第27話「シン・おれはエヴァを許さない」

 と、ようやく。シン・エヴァの内容に踏み込めるとこまで来ました。


お待たせしてすいません。


 しかし、この長い待ち、それこそがエヴァンゲリオンなのです。


 エヴァを待つあいだに様々なことがあった。我々はただ、なにもなく二十五年を、過ごしたわけでもなく、シンジくんのように。気がついたら十四年たってたというわけでもない。


 トウジやケンスケがいうように、ガキのままでは生きていけなかった。

それこそ、お天道様に見せられんようなこともやってきたのかも知れない。


 否応なしに俺たちは大人になることを求められ、そして、気がつけば精神はともかく、社会的地位と身体はすっかりおっさんで、おばさんで、どうしようもなく年を重ねていった。


 エヴァだけが、あの頃のままだった。


 Qから八年の時を経て、人はいろんな社会環境でこの作品に触る。


 もし、中二の時にエヴァに始めて触れたという人でさえ8年たてばもう社会人。

それは、それは様々なことがあるでしょう。


 おれはおれで家をたてたり、会社をやめて、独立とかした。結婚は残念ながらしてないけど、おっさんになったからといって、変化がないわけではない。むしろおっさんになってからの方が劇的な変化が起きることもある。


ホメオスタシストランジスタシス。


エヴァではじめて知った言葉だ。


 いまを維持しようとする心と変化させようとする心その2つがせめぎあって人は生きている。とリツコは説明していたが、まさに、そんなことを感じる30代だった。常に変化させなきゃいけないと思いながら、今ある生活はなるべく崩さないようにと生きている毎日だ。


 まあ、ともかく俺たちは大人になってしまったのだ。

 成長したかどうかは別にして、アニメ版の時に少年だった人間も、新劇の時に少年だったものも今ではすっかり社会に取り込まれて、大人になった。


 そして、シンエヴァで碇ゲンドウはいうのだ。

 「他人の命と思いを受け取るか……大人になったな、シンジ」


 この他人の命と思いとは、裏宇宙にいるシンジのために、命をとして槍を届けたミサトを指しているものだ。

 この視点は、旧劇場版までにはなかったものではないか。

 旧劇までの世界とは他人の思いを受け取るのではなく、他人を巻き込んでまでも何かを達成しようとする話である。

 旧劇に限らない、そもそも新劇場版破の時点で、ゲンドウは「願いというものはありとあらゆる犠牲を払い達成させるものだ」と言ってるし、シンジ君もそれを受けてどうかを知らないが、世界を犠牲にして、綾波を助ける選択をしている。

 ミサトですら「いきなさいシンジ君、あなた自身の願いのために」と言ってるのだ。

 「破」までのエヴァとは、実現のための物語なのだ。


 一方で、シンエヴァで、いわゆる泣き所となるシーンはその全く逆のところである。

 まずは、ミサトがシンジをエヴァに乗せる際に「私が責任をとる」といったシーンである。Qまで本心を隠し続けてきたミサトが初めて、序のころのミサトさんに戻って訴えるシーンはみんな感動しただろう。

 そして、次にぐっとくるのは、ミサトが一人で特攻する際に、リツコにすべてを任せるシーンである。

 リツコはすべてを受け入れて、決してその行為を止めたりはしない。

 自分の役目は、ミサトの死を受け入れて、その後の責任を持つことだと悟っているのだ。

 ここで、「ミサト、それではあなたが……」みたいな無粋なことを言わない。私が代わりに残るということも言わない。

 これはリツコがミサトの命と思いを受け止めてるということを示すシーンである。


 少年漫画でこれはできない。

 少年漫画なら、一人で死なせるなんてできない、みんなで助かる道を選ぼうという風になるだろう。

 

 対比として、総員退避のところで、ながらっちが「やはり私も残ります」みたいなことを言うのだが、それをはげのおっさんが「生き残ることが使命なんだ」と諭す。

 正直このシーンはいらないと思った。

 それは、もうリツコが果たしているのだ。あるいはリツコの思いが伝わらないと思ったために付け足したシーンなのだろうか……。


 シンエヴァではしつこいくらいに、「けじめ」という言葉が使われた。それと同じくらい他人の思いを受け止めるシーンが挟み込まれている。


 実はシンジも他人の死を受け入れるシーンがある。

 言わずもがな、黒綾波のはじけるシーンである。


 これは今までの作品のシンジなら、泣きわめいてまたふさぎ込んで、何もしないとなるところである。

 ところが、シンジは前に進んだ。「涙は自分しか救わない」と気が付いたから。

 

 とんでもない成長である。


 「他人の死」を言い訳に何もしないことが許されるのは子供時代までなのである。

 シンジはそれに気が付いた。この時点でもうシンジは他人の思いと死を受け止める大人になったのだ。

 

 その後のヴィレによる拘束とかにも不満は言わなくなる。ギャーギャー叫ぶガキシンジはいなくなった。(もちろん、こんなに急に精神的に成長できるわけないだろって思うんだが、そこはやはりエヴァがループの物語なのだろう。カオル同様何度もループすることで、潜在的な成長があったのだと考えよう)


 しかし、この「他人の死を受け止める」ということ「他人の思いを受け取る」ということは特にとりわけてすごいことではない。

 誰もが経験することである。

 ましてやエヴァンゲリオン25年歴の人は、避けて通れなかっただろう。誰かの死に直面しただろうし、もしかしたらその中にはエヴァを最後まで見ることができずに亡くなった者もいるだろう。

 シンエヴァを見る人の中にはそういう思いを受け継いでエヴァを見に来た人もいるのだろう。


 他人の死を受け止めながら、他人(社会)の思い、期待に応えながら我々は生きて生きた。誰だってそうだろう。誰に褒められるわけでもなく、そうやって生きたきた。


 そしてシンエヴァで言われるのである。

 ゲンドウに「大人になったな」と。


 そしてカヲルは「そうか君はリアルの中で成長したんだね」といい、


 アスカは「少しは成長したじゃない」と認めてくれた。


 これって、シンエヴァを見てるすべての大人たちを称賛してることに他ならないと思うのだ。旧エヴァまでは説教だったんだけど、シンエヴァでは我々を認めて、この25年間よく頑張って生きてきたねって、褒めてもらったような気がした。


 体ばかり大きくなってちっとも精神的には大人になんてなった気はしないけれど、まあそれでも、やっぱ頑張って生きてきたんだよって自分をほめたっていい。

 実際、みんな、自分だけは自分をほめてるはずだ。そうじゃなきゃ生きられない。

 

 そして、自分で自分をほめてもそれはそれでいいけど、長年追っかけてきた何かに認められたっていうのが本当に感慨深いしすごいうれしく感じた。

 そしてそれは、ぽっと出の作品では語れない重みがある称賛である。


 監督も苦しみ悩みながら、ようやく他人を受け入れるという決断ができて、この結末を出してくれた。それがありがたい。 


 だからやっぱ、シンエヴァは卒業式なんだ。

 ファンも卒業し、監督もまた卒業した。


 もうエヴァは思い出でいい。


 昔はこうだったね、とアスカと話しあえたように、思い出にして、そして思い出のままにしていいものとなった。それが心地いいんだ。


 勘違いしてはいけないんだけど、シンエヴァはこういうことに気が付きなさいとか、こうであるべきとかいう啓発的な作品ではない。

 いろんな思いを感じる人がいると思うけど。

 これは、その人の心にある何かの思いの確認作業。


 あの時に見たときの自分と今いる自分の確認だから、それが多くの人の琴線に触れる(はず、よって一気見した人にはつまんねーなあってなるかもしれん)


 シンエヴァは確認のための儀式、なのである。


 そういう意味では俺にとっては卒業式というより成人式なんかもしれん。

 実際の成人式ってちっとも大人になった気がしない時にやったし、ヤンキーどもが騒ぐだけのものだったから、あれをもって何かの儀式とは思えなかった。

 20年遅れでようやくちゃんと成人式を迎えられた感じだ。


 うん、これがしっくりくる。


 アラフォーの成人式です。

 エヴァンゲリオンは。


 おめでとう、おめでとう、おめでとう。


 アニメ版のラストがようやくここで伏線回収されましたね。


 母にさようなら

 父にありがとう

 そして世界中のたちにおめでとう


 以上長くなりましたが、終わります。


 




 さて、長らくエヴァンゲリオンを許さない俺でしたが。


 うん。


 まあ、まだ書き残したことがあるので、





 まだ、許してあげない。






 というか最初から許すも許さないもないんじゃあっ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る