」


 あたしは「デリアもなかなかやるやんか」と呟いた。


「デリア様が庭でお待ちだ。すぐに勝負に入る」

「いいのお姉ちゃん。少し休んだら?」


 エルザの気遣いにあたしは「こんだけ待たせたんや」と答える。


「これ以上待たせるのはあかんわ」

「……良い覚悟だな」


 中に入り、ガーランさんに案内されて。

 そして、再会した。


「久しぶりじゃない。ユーリ」


 目の前のデリアは背が伸びてて、顔つきも大人になっとった。それにますます綺麗になっとる。


「心配したんですよ? 後で説教です」


 離れて様子を見とるイレーネちゃんも大人になっとる。体型が女性らしくなっとって、目にモノクルをかけていた。


「後であんたの武勇伝を聞かせてくれ」


 イレーネちゃんの横に居るランドルフはかなりでかくなっとった。十三歳やのに身長が百八十くらいあるんやないか? 身体つきもムキムキになっとる。


「さてと。さっそく勝負しましょうか」

「ルールはあるんか?」


 あたしの問いに「相手を殺すのはなし。場外負けもなし」とすかさず言うた。


「相手が気絶するか負けを認めるか。それ以外の決着はなしよ」

「ええで。さっそくやろう。合図はガーランさん、お願いするで」


 エルザとクラウスがイレーネちゃんたちと同じところに行ったのを確認して、ガーランさんが手を挙げた。


「いざ尋常に――始め!」


 手を下ろすと同時にあたしとデリアは魔法を行使する。


「アクア・マシンガン!」

「ファイア・マシンガン!」


 水と火の中級魔法が同時にぶつかる。ほとんどが相殺して水蒸気になってまう。

 まあこれは様子見やな。


「かなり強くなってるじゃない、ユーリ!」

「あんたもな、デリア!」


 そこからは魔法の応酬を繰り広げた。上級魔法による攻撃も含めて放った魔法は百を超えたんや。


「……やっぱりあんたは規格外ね。イレーネと同じくらい強い」


 勝負が始まって十分。庭が荒れ果て、水溜りだらけになってしもうた。


「あれを使うしかないようね」

「切り札があるんか。使こうてみいや」

「その前にこの勝負で勝ったら、言うことを一つだけ聞いて」


 あたしは「なんや?」と訊ねる。


「あなたの秘密――いや、あなたは何者なのか、教えてくれない?」


 ……なんや。デリアも薄々感づいてたんやな。


「ええで。あたしに勝てたならな」

「あなたは何を要求するの?」

「そうやなあ。作った村に遊びに来てくれるか? イレーネちゃんとランドルフ、クラウスも一緒に」


 デリアはそれを聞いてにやりと笑った。


「あはは。いいわ。それじゃあ見せてあげる。私の合成魔法を!」


 デリアの魔力が高まるのを感じる。あたしは攻めるべきか迷っとった。

 そして、デリアの魔法が放たれる。


「――エクスプロージョン」


 ちっちっちっと音がして、こっちに火花が来たと思うたら――

 あたしの目の前で爆発が起こった。

 吹き飛ぶあたし。エルザが「お姉ちゃん!」と叫ぶ。


「これが私の魔法。爆裂魔法よ」


 爆発! 一瞬にして相手を攻撃して、何も残らない。デリアの性格である瞬発的な怒りを表した魔法やった!


「手加減はしたわ。さあ早く参ったと言いなさい」


 デリアの勝ち誇った声。爆発で土煙が出来とるから、こっちの様子が見れへんのやろ。


 まったく無事な、あたしの様子が。


「ユーリ、なんですかそれは!」


 最初に気づいたんはイレーネちゃんやった。


「……つくづく規格外だぜ」


 全てを理解したんはランドルフやった。


「――っ! 追いついて追い抜いたと思ったら!」


 デリアも気づいたようやった。


「悪いなデリア。あんたの爆発は――防げる」


 あたしは目の前に作った『盾』を下ろした。魔法で作った盾や。


「風と水の二重属性……!」


 デリアの言葉どおりや。あたしには風と水がある。

 風の属性魔法は切り裂くだけやない。温度を低くする性質がある。

 火と真逆の性質や。


「そう。あんたが爆発なら――」


 ぱきぱきと音を立てながら周りの空気を凍らせる。


「あたしは氷や。これで魔法大会優勝者に並んだで」

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