第29話あらやだ! 騎士学校だわ!

 特級クラス――魔法学校で言うところのランクSやろか――は五人と聞かされたんやけど、居たのは四人だけやった。その四人は鎧姿やった。


 一人は大剣を持った、同世代にしては大柄な野性味あふれる少年や。銀髪で目が厳つい。


 長い槍を持っとるのはこれまた長身の少年や。せやけど前の少年と比べて線が細い。この子は青髪やった。


 四人の中で紅一点の女の子はレイピアちゅう細い剣を携えておる。濡れたような黒髪が印象的なお人形みたいな美人さんや。


 そして一番奥に控えていたのはこれといって特徴のない剣を持った少年や。軽薄そうな感じがする茶髪で糸目な子。


「うん? ランドルフ、久しぶりだね。ということはあれかい? 彼らが古都の有名人かい?」


 軽薄そうな少年が気楽そうに声をかけた。ランドルフは「ああ。そうだ」と応じた。


「へえ。赤毛の女の子は結構な美人だねえ」

「なんや。あんたは口説いてるんの?」

「可愛い女の子に声をかけるのは、男の子の嗜みだってじっちゃんが言ってた」

「へえ。おじいちゃん想いなんやなあ」

「うん? もしかしてあれかい? おじいちゃん子は嫌いかい?」

「いーや。家族を大事にするのはええことやで」


 軽薄そうな少年はにやりと笑った。


「ランクSの魔法使いって聞いてたから堅苦しいと思ってたけど、違うんだね」

「あはは。当たり前や。あたしは普通の女の子やで?」

「ねえ。二人で話してないで、私たちにも自己紹介させてよ」


 女の子が少し眉をひそめた。すると軽薄そうな少年は「ああ、悪かったよ」と素直に謝った。


「そんなにね、嫉妬しないでよ」

「嫉妬なんかしてないですよ。まったく、あなたは軽すぎる――」


 説教が始まると思いきや、今度は槍の少年が「あ、また敬語だ。罰金だな」と口を出したんや。すると女の子は罰の悪い顔をしよった。


「なんや。敬語はあかんのか? そしたらクラウス。あんた喋られへんで?」

「ああ。これは特級クラスだけの決まりごとなんだ。そっちは自由に喋っていいぜ」


 槍の少年の言葉にクラウスは「ああ、良かったです。僕のキャラが崩れてしまいますからね」と言う。なんや敬語はキャラ作りやったんか。


「……話が逸れたな。ならば我輩から自己紹介させていただく!」


 今まで黙っていた大剣を持っている少年が声をあげた。声量と熱量が大きくて一瞬びっくりしてしまう。


「我輩はルーカス・フォン・ルークストロング! 気軽にルーカスと呼んでくれ」

「だああ! 暑苦しいんだよ! ルーカス!」

「ぬうう!? す、すまない!」


 槍の少年はルーカスをたしなめた後、自己紹介しよった。


「俺はローレンツだ。よろしくな」

「君は冷めているね。もっと何か言うことがあるんじゃないのかい?」

「ならお前が言ってみろよ」


 ローレンツのじろりとした睨みに急かされて、軽薄そうな男の子は言うた。


「俺の名前はラルフだ。俺とローレンツは平民出身なんだ。よろしく!」

「俺と変わらないじゃねえか!」

「おお。そんなに怒るなよ、ローレンツ」


 なんや愉快な連中やな。楽しゅうなってきたわ。


「馬鹿な男子はほっといて、私も自己紹介させていただくわ」


 女の子はお辞儀をした後、優雅に自分の名を名乗った。


「クリスタ・フォン・ゾンドルド。よろしくね」

「こちらこそ、よろしゅうな!」


 今度はあたしらの番やな。


「あたしの名前はユーリ。平民出身や」

「僕はクラウスです。よろしくお願いします」


 あ、普通な自己紹介をしてもうた。ボケたほうが良かったのかなと思うてしまう。

 そうや。久しぶりに飴ちゃんをあげるか。


「お近づきの印に飴ちゃんどうや?」

「あ、飴ちゃん? なんだそれは?」


 ローレンツの言葉にやっぱり知らんのかと思うた。

 まあええ。あたしはテキトーにポケットの中から飴ちゃんを取り出して四人に握らせた。


「まあまあ。これを舐め。美味しいで」

「我輩、このようなもの見たことない――」

「食べ物やで! 甘くて美味しいんや!」

「おいおい。こんなガラスみたいな――」

「せやから食べ物やっちゅうねん! 食べや!」

「ど、どんな味がするの――」

「赤いからいちご味や! いちご好きやろ?」

「これはあれかい? あのホットポカリ――」

「当たらずも遠からずや。心に染み渡るで!」


 そういうわけで四人は一斉に飴ちゃんを食べた。すると驚愕の顔になりよる。


「なんだこれは! 我輩の実家でも食べたことないぞ!」

「うめえ! なんだこの甘さは!」

「どうやって作ったんですか!? ていうか創れるんですか?」

「これはあれかい? 果実と砂糖で作ったのかい?」

「あはは。ラルフ。正解や」


 まあこれで心は掴んだやろ。仲良くなれたら嬉しいなあ。


「まさに魔法使いだな。おい、ランドルフ。お前が羨ましいぜ」

「ローレンツ。決して毎日食べているわけじゃねえぜ」


 ルーカスがクラウスに「貴殿がハンバーグステーキなるものを開発したクラウス殿ですかな」と話しかけた。


「ええ。そうですけど」

「代金は払うから、実家の料理人にも作れるようにレシピを貰えないだろうか」

「そうですね。ここで作ってもいいですよ。材料と竈さえあれば」

「いや、妹に食べさせたいと思ってて――」

「ああ。それなら特許料の半分でいいですよ」

「ま、まことか! かたじけない!」


 その言葉に他の三人が一斉に反応したんや。


「ずりいよルーカス!」

「卑怯なふるまいはしないんじゃなかったの?」

「見損なったわ!」

「ま、待ってくれ! 妹に食べさせたい気持ちだけなんだ! 決してやましい気持ちは……」


 クラウスは「それでしたら、ハンバーグ以外の料理を作ってあげますよ」と言う。四人はきょとんとしていたんやけど、すぐに涎がずびっと出てまう。


「クラウス。お前何作るつもりだ?」

「そうですね。材料を見て考えますよ」


 ランドルフの心配を余所にクラウスは余裕たっぷりやった。


「そういえば首席の野郎はどこだ? また遅刻か?」


 ランドルフの言葉にクリスタちゃんは「そうみたいね」と苦笑いをした。


「それでは僕は料理を作りに行きます。食堂は……向こうですね」

「……なんで分かるんだよ?」

「鼻がとても良いので。煙も立ってますし」


 ローレンツは「これがランクSなのか……」とあらぬ誤解をしよった。いや、クラウスが特別なだけやで?


「あ、クラウス。これ使いや」

「うん? ああ、バジルですか」


 袋一杯に入ったバジルをクラウスに手渡した。


「昨日市場で見かけたんや。クラウスに渡そう思うてた」

「ありがたくいただきますよ。トマトがあれば嬉しいですけど」


 そう言うて、迷いなく食堂に向かうクラウスやった。


「それじゃあ訓練でもしようぜ。そうしたらあの遅刻魔も来るだろうよ」


 ランドルフの提案に四人は頷いた。ここでのリーダーはランドルフらしいな。

 せやけど、訓練を始めようとしたところで出鼻を挫く声がしたんや。


「悪い。寝坊した――っ! なんであんたが!?」


 振り返ると、そこには見覚えのある男の子が居た。

 金髪で目が青い。美少年と言ってもいい顔立ち。前に見たときよりも背が高くなっとる。

 二刀の剣を左右に差しとる。鎧姿。そして驚愕に歪んだ顔。


「うん? ああ、久しぶりやな」


 あたしはにこやかに手を挙げた。だんだんと思い出したからや。


「うん? ユーリさん。知り合いなのか?」


 ランドルフが不思議そうな顔であたしと少年を交互に見つめる。


「故郷でちょっと知り合った縁や。名前は知らんけどな」

「……虐められたところを助けてもらったんだ」


 その言葉にランドルフたちはびっくり仰天してもうた。


「はあ!? 首席のお前がか!?」


 ランドルフの首席という言葉にあたしもびっくりした。


「あんた、そないに強いんか?」


 せやけど、それ以上にびっくりすることがあった。


「あんたじゃない。俺には立派な名前があるんだ」


 その名前は――


「レオ・フォン・ヴォルモーデン。よろしくな」


 あたしの友人、デリアと同じ姓やったんや。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る