第20話 帰還-1


 王国の中で、赤く焼けた空に最も近い場所。白い巨城きょじょうのてっぺんに、城に負けぬほど真っ白な青年が立っていた。


 三角屋根の頂点に苦もなく立ち、真北から吹いてくる風に白い髪とマントを靡かせて、気持ちよさそうに目を閉じる。三十メートルもの高度からは、茜色に染まる王国の景色を一望できた。


「思った通り、綺麗な花が咲いたね」


 白い、透き通るような美青年は、満足げに微笑んだ。彼の名は《白皇》。世界最強の男。


 先日、長旅から帰還した彼は、王国の門前で泣いている金髪の少年と出会った。美しい心の持ち主だった。それはどんな武力や知力より尊いものだ。


 荒野で懸命に咲こうとする花に、そっと水をやるような気持ちで、白皇は少年を励ました。別れ際、そっと授けた《加護》は、戦地に飛び込んで行こうとする少年へのエールのようなものだ。


「ただ……すぐ近くで、余計なものまで目覚めてしまったみたいだけどね」


 白皇は銀色の目をすがめた。先刻、世界が歓喜の声を上げた。煉素たちもずっと落ち着きがない。


「……アカネウォーカー。どうして君は、生まれてきてしまったんだ」


 その目は、氷のように冷たかった。

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