第十五話 宣戦布告-1
※
気球が国内上空にさしかかったところから、明らかに待ち構えられていた。出発と同じ北門付近の広場に着陸した気球の周りを、五十名あまりの武装集団があっという間に取り囲んだ。俺達三人は、ただ手を挙げて気球から降りるほかなかった。
「《荊》が一振り、《水剣》のリティシア・アルテミスだ。大人しくすれば手荒な真似はしない」
青の飾り羽がついた銀色の
「またあんたかよ……《水剣》サマは俺の連行以外の仕事もらえないのか?」
「私とて貴様の顔など見たくもないわ。今回用があるのは貴様ではない」
アルテミスは長剣の切っ先を、俺から一つ隣に滑らせた。
「そなた、アイルー王国からの友好大使、テト殿で
「あぁ……? そうだけど」
「失礼ながら、身柄を拘束させていただく」
テトが何か言うより早く、殺到した武装兵が俺とマリアを押しのけて、テトを上から押さえつけた。
「な……なにすんだ、お前らっ!!」
蒼い閃光が爆発し、テトを取り押さえていた男たちが悲鳴を上げて蹴散らされる。蒼く放電しながら立ち上がったテトは、下から真っ直ぐアルテミスを睨んだ。
「ほう、煉術で電撃を……さすがはアイルーの
「ワケ分かんねえことばっか言いやがって……お前らの仲間、死んでんだぞぉッ!!」
青い目をかすかに潤ませて、テトは爆ぜるように突撃した。光の矢にも似たその速度に難なく反応し、アルテミスの
「あぐ……ッ!?」
「残念ながら、私に
背後から膝裏を蹴って
「貴様ら二人も、悪いがついてきてもらう。……ところで、ヒイラギはどうした。ここにいないということは、現地に残ったか。よほど巨大な獲物でも仕留めたのか?」
「……死んだよ」
「……は?」
甲冑に隠れてアルテミスの表情は分からないが、その声は、かつてないほど素っ頓狂に響いた。
「カンナでも勝てないほどの敵がいた。人型の、知能を持つモンスターだ。今、なんでテトを締め上げてるのか知らねえが、それはカンナが死んだことよりも重要なんだろうな? そうじゃなきゃ……お前ら、分かってるよな」
俺を拘束すべく肩に触れた男を睨み上げると、男は悲鳴を上げて尻餅をついた。
「あ、アルテミス様! 気球の積荷にこんなものが……こ、これって、もしかして」
気球の中を調べていたらしい男数名が、ジフリートの尾と卵、そして、一振りの、鞘に納められた白銀の細剣を抱えてやってきた。驚きと、混乱、それから隠し切れない興味の滲んだ
「触るな!!」
「ひぃぃぃぃぃぃっ!?」
腰を抜かして男が取り落としかけた白銀の剣を、静かな所作でアルテミスが取り上げた。
「……ヒイラギ。
低く呟いたアルテミスの声は、心から、
「激務からの帰還早々に、無礼な真似をしたこと、許してほしい。カンナの武勇、最期を含め、聞きたいことは多くある。……だが、こちらの問題も
テトの拘束を解き、片膝をついたアルテミスは、俺たちではなく、まるでここにいないカンナに礼を尽くしているように見えた。俺とマリアは目を合わせ、小さく頷いた。
俺たちは、静かに王城までの道のりを連行されていった。武器を取り上げられ、手首を腰の後ろで縛られる。テトは鎖で全身をぐるぐる巻きにされた上、首筋には常時アルテミスの剣が突きつけられているという厳戒態勢。
よほど何かを警戒したのか、アルテミスの他にもうひとり《荊》が帯同していたが、紹介を受けるまでまさか国の最高戦力とは思えない
腰の曲がったおばあちゃんである。
豊かな白髪を頭の上で団子のように
《
「テト君や、アメちゃん食べるかい?」
「えっ、アメって甘いやつ!? ほしい、くれっ!」
「ヴァローナ殿、
アルテミスの悲鳴は耳が遠くて聞こえなかったのか、プルプル震える手でタッパー(どこに隠し持っていたんだ)から取り出した飴玉を、ヴァーチャは「あーん」と開けたテトの口に放り込んだ。「うわ、うめえっ! ありがとうばーちゃん!」と無邪気に笑うテトに、ヴァーチャもにっこり微笑む。なんと緊張感のない奴らだろう。テトが少し元気になったのは良かったけど。
本来の三倍ほどの時間をかけて、俺たちは城へ到着した。通されたのは、王審のときの玉座の間ではなく、一階の天井の高い《騎士の間》であった。そこに待っていたのは、まずは特別
整然と左右に
ルミエール国王、ルミエール十二世。
「国王様、
「ご苦労。……ん、《月剣》はどうした。そやつらと共に特別任務へ出ていたはずであろう。……さては、また次の任務か」
アルテミスはあえてなのか、それに否定をしなかった。三人並べて
「……なんだ、それ」
「駐屯基地の生き残りが帰還して知らせなければ、我々はアイルーの凶行など知る由もないところだった。言え。その間に、貴様は我が国に潜り込んで何をするつもりであったか」
テトは困惑した瞳をレッドカーペットに落とし、呆然とつぶやく。
「お……おれはただ、ウチの偉い人たちに、友好大使としてヴァサゴのおっさんとルミエールに行ってこいって言われただけだ。何をしろとも、言われてない」
こめかみに血管を浮かべた王の手の一振りで、テトは見えない力に叩き伏せられたように顔から床に着撃した。
「ぬけぬけと
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