第94話あらやだ! 協力して戦うわ!

 砂の騎士を見て、こんな授業を思い出した。


「えー、二重属性などの複数属性が厄介のは、どの点だと思う?」


 まだランクSがあたしとランドルフとクラウスの三人やったとき、そしてクヌート先生の正体が分からんかったときの話や。魔法についての座学で複数属性の話が出たんや。


「それは――様々な属性の魔法を使えること、ですか?」

「クラウス、確かにそうだな。一つの魔法しか使えないのと複数の魔法が使えるのとでは応用性が異なる。他にもあるぞ」

「……自分の弱点を補えることか?」

「ランドルフ、それもあるな。たとえば火の魔法だけでは対応できないときもある。自分よりレベルの高い水の魔法使いなら消火されるし、土なら防がれる。ま、逆にこっちの火の魔法が強ければ水は蒸発してしまうし、土は砕かれる」


 魔法には相性関係はないと本に書かれとったけど、そないな理屈やねんな。


「しかし――複数属性の恐ろしいところは、稀に組み合わせられることが可能だということだ」


 よう分からんかったので、あたしは「組み合わせる? どないなことですか?」と訊ねた。


「そうだな。たとえば火と風を組み合わせて威力の高い炎にすることもできる。水と土を組み合わせて泥状の魔法を使うことができる。まあ千差万別だが、そういう魔法もできるということだ」

「しかし属性は生まれながらに備わっているもので、増やしたりできねえんだろ?」


 ランドルフの言葉にクヌート先生は「まあな。だけど知っておかないと対処できないだろう?」と答えた。


「特にユーリは水と風の二重属性だからな。知っておくべきだ」

「しかし、見たこともない属性魔法なんて、どう対処すればいいですか?」


 クラウスの問いにクヌート先生は「簡単だ」と即答した。


「属性魔法は自然界のルールに則っている。さっき挙げた炎でも複数の魔法使いが水の魔法を使えば水蒸気くらいになるだろう。泥だって土魔法か火魔法で乾燥させてしまえばいい」


 そしてこう結ぶように言うたんや。


「無敵の魔法なんて存在しない。弱点のない魔法なんてありえない。だからどんなときでも諦めるな」

「……じゃあ先生、質問なんやけど」


 あたしは生徒らしく手を挙げて質問をした。


「もし二人の人間が――」




「ふうん。やはり平和の聖女とは口先だけの女の子だったらしいな」


 九体の騎士があたしに襲い掛かる。それに対抗して、あたしは水の魔法を放ったんやけど、効かへんかった。

 いや、当たれば効くと思うんやけど、ほとんど当たらんかった。

 相手は人間と違って流動する砂の塊や。せやから当たる直前に形を変えて回避したり、当たってもその部分を切り離してしまう。

 そして向こうの攻撃は半端なもんやなかった。砂でできた剣は風の魔法で強化されとって、普通の剣並みに鋭かった。当たれば痛いで済まされへんやろ。

 風の魔法で攻撃しても同じやった。吹き飛ばそうとも元通りに復活する。


「この魔法を破った者はいない。魔法部隊隊長でさえ、不可能だった」

「…………」

「沈黙したか。まあ力の差を悟れば、こうなるのも必然か」


 いや、あたしが黙ったのはそうやない。この時点で一つの攻略法が見つかったんや。

 土と風で動いとる砂。せやったら水を浴びせれば固まって動けなくなるんやないか?

 そう思うたけど、なかなか機会が巡ってこうへんかった。相手も馬鹿やない。水が弱点やと分かっとるから、回避したり部分を切り離したりしとるんやろ。

 一体や二体の動きを完全に止めることはできる。集中的に攻撃すればええ。

 でも残りの砂の騎士で攻撃されてまう。

 ああ。こないなことになるなら、もっと属性魔法を勉強しとけば良かったわ。


「万策尽きた、ということか。サンド・ナイツを使うまでもなかったが……しかし、油断せずにここはトドメを刺しておこう」


 油断も軽率もない、格上の魔法使い相手に、ほんまに万策尽きてもうた。

 得意の柔道でも砂には技をかけられへん。

 どうする――


「ユーリ! お前も諦めてんじゃねえぞ!」


 その声の方向を向くと、そこにはジンが満身創痍で立っとった。はあはあと息を切らしとる。

 なんでや? 山賊がアジトまで運んどるはずやのに。


「頭目! あんたリタイアしたはずじゃ……!」

「子供に頭蹴られて、気絶したのは不覚だけどよ。それでもいつまでも寝ているおれじゃねえ!」


 そう言い放ったジンはアルムのほうを睨みつける。


「てめえ、奥の手を隠し持ってたんだな……」

「……お前程度に使うまでもない」

「んだとごら!」


 あたしは途中まで混乱しとったけど、急に最後に質問したことを思い出した。

 ジンのアレを使えば、もしかして――


「ジン! ちょっとこっち来て! アルム! ちょっとタンマ!」


 あたしの要望、いやワガママに近い要求に二人は困惑しながらも何故か従ってくれた。そないに迫力あったかなあ?


「何の用だ? もしかして、あの砂の騎士の攻略ができるのか?」

「かもしれん。ええか。あたしが――」


 あたしの策を伝えるとジンは怪訝そうに「できるのか?」と疑った。


「あんたの力ならできる。さあ男は度胸やで!」

「……まあいいだろう。どの道、他に方法はないからな」


 そしてジンは口角をあげて笑ったんや。


「それに、面白そうだしな」


 あたしは「アルム! もうええで!」と言うた。


「二人なら攻略できると思っているのか? その思いあがりを打ち砕いてやろう」

「はん。攻略できないと思いこんどるのを、こっちが逆に打ち砕いたるわ!」


 九体の騎士が剣を構えて、こっちに襲い掛かってくる。


「いくで、ジン! 覚悟決めえや!」

「ああ! 行くぞぉおおおおおおおお!」


 ジンが砂の騎士に突貫する。そして得意の体術で砂の騎士の攻撃を避けたり、逆に反撃したりしながら、アルムに近づく。


「力押しでなんとかなるとでも?」

「――そないなこと、思うてへんわ!」


 その間、大きな水の塊を作ったあたし。そしてそれを――放つ!


「アクア・バズーカや! 行ったで! ジン!」


 あたしにできる最大の攻撃魔法。それを砂の騎士とジン目がけて放った。


「そんなもの、避けてしまえばいい。味方の攻撃で死ぬがいい!」


 アルムの言葉どおり、砂の騎士は素早く水の魔法から逃れる。

 ――やっぱり。思ったとおりや。


「これを、俺の火で、蒸発させる!」


 水の魔法をジンの放った火で、蒸発させる! 蒸発させる言うても、水蒸気になってもうてるけどな。

 せやけど、それが狙いやった。


「ま、まさか! これが、この状態が狙いなのか!?」

「そうや。この――水蒸気、霧の状態がベストや!」


 辺り一面が霧のようになっとる。案の定、砂の騎士の動きはのろくなってる。

 クヌート先生に訊ねた問いは『二人の人間が違う属性の魔法を放ったら、擬似的に別の属性になりますか?』やった。答えは試したことがないから分からんとのことで、実際にクラウスの火とあたしの風でやってみると、炎属性の魔法が生まれたんや。


 せやから、水蒸気の魔法が生まれるんはなんとなく分かったんや。


「それに、砂の騎士を発動しとるときは、他の魔法も使えんな? もしせやったら、とっくに遠距離からの攻撃で勝負ついてるもんな」


 砂の騎士を九体も操れるのは脅威やけど、裏を返せば砂の騎士さえどうにかしてしまえば、後は簡単や。


 あたしは走ってアルムに近づき、唖然としとる隙に、腕と襟を取って背負い投げをした。


「うぐぐ!」

「山賊のみんな! 押さえつけや!」


 あたしらの戦いを呆然と見とった山賊に声をかけると、一同はハッとしてアルムを押さえにかかる。


「ジン。大丈夫か?」


 あたしが近づくと、ジンは「めちゃくちゃやるな。ユーリ」と笑っとった。怪我はないらしい。


「自分でも無茶やと思うわ」

「ああ、だが勝てた。セシールの仇は取れたな」


 セシールと聞いて、あたしは「ああ! こないなことしとる場合やない!」と焦った。


「急いでフクルー村に行くで! アルムも一応連れていく!」

「どうしたんだ?」

「セシールが危ないねん! 話は後や!」


 焦るあたしやったけど、村に着いてみたら、そんな心配は無用やったことを思い知らされたんや。

 それは人の縁ちゅうもんやった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る