三章 元勇者、王族との関係に悩む

三章 元勇者、王族との関係に悩む(1/4)


 木々がれる。さきほどから、大小のしんどうが葉をおどらせ落としている。


 山中であった。パルムック村より十数分でたどり着く名も無き山、そのふところである。


 パルムック村からほど近い山中。細長いうめきを上げて、体長二メルをえるおおいのししくずちた。二百キラム(一キラム=約一kg)を軽々えるきよたいが地面をらす。


「む…………?」


 たおふくおおいのししの前に立っていた少年──ダイスが、木々の向こう、十数キル(一キル=約一km)の彼方かなたにある王都へと目をやった。


「ふむ。今になってったか」少々のかんがいふくんだ声。「だれかは知らんが、借りが出来た」


 ぐ、とその手がおおいのししきばつかむ。そのまま、あろうことかそのきよを引きずり始めた。少年が、本日のものと共に山を下っていく──。


   ○


 ランテクート家、深夜のゆう室。りよくの照明がともる中、一人で机にすわる服を着た白骨の姿がある。


「アル殿どのと分かっておれば、中々に絵になりますな」


「ダンスオブデス。エイン王都でもっていたようですね」


 マクドナルは感心したようにうなずいてアルの対面へとすわる。アルが口にした単語は美術のブームだ。


 死のしようちようであるがいこつがあらゆる階級層の日常をえがいた絵画の中に現れる──おう軍によりもたらされた数多あまたの死により、死の前では身分など関係無く、だれもが平等であるという価値観が産まれた。それをテーマにした絵画の様式だ。


 これは戦乱の中、連合国おのおのの階級社会にもえいきようあたえている。おう出現前の貴族など特権階級と平民は、今の比では無いほどにかくぜつがあったのだ。今のアルとマクドナルの会話など、戦争以前はまず成立しようもない。


「いやはや美術の教養もお持ちか。生前はどのような?」


「つまんない男でしたよ。こんなしゆも無くてね」


 アルの骨指が机に並べられたせんばんへいをつまむ。


「ほう、たしなまれますか」せんばんは、貴族においても人気のゆうである。


「死んでからハマるのもけな話ですがね」


「では一番、受けて立ちましょうか」


 あごと口周りをおおひげを笑ってゆがませ、マクドナルがこまを並べた。


「ずっと遊んでたかったんですが、人生そうも行かないようで。……死んでるのに」小手調べと『せつこう』をアルが進める。


「勇者のお仲間ともなれば、いたし方ありますまい。だ戦争は続いておりますから」それをマクドナルの『見張り台』がとがめるように受ける。


 しばらく、じよばんじようせき通りのこまわされる。せんたんばん上西側で開かれ、アルの『そうへい』がとつしゆつするのをふさぐように『たてれつぺい』が置かれる。


「──殿でんがスケルトンながら図けた力をお持ちであることは、経歴からも、フブル殿どのあつかいから見ても分かります」


 厚さを増す『たてれつぺい』。たいの意図をみ、アルがばん上からマクドナルへがんこうを向ける。


むすめ──ミクが、殿でんぼうけん者仲間としては力不足ということはありませんかな」


 むしろそれを望んでいるというこわである。


むすめさん結構な天才ですよ)とは口に出さず、アルは側面へと『女王』を進める。代わりに口に出すのは、


「王へのえつけん予定が立ちましたか」


「──かされましたか。さきほど、フブル殿どのからの知らせが来ましてな」


かのじよもおめの言葉をたまわる予定ですね」


 いよいよマクドナルも説得しにくくなるということだ。そこで、ミクトラが尊敬する仲間からくずしに来た。


「…………いやまあ、ご心労お察しします」


 アルはそう言いつつ、『そうへい』と『女王』で『たてれつぺい』をくずしていく。居候いそうろうの身の上、はっきり言葉では断りづらい。希望にえず申し訳ないという意思表示である。


「うむむ」やや情けない顔をマクドナルが表した。


 貴族では無い、親としての表情だ。ぼうけん者など、どこでれ死ぬか分かったものではないのだ。わざわざ、よりによってむすめかせたい親はいない。


あきらめませんよ、私は」マクドナル、はんげきの『ほうへい』多重展開である。


「そこをなんとか」「いやでもしかし」「いやいやそれは」「なんのどっこい」


 骨と父親の夜はけていく。




「では──そうの無いようにな」


「そう何度もおつしやらずとも、分かっております」


 数日後。王城へと向かうアル、ミクトラ、ハルベルの姿があった。


「胸がちょぅっと……」かなしげな顔でハルベルが服の余りをまむ。


「す、すまない」


 何せ王とのえつけんだ。ハルベルの服装はミクトラのお古である。特定部位のサイズ差は如何いかんともしがたいが。


 アルの方は先日こうにゆうした服のままだ。流石さすがげんえきの貴族当主の服にアンデッドがそでを通すわけにも行かない。


 フブルがしたほろ付馬車に乗り、王城へと向かう。


流石さすがい馬車だ。れない」行商人の友人のものをおもかべ、アルが座席をでる。


「私馬車とか乗るの初めてなんだけど。……ていうか……お庭が……広い……」


 城門をけてからさらに十数分をかけて庭園をけ、二人と一体を乗せた馬車が王城の正門に付けた。


 フブルに会った時は通用口からだったため、正式にひんかくとして訪問するのはアルを除けば今回が初めてだ。そしてアルもまた、この姿になってからは初めてである。


「よっこいしょ」


 フォーマルなシャツにズボン、ぶくろ姿のアルが先に降りる。周囲の目が集まり、ささやごえわされる。かれの『設定』は、先んじてフブルより城内に知らされている。


 アルがミクトラへと手を差し出すが、かのじよは首をりハルベルと共にみずから降りた。貴族ではなくぼうけん者としての来訪である、と周囲に示した形だ。こちらも、れいじようだったころかのじよを知る者たちからのささやきがれる。


 このの案内で一度ひかしつに通され(とう会が開けそうな広さにハルベルが面食らった)、しばし後に呼び出される。えつけんだ。


(アインアル王か……)


 アインアル・ア・エインヘアル。


 エイン王国三十五代国王。エイン王国は、千年以上の昔に、だ肉を持っていた本物の神と人間の子により開かれた王国だ。よって、王家は代々、神の血をぐ。この世に五例のこると言われる、『神のざん』の一つだ。


 今代のアインアル王は、五カ国連合のおんを取ったけんおうだ。平時は強権を発することはなかったが、おう戦争をけいすぐれた指揮力を発揮し、存在感を大きくした。


 勇者アルヴィスとも親しい。親しかった。ただ今となっては、アルはかれに正体をさらす訳には行かない。


 とびらが開かれ、えつけんの間に三者が入る。居並ぶ王国重臣、衛士たちにどよめきが広がった。


「あれが……」「王城にアンデッドを招き入れるとは」「勇者の仲間というのは真なのか」「それもだが、あの少女だ。ただのむらむすめでは?」「あれがしゆくんとは信じられんが」


(無視よー無視無視)


(がるるるる)


 事前の打ち合わせ通りしゆくしゆくと歩みを進め、王座の五メル前でひざまずき顔をせる。


「アインアル王、なりである」


 王座の右に立つフブルの声。


 アルたちからは見えないが、王座の後ろのカーテンをくぐり、エイン国王アインアルが姿を現した。王座をまわみ、かれひざまずく白骨に目をやった。


 一体と二人は、姿を見ずともその『王器』とでも言うべきものを感じ取った。そういう気配が、今代の王には備わっている。


「王」フブルのつぶやきに王はうなずき、王座へこしを下ろす。


「おもてを上げよ」


 アルはなめらかに、ミクトラとハルベルはおそるおそる顔を上げ、王の顔を見る。


(遠目には何度かお見かけしたが、はいえつは初めてだな……)


(うひゃー、すんごい美形)


(おひさー。ってまあ、言えねえけども)


 三者三様の思いをいたところへ、


「遠路、よくぞ参った。殿でんかつやくどうさいしようフブル・タワワトよりおよんでおる。エンデ村民ハルベル・エリュズ。ぼうけん者アル。ランテクート家……」ここで、アインアルは言葉を止めた。フブルに目配せをし、フブルはうなずきを返す。


「いや、ぼうけん者ミクトラ・クート。じゆうしんが一角・おうセッケルとうばつまことたいあつれである」


「はっ……! か、過分な御言葉を……」「はいぃ……」


 感激ときようしゆく。二人を微笑ほほえましく思ってから、アルが続けた。


おそります。このような身です。勇者の手助けをしていた時から、参上するは失礼かと姿をかくしておりました」


 アインアルが興味深げにアルを見ながらうなずく。かれとしても、アルの存在は最近まで知らされていなかったことである──当たり前だが。


「アルヴィスもみずくさいことだ。このようなけつぶつの存在をだまっておったとは。余とあやつの仲だろうに」


「え~、おうわさは、かねがね~……」


「なんだ。やつめ、いまだに最初のたく金がひんそうだったことをっておったか」


「い! やぁ~、そんなことは……はは……」実際まだちょっと思っている。


 その様子に、王は笑って「よい」とてのひらを向けた。内心、胸骨をなで下ろすアルだ。


ほうを出さねばな。目録は後でランテクート家にらせる。そちらで受領するがい。それと」


 アインアルの目が、アルからハルベルへと移った。王の視線を受け、ハルベルは静かに息をむ。


(ハルベル……きんちようしているだろうな。これまで王など意識にも上がらぬ生活だったのだ。まともに応答すら出来るかどうか)


 ミクトラがづかわしい視線をかのじよへ送る。が、ハルベルの目は、王の目を見返していた。


(ハル、ベル……)ミクトラはあつにとられ、


(ほお……王のすら受けるか。おもしろい)どうさいしようは口をゆがめる。


(この人が、王様……かちこちになっちゃうと思ってた)


 ハルベルは意外な思いを自分に対して得る。これは、かのじよが元々持つはがねのような精神、というだけの事ではない。


(……私の中にある、みんなとのつながりが。だれに対しても、おくすることを許さない)


 礼を持たないと言うことでもない。おびえやしゆくで、成すべきことを成せないこと。それを、ハルベルは自分に許さない。村でのさんげきが、かのじよにそれを許さなくなってしまった。これはある意味、かのじよに備わった生来の大りよくよりも異様な性質であると言えた。


(思い、出すんだ)


 ハルベルは目をいつしゆん閉じる。エンデ村の光景を思い出す。守るべきものを思い出す。


「ハルベル・エリュズ。求めるものが有ると聞いたが」


 王の言葉が降りてくる。かのじよは、深呼吸を一つ。ひとみを見開いた。


「はい」堂々と、ハルベルは王に応えた。


「エンデ村を、私にください」


(はい直球きたぁ────!)


(オブラートというものをだなハルベル────!)


 わき二者が心の中でだいばくしようおおあせを巻き起こす中(フブルもした)、えつけんの間もまたざわめきに満たされた。


「な……」「大それた」「村一つだと」「エンデ?」「バルキア国境近くの……」「平民が何を」「だがじゆうしんの──」


「静まれーぃ。ぜんである」


 ほおんで笑いをみ殺したフブルの一声。声が収まった中、アインアルもまたうす微笑ほほえみでハルベルを見た。


「ふむ。大きく出たものだ」


「王よ、お待ちを。言葉が少し足りていないのではないかな、ハルベルよ」


 助け船、というようにフブルが水を向けた。


「あ、う、ええ、えーと」


 ハルベルはわちゃわちゃと手をって百面相した後、一転、泣きそうにアルを見た。


(おやおや、度胸は満点じゃが)フブルがおかしそうにそれをながめ、アルに視線を移した。


(ま、クソ度胸はあっても手段はまだまだ)アルがシャツに包まれたわんこつを挙げる。


 ふんが再びざわついた。勇者の仲間へのけいと、アンデッドへのが混じったもの。


「アルよ。発言を許す」しよう混じりのたんそくをして、王。


「差し出口ながら。今はこのむすめの保護者のようなものでして。みなみなさま、国としては何も変わるものではありません」


「ほう?」


「報告は行っているかと思いますが──エンデ村の住人はじゆうしんセッケルの手により、かのじよを除き残らず死んでおります。現在は、ほぼ人と変わらぬ機能を有したゾンビとして暮らしています」


 重臣たちから次々と疑念のざわめきがれるが、フブルが手をかかだまらせる。


「動くとは言え死人では行政上、村として存続させるは不適当。そうなれば税も取れませんし資源庫たる森の管理もかないません。ただし、かのじよこうぼうと名を変え存続を許していただけるならば」


「税も森の管理も従来通り、というわけか?」


「そ、そうですそうです!」


 ハルベルがあわてて何度もうなずく。アルが「はい」と続ける。おもしろそうに王が目を細めた。


「実利だけ取るならばほど、何も変わらぬな。では問題の話をするか」


「え……」


 ハルベルが意表をかれたような声を上げるが、ミクトラとアルはやはり来たか、という思いだ。


 王が居並ぶ重臣の内、数人の集まりに目を向けた。かれらが次々に口を開く。


「ではまず一つ、そのむすめになにかあればどうなる? 死者が野放しになるのではないか?」


「それに将来はどうなる? 何十年の後、かのじよの死後に再び代わりの入植民を用意するのは骨だぞ」


「次。王領の村一つ、ぼうけん者のほうしゆうとしては多大に過ぎるのでは?」


「さらに、これが一番大きいが」


 重臣たちの意見をまとめるように、王が最後に口を開く。


じようの存在たるりようを、こうぼうの所有品あつかいとはいえ働かせ、かれらが産み出した税を取ること、そのだ。カランタン商業同盟ならばそれも受け入れたやも知れぬ。だががエイン王国は神を祖に置く。神のきらほうによる統治を認めるかいなかはみようなところだ」


 神は自然の生死をゆがめるりよう術をきらう。これはいくつかのぶんけんや伝承によりほぼ通説とされている。


(実際いやがるしなあ、あいつら)アルは心中たんそくする。


 王にさきほどまでのおもしろがるような色は無い。せいしやとしての顔が、ハルベルを見ている。


「これらについて、解決を示せるか」


 ぐ、とハルベルは言葉にまる。重臣たちが言うことについては、対策と損得の問題だ。ただ、王の言う話は心における問題だ。それも、国の成り立ちに起因する。


(さて、このままだとエンデ村ぼつしゆうの率が高いが……)


 アルは視界を後頭部に作り、ハルベルを見守る。


(どう、すれば……)迷いつつ、ハルベルはどうにか声を上げた。


「私が死ねば、……村のみなへのりよう術は解除するようにします。これが第一の問題への解答です」


 ふん、と先の問いを発した重臣が一応のなつとくをするように息をつく。


(次は……)将来と、ほうしゆうとしての問題。


「ハルベル」


 そこにミクトラがハルベルのかたに手をやった。「発言をお許しください」もう片方のうでで挙手する。


「許す」


「ありがとうございます。では──」立ち上がり、せきばらいを一つ。かのじよは頭の中を統治側──貴族のそれにえてもどす。


「村の将来についてですが、これは国が負うべき責務です。そもそも、王領の村がじゆうしんセッケルにおそわれぜんめつしたのです。人口の回復までかのじよに負わせるのは筋がちがいましょう」


「この先ともすれば数十年、りようが住まうことになる土地だぞ。容易ではない」


「それを言うならば、かのじよがいなければ村はグールが百体以上あふれるじゆうしんきよてんと落ちていました。それに比べればなんのことがありましょうや」


 重臣がその光景を想像したか、むうとうなる。グール百体。打ち破るならばその十倍以上の兵が必要だろう。それでなお、がいは相当に出る。


「次のぼうけん者へのほうしゆうとしてどうか、と言う問題。これもしかり。かのじよった敵はそこらのものではありません。ぐんの将・じゆうしんです。村一つのこうぼう化、運営というほうしゆうは過ぎると言うことはありますまい」


 おう軍により、エイン王国だけでも十や二十ではきかない町や村を一度は失っている。五カ国連合全てであれば百を軽くえるのである。それをした十軍の一つだ。


すでほろびた村一つ、と考えれば……」「安いものだと?」「ふうむ」


 反対派重臣以外の場の人々に、検討の色が広がっていく。


(ミクトラさん……ううっ、ちようい人だよ……)


 ミクトラを拝むように見上げたかんるいのハルベルであるが、ひるがえって本人は、


(ふっ……ハルベルがめでたくぼうけん者となれば女ぼうけん者の友人もかくとくだ。もはやだれにも私をぼっちとは呼ばせん……!)


 こういう人である。


「──しかし、そのむすめ一人でったわけではあるまい」


「それなら、私のぼうけん者としての功績はハルベルのものに加えて結構」


 そくに答えたのはアルだ。


かのじよの仮けいやくアンデッドとして戦ったんでね。問題無いでしょう?」


「…………ふはっ」


 場にいる者たちの視線が笑い声に集まった。王だ。


「ふっふふ……いやすまんすまん。アルよ。お主を見ておると我が友アルヴイスを思い出すな。あれもずいぶんと気前のいい男だった」


「は──はっ、いえ、私もかれのファンでしたので……」


 王の右後ろにいるフブルの(バカ! ウカツ!)的な視線を受けながら、アルは(うおーやっべー!)と弁解する。


「陛下! 最大の問題が残っておりますぞ!」


けがれたほうに村の統治を任せる訳には参りますまい。──そもそもが、そこなむすめいまほう使つかいの資格をしゆう中の身」


 反対派の続けざまの言葉に、アインアルは経過を問う視線をフブルに向ける。


「座学はへいぼんですが、の者は先日地下集合墓地のじよれいを実習任務でげております。実績は十分として、後はいくつかの単位を残すのみかと」


 それに、主にえいたちからおどろきとかんたんの声が上がった。


「道理と先行きは立っておる、しかしてほうの問題は残る、と。なれば──追加の検討が必要かな」


(ふいー、なんとか残したか)


 アルのぶくろにぎられる。少なくとも、この場で断られる事態はけられた。さらに、


「しばしの時をいただけるのならば、い方向への判断材料を用意できるやも知れません」


 かれは言葉をすべませる。げんな視線を王が向けた。


「神のげんでも取ってみせると? 他ならぬりようのお主がか? にして?」


「確実に出来るかと言えばみようですし。何より、勇者と私の秘密にて」


 指を立てるアル。周囲の者たちから「不敬な!」などの声が飛ぶが、アインアルはおうようてのひらを上げそれを治めた。


「ふ。やはりお主はおもしろいな、アル。なんというか──みように期待させるところがある。……良かろう」


 アインアルが立ち上がる。


おうとうばつの件、ほうしゆうについては追加の検討を行う。しばしを待つがい。何かあれば、アル、そなたがさいしようを通じれんらくすがいい。──では、本日は退場を許可する!」




 三人がえつけんの間を出た後。重臣も解散し、しばしのきゆうけいとしてえいたちも出て行き、当番が外に立つのみとなった。王がかたわらのフブルを手でさそう。


「何か?」


「アルヴィスの話題でな、思い出した。──むすめの様子はどうです、先生」


 王ではなく、アインアル個人としての問いがじゆとしてのフブルへと発せられた。


いませっておられるのう。とりあえずは、精神をほぐすこうを処方してはおるが」


「やはりか」とアインアルはたんそくする。その表情には先のえつけんには無かったうれいがある。


「原因は……まあ分かり切ったことだが」


こいが人を殺すこともある。──王女は、単なる政治以上に、単純にアレを好いておったからな」


「ふむ、新しいこんいん話も、今は逆効果にしかならんかな」


「で、あろうよ。──ちと、わしに考えがある」


「……かれらを?」アインアルの目が先刻退室したアルたちを見るように出入り口を向いた。


「アルヴィスの仲間としてな。なぐさめの話題の一つも出るやもしれん」


 いつしゆん、アインアルはためらった。だが、


「三年も政務で何も出来ぬ父ではな。分かりました。何かあればしてやっていただきたい」


「あいわかった」

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