間章

間章


「──それは真実か」


 雪深い山脈の中で。きよだいかげが身じろぎした。アルたちげき退たいしたりゆう可愛かわいく見えるほどのようだ。さらには、その周囲や上空には無数のりゆう──ワイバーンの姿がある。


「確か、らしい。りよくいちげきを身に受けて確信した、と」


「よもや、人間になど……」


「どうする」


 夜のやみと雪白が周囲を支配する中、複数のきよだいな気配がさざめき合う。


「決まっている。お連れするのだ。本来あるべき場所へ」


 うち一つが、。月光に照らされ、その頭部があらわになる。


 大型のちゆうるいひづめ持つにゆうるいを組み合わせたような見た目。頭頂部からは美しい角がびている。色はとおるようで、しかし他のかんしよういつさいこばむ、白。理知を備えた眼光が、はるか南西の方角をえた。


 りゆうだ。それも、せいりゆう。生命の頂点種である。


 白きりゆうおくが呼び覚まされる。十年前、戦争じよばんで行われたりゆうぐんによるという行動。みずからが任され、燃やしたエイン王国、王都エイエラルド。下町を燃やし、貴族街をこわし、王城までらんとした所で、王族の必死のはんこうにより時をかせがれ、退かざるを得なかった。


 今回、報告があった場所がエイン王都のきんりんということは、はくりゆうにとって何かいんねんめいたものを感じさせた。


「ゆこう」白が告げる。


「……行くのか」


 別の声。こちらは、いまかげの中にある。その口調には、くらひびきがあった。


「ゆかぬと言うか」


「かの御方──いや、すでりゆうあらざるならばその者が、それを望むるか──」


 きよぜつの気配を感じ取り、はくりゆうりゆうがんに非難の意をめる。りゆうとその身からただよりよくは、意志を乗せるだけで低級の生物へと多数の身体異常をもたらす。この山中は今、大規模な生物分布の変化が起きている。りゆうを頂点とした生態系へと。


 月光の白と、やまかげの黒のりゆうがんからった。けんのんな気配が山中へと満ち、ワイバーンたちりゆうえをおそれるようにはなれていく──。

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