あらやだ！ コレあれやろアレ！ なんやったっけ？ そうや転生やろ！ ～大阪のおばちゃん、平和な世の中目指して飴ちゃん無双やで！～

第76話あらやだ！ 王子の真意だわ！

「言っている意味が分からん……一から説明してや、イレーネちゃん」

　あたしは落ち着くためにイレーネちゃんの持ってきた水をごくごく飲んで、それから話を聞くことにした。

「私も何から説明すれば良いのか……カサブランカ王子はとにかく死のうとしているのです」

「そこが分からへん。なんで死のうとしてるんや？　自殺でも考えとるんか？　というより、そないな状態でなんでイレーネちゃんは王子を婚約しようとしとるん？」

　矢継ぎ早の質問にイレーネちゃんは「そうですね、順を追って話します」と言うた。

　それはあたしが抱いていた王子への感情または印象とまったく異なったものやった。

『まずはすまなかった。君をかどわかすような真似をして』

　カサブランカ王子はイレーネちゃんを自室に引き込んだ後、そう言って頭を下げたらしいんや。

『わ、私をどうする気なんですか……？』

『心配要らない。君の身の保証は確約する。信じてほしい』

　真摯な態度と言葉に、イレーネちゃんは王座の間で見たワガママな王子と同一人物か疑ったようやった。

『君を友人から引き離すことを許してほしい。折を見て、解放してあげよう』

『じゃ、じゃあどうして、こんなことをしたんですか？』

　王子は溜息を吐いて、それから言うた。

『この国を変えるためだ。そのためには君を攫って人間と対立する必要があった』

　イレーネちゃんは王子の言うてる意味がまったく分からへんかった。

『何を言っているのか、分からないのですが……』

『この国に革命軍が存在することは知っているかい？』

　イレーネちゃんは首を横に振った。

『知らないか。まあはっきり言ってこの国はもう終わりなんだ。今は国軍のほうが人数は多いが、しかしいずれ革命軍の勢力は増す。勢いは止まらない』

『……王子は何をしようとしているんですか？』

　王子はにやりと自嘲気味に笑った、らしいんや。

『この国――いや王家が革命軍によって滅んでしまったら、エルフの国は群雄割拠の修羅の国になってしまう。四方に配置している軍団が自分の勢力を作り、革命軍を打倒して、それぞれ勝手な国を作ってしまう』

『それは――』

　考えすぎではとイレーネちゃんは言おうとしたけど、カサブランカ王子は自信満々やったようや。

『それを回避するには僕が死ぬしかない。革命軍に母上から政権を移譲して、僕を見せしめに殺さなければいけない。そうしないとエルフの国の国土はバラバラになってしまう。そうなれば、他の種族の介入を許してしまう。エルフの国は――滅んでしまう』

　そしてカサブランカ王子はイレーネちゃんに向かって言うた。

『だから革命軍に人間の軍勢を加えて、国軍よりも大きな勢力を持たせて、一気に王城を攻め落としてもらわないといけないんだ』

『だから私を強引に奪うような真似をしたんですか？』

　ここでようやく、イレーネちゃんは分かったらしい。いや、王子の説明の仕方が悪いんやな。多分、他の誰かに自分の考えを説明するちゅうことをしてなかったんやろ。

『そうだね。どうやって革命軍の勢力を増すか腐心してたけど、君たちが来てくれて、渡りに船だったよ』

　そこでイレーネちゃんは『どうして王子が死なないといけないんですか？』と質問したんや。

『そもそも革命軍に政権を奪わせようと考えるのはどうしてですか？』

『エルフの身分制度を壊すためだよ』

　王子はにこにこ笑いながら言うたらしい。

『キーファー、スラーン、ブルーカ。この三つの身分を君たち人間はおかしいと思わないかい？』

『えっと、まあ、おかしいとは思いますが……』

『僕からして見れば、醜く美しくない制度だよ。壊したくて仕方がなかった』

　王子の表情は変わらへんかったようで、笑顔のままやったようや。

『でもこの身分制度を無くす理由がなかった。王とはいえ、簡単に国是を変えるなんてできっこなかった』

『だ、だから革命軍に政権を奪わせて、無理矢理無くそうとしたんですか？』

　王子は『そのとおり』と肯定したんや。

『でもだからといって、王子が死ぬ必要は……』

『あはは。国民に苦しい思いをさせて、生き延びようなんて思ってないよ』

　そのとき、イレーネちゃんは気づいたようやった。

　王子は笑っとるけど、それは空虚なものやったと。

　同時にイレーネちゃんは王子に同情してしまったみたいや。

『まあ死ぬから許してくれなんて甘い考えだとも思うけどね。死んで償うぐらいしか僕には贖罪が見つからない』

『王子は、いつから考えていたんですか？』

　その問いに王子は『お忍びで港町に来たときに、見たんだ』と今度は悲しそうな顔をしたんや。

『病気の娘を助けようとした母親を、キーファーたちが暴行したんだ。前を通ったというつまらない理由でね。それを見て、その母親が二度と歩けない身体になったと聞いて、思ったんだ。罪深い身分制度を無くそうとね』

　イレーネちゃんは王子の悲しみを理解できたんや。優しい性根の持ち主やからな。

『今のところ、計画通り動いている。そして僕の計画をさらに強固にするために、イレーネちゃんに協力してもらいたいことがある』

　エルフの国、プラントアイランドの王子、カサブランカは床に正座をして、両手を突いて、そのまま頭を下げた。

　いわゆる土下座の形になって平民であるイレーネちゃんに懇願したんや。

『どうか僕と婚約してほしい。そして即位式と同時に結婚式をしてほしい。ああ、形だけでいい。僕はすぐに死ぬだろうから』

　そこまでされたイレーネちゃんは断ることができず――

「私は受け入れました。でも、私は王子を死なせたくない。だから、助けてください」

　イレーネちゃんの話を聞いて、あたしはすぐさま言うた。

「気に入らへんな」

「……えっ？」

「カサブランカ王子に会わせえや。一回文句言わへんと、気が済まん！」

　あたしはイレーネちゃんの手を掴んで外に出ようとした。

「ちょっと！　ユーリ、落ち着いて！」

「落ち着けるか！　なんやねん、そないな滅茶苦茶な計画は！　自分が死んでそれで終わりなんて許せへんわ！」

「だから、ユーリも一緒に考えてください。王子を死なせない方法を！」

　あたしは「その前に文句が先や！」と言うてイレーネちゃんを引きずりながら外に出ようとして――

「ユーリ、私は王子の味方になりたいんです」

　信じられへん言葉にあたしの足は止まった。

「なんやて？　正気かイレーネちゃん？　あんたのことを利用――」

「それは許せませんけど、それでも、味方でありたいんです」

　イレーネちゃんは真っ直ぐあたしを見て言うた。

「ユーリ、あなたがアストの王子を助けたのはどうしてですか？」

「それは――助けられるもんやったら、助けたいと……まさか」

　イレーネちゃんはあたしに向かって言うた。

「私は優しくて不器用なカサブランカ王子を助けたいんです。目の前で国のために一人犠牲になろうとしているエルフを見過ごせない。ただそれだけなんです」

　あたしは「なんやそれ」と思わず笑ってもうた。

「論理的でもあらへんし、感情論やんか」

「うう、ユーリに言われたくないです！」

「確かに、あたしには言われたくはないわな」

　あたしは「しゃーないな。助けてやるか」と軽く言うた。

「まあ子供が死ぬのは見てられへんな。でも王子のことは一発殴るで。ええか？　イレーネちゃん」

「……手加減はしてくださいね？」

　さて。そうなったらしておかんといけないことがあるな。

「イレーネちゃん。王子をここに呼んでくれへんか？」

「何をする気ですか？」

　あたしは「決まってるやろ！」と啖呵を切った。

「腹を割って話すんや。王子の気持ちを確認するんや！」