三章 元勇者、王族との関係に悩む(2/4)


   ○


「ふええ……どうにか乗り切ったぁ……」


「しかし最後はきもが冷えまし……冷えたぞ……何か策があるのか?」


 一方。城を出たアルたちは帰りの馬車の中だ。


「んー……無い!」


 堂々と胸骨を張り答えるアルに女性じんかたがコケた。


「な、無いの?」


流石さすがおれもポンポン神様に会えねーしなあ……」


 指骨をがつこつに当て、むむむとがいを直角までひねるアル。


「うーん……神様がりようぎらいってのは前に教えてもらったけど……」


「まあそれはそうなんだが。でも今回の場合、実際は大して問題無いんだよな」


「そうなのか?」


 ミクトラがアルへと問う。アルはほろてんじようを指さしつつ、


おれは生前に実際会ってるんだが、神々ってのは基本、人に大して興味が無いんだ」


「それ、は……少ししようげきだな」ミクトラ自身、けいけんとまでは言わずともマルト教徒だ。


「まあしんこうされる分にはあっちも悪い気はしてないさ。でも、基本地上の人間同士が何しようが別にかれらがどうするってことはない。そりゃぜつめつしそうになってたりしたら話は別だけど」


 だから、アルヴィスも神々にちやりさせられた訳である。


「じゃあ、エンデに私がこうぼう作って国に税納めても?」


「神々からすりゃ知るかそんなモン勝手にやれ、ってなもんだ。ただ問題は、神そのものじゃなくてそれをはかる人間の方だから……」


 勇者アルヴィスならば発言に説得力はあっただろう。だが今や勇者は死に、動く骨のアルさんだ。


「保証が必要になるわけか。……だがしんたくなど……」


「たまにおれ来るけど」


「「来るの!?」」


 がくぜんとする二人である。何しろ現代は神が地上を去ってから千年と少し。神の存在など基本お話と説教の中だけの存在だ。


「とはいえ、基本はあっちからの一方的なもんだ。おれが話したいから呼んでくれってのは当然無理」


「い、いやそれ十分とんでもないから」


「大司教すら、人生でしんたくなど一度あるかないかだと聞くからな……」


 まあそれは置いといて、とアルは手骨をそろえて動かし、


「確実に出来るかは分からんってのはそういうこと。運良く向こうの気まぐれで呼ばれれば、何か分かりやすい保証くれって出来るけど、それも聞いてくれるか分からんし」


「結局今は機を待つことしか出来んか……」


「そ。んで、ハルベルは勉学にはげむしかないわけだ」


「きゅう」


 ハルベルがミクトラのかたへと頭をたおした。ミクトラがあわてたように顔を赤くする。


「は、ハルベル?」


「アルもだけど……ありがとう、ミクトラさん。さっき、助けてくれて。お礼しなきゃ」


 えつけんの間でのことだ。


「い、いやその、気にするんじゃない。ゆ、ゆう、友人だからな」


(あ、ちょっとテンパってんな)


 くアルだが、それを口にしない情けは白骨にも存在した。


「そう? ……えへへ。ミクトラさんの友達なのね、わたし」


 うっ、とうめいてミクトラがふるえる。


「ま、まあな、礼というならば、ほら、私としてはだな」


「何?」


 ハルベルに間近から見られ、ミクトラは深呼吸を一つ。


「その……友人として呼び捨てにしてくれれば」


「え、そんなことでいいの? ていうかそれお礼になってる?」


「な、なる。なるぞ。なるとも」


「そう?」とハルベルは小首をかしげて、「分かった。じゃあ……ミク、トラ……ミクトラ。えへへ。これからもよろしく!」


「ああ、こちらこそよろしくたのむ、ハルベル……!」


 ミッションコンプリート。感激してハルベルの手を両手でにぎるミクトラさんである。


「なんだこれ」


 アルのつぶやきはれいにスルーされた。


   ○


「やはりここでしたか、アル殿どの


「…………おじようさまの説得はお断りしたつもりだったんですが」


 えつけんの後。深夜のランテクートていである。住民がしずまった中、例によってゆう室で一人、指乗りゴマを練習していたアルだったが、再び家主であるマクドナルが現れた。


「……そちらもあきらめてはいませんが。今日はそのことではありません」


 マクドナルが対面へとこしを下ろす。インクのかおりが、今までのしつを知らせていた。


息子むすこのことです」


「カルネルス君の?」


 アルも何度かは会うが、その度に半泣きになるかげてしまうため、深く話したことはない。なお、ハルベルはたまに遊んでいる。


(利発そうな子ではあるよな)そんなわけで、アルにはこの程度の印象しかない。


「最近、息子むすこの身に何か起きているようでして」


 アルが背骨を前に曲げ、聞く体勢を取る。がいかたむけてうながす。


「数週間前からですな。夜になると時折、息子むすこの部屋から声がするのです」


しんにゆう者ですか? それとも、家の──」


 アルは自分たちが疑われている可能性もふくめて聞くが、マクドナルは首を横にる。


「失礼ながら、貴方あなたがたふくめ、家中の者はかくにんしています。その上で、行ってみてもだれの姿もない。窓も戸も、しんにゆうけいせきはまるでありません。このようなことがかえされております」


 完全ではないが、密室ということだ。


だれかがいつしよてみては?」


「無論、ためしました。しかしどうやら、その場合共にいる者には声が聞こえぬ様子。ずかしながら、私と妻も気づかなかった夜にも、それは起こっていたようです」


 ふむ、とアルは指の骨をがいの穴に引っかけ考える。想定するのは当然、


(ゴースト……だが、そんなに器用な行動するのがいるかね?)


 さらに、れいてきな存在が王都にしんにゆうするには、王都じようへき全体をおおう結界をとつせねばならない。これは大なり小なり町には存在し、王都の結界は折り紙付きの強度だ。地下墓所のぼうれいたちが地上へ出てこなかったのはそのためだ。


「分かりました。世話になっておりますし、何より友人の弟さんだ。放ってはおけません。調べてみます」


「ありがたい。えんじよしみません、たのみます」


 そう言って、貴族マクドナル・ド・ランテクートはアンデッド相手に頭を下げた。


   ○


「なんだこりゃ」


「こっちもだよ」


「これも、これもか……なんということだ、しばらく仕事を空けていた内にこんなことになっていたとは」


 翌日。アルとミクトラ、そしてハルベルがいるのは、王都のぼうけん者協会だ。流石さすがと言うべきか、セクメルの協会よりも二周り以上の広さがある。加えて、いくつか支所もある。


 三者は、かべられたらいを見ている。その中に、『夜な夜な何者かが子供をねらっている』だの『深夜のしんにゆう者らしき者の調査』だの『しんしつゆうれいを見た』だのと、要は今カルネルスに起きているかい現象の調査らいがいくつも存在していた。らいらんを見れば、王都に限らずきんりんの村からのらいすらある。


「カルネルス君、クマ出来てたもんね。単にそくだと思ってたけど」


 今回、ハルベルが休日のためアルに付いてきている。そのため、周囲からのの視線もあるにはあるものの、それはなつとくと同時のものだ。


「──私もかしでもしているのかと思っていたが、よもやこのような……くっ、姉失格というものだ」


 むミクトラを、先日友人にんていを受けたハルベルがよしよしとでる。


(それでいいのかせんぱいぼうけん者。……しかし、ここまで大当たりとは)


 アルとしては、夜を待つ間に似たような話が無いかと思い協会をたずねたというわけだ。


「こりゃ手分けした方が早いか。別のらい受けてみするとしよう。おれら平民街、ミクトラ貴族街で」


「りょーかーい」「あい分かった」




「もし。らいを受けたぼうけん者ですが」


「はい……うおおおおおああああああ!」


 とびらを開けたらい者の男性が、アルを見てこしかした。


「なんだろう。ノルマ達成した感がある」


「何言ってんの?」


 ともあれ。ハルベルが男性へと手を貸した。


「す、すいませんおどろかせて。かれは私の、その、けいやくアンデッドで……えへへ」


「え、ええ? じゃああんた、え、……りよう術士? は、初めて見た」


「卵ですけど。えーと、らいを見て、オバケのわざじゃないかなーって思いまして」


 ハルベルのフォローに、男性が一応なつとくの表情をかべた。家の中へと一人と一体を招き入れ、話し出す──




「結局、カルネルス君の事情とほぼ同じだったな」


「だよね。オバケ? さんは色んな家に行ってるってことかな」


 二者はせつしよくが出来た数けんらい主へ当たったが、基本的には同じ情報が得られたのみだ。


「こんだけかぶるなら、がい者? の共通点に注目した方が良さそーだな」


「きょーつーてん?」


 アルはうなずいて、公園のベンチへとこつばんを下ろした。となりにハルベルもすわる。


「小さな子供」


「あ」


 カルネルスも、今日アルとハルベルが話を聞いた家庭のがいった人々も。全員としも行かぬ子供だ。


「ミクトラにも聞いてみる必要はあるが……多分確定だろう」


「ちっちゃい子が好きなオバケさん?」


「うーん犯罪のにおい。……そういや、マガツじいさんの国にはあめで子供育てるオバケの話があるって聞いたな」


「いいオバケなの?」


 ハルベルが食いついた。さてどーだろ、とアルは考えをまとめがてら、


「あれ、アルじゃん? ひっさしぶりー」


 公園にいたてん商から果実入りの棒あめを買ってくる。


「ほいお子さま、あめちゃん」


「お子さまじゃないもん。でもいただきます……ふえーあまーい♡」


 文句を言いつつもハルベルがあめを口に入れる。


「ともあれ、こうなるとせんざいがい者も合わせれば確かになることがある」


「人間じゃあり得ない、ってことだよね」


 予想していたことのため、あめをぺろぺろなめつつ、すらりとハルベルが答えた。


「ねー。おーい」


「そだね。王都中の幼児。何万人いるか知らないし、全員ががいってるとも思わないけれど……がい者全部に正体もゆくつかませないとなると、肉体持ってて出来るこっちゃないな」


 骨でも無理、とアルは両わんこつを広げて見せる。


「おいこらー」


「となると、やっぱ私の出番かな?」


「かなあ。今日からおれが張る。出たら起こすぞ」


「うん、でもアル、後ろ──」ハルベルが言い終わる前に。


 すぱーんとアルのがいが後ろからはたかれた。


「無視しないでよ! 泣くぞ!?」


「いや仕事のじやしたら悪いかなって……」


 アルが頭骨をさえてく先には、なみだおうちする女行商人・レヴァの姿があった。アルの初仕事のらい人であり、それ以来友人付き合いをしている。


「なんかさーあ、アルって私にだけ性格悪くない? ミクトラさんには服あげたりずいぶんやさしくしてたよね? 今も何よアルのくせに生意気な……って」


 そこで、レヴァとハルベルがたがいを見た。


「「……………………」」


(あ、そういや初対面か)アルが思い至る。たがいをしようかいしようとした時だ。


「アル、このしゆ悪いわよ」「アル、この人しゆ悪い」


 同時にたがいを指さして言った。


「泣くぞ君


 骨にだってなみだは出ないが悲しみはある。そう自覚してたんそくする白骨であった。


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