四章 骨勇者、神への供物をクエストする

四章 骨勇者、神への供物をクエストする(1/4)


 ダイスはめずらしく、朝から家にいる。りの出がけに村長に呼び止められ、届いた手紙を姉にわたした。それを一目見た姉のルーラットに止められたのである。


(あの様子。だれぞ不幸でもあったか。しかし、わがはいたちに身よりはもうないはずだが)


 ルーラットは手紙を食い入るように見ている。その手がわずかにふるえて、


「……ダイス、私、王都に行ってくるね」


「姉上。何が?」


 姉の目線が再び手紙に落ちる。ややあってから、


「お父さんの……遺品が、見つかったんだって。王都で。……引き取りに行かなきゃ」


 聞こえた言葉に、ダイスはめんどうげに立ち上がる。近いとは言え常人の足では多少かかる。女性ならばなおさらだ。


「あれ? なんでダイスもたくしてるの? 私一人で行けるよ? たぶんだけど。どうして? あれ? ねえ?」


 手のかる姉なのだ。


   ○


の方、見事である!」


 王女の生きりようそうどうから数日後。再びの王城えつけんの間だ。とうとつに呼び出されたアルたちは、着くなりアインアル王の激賞を正面から受けた。


さいしようからおよんでおる。の方ちからえにより、王女エルデスタルテが復調したとな。さらに、国民をなやませていたぼうれいさわぎも治めたとのこと。これは再びほうしようせねばなるまいよ。品はランテクートていに送る。楽しみにしておれ」


 そして、じようげんのアインアルがてのひらで指し示す先。王女エルデスタルテ・ア・エインへアルがえつけんの間へと現れた。重臣やこのたちからどよめきが走る。


 王女はよどみない足取りで玉座の横にはべる。アルの姿を目にとどめて、わずかに目を見開くがそれだけだ。


(やばい、元こんやく者王女様ちよう美人なんですけど……!)


 ハルベルがズレた危機感をく。そして、王女がそのうららかにかがやく小さなくちびるを開いた。


みなさま、ご心配をおかけしました。エルデスタルテは、この通り命の神エンケの微笑ほほえみを受けることかない、快気いたしました」


 かんせいいた。まつたんの兵士にすら愛される王女の復調である。しばし、その声をげん良く聞いていた王が、てのひらで声を止めて王女にうながす。


「では、エルデ。この場で申すことがあるな?」


「はい、お父様。──みなさま、私は、勇者様とお目通りかないました」


 こんわくの声が広がった。


(はいきたー…………)


 アルはひざまずいたまま、後頭部でその声を聞く。とてもではないが、今の心境でエルデスタルテの顔を直視出来ない。自分の姿を言い訳に、顔を上げずに済んでほっとしている。


「勇者アルヴィス様がおかくれになり、ふさむ私のもとに、かれは降臨してくださったのです……ここよりはるか高み、神のいます世界より」


「なっ……」「勇者だと!」「アルヴィス・アルバース」「神になっていたというのか!?」


 かんこんわくきようがくのどよめきが巻き起こる。


「それは真実か、エルデ」


「はい。その証左に、私はかの御方よりしんたくを預かりました。一字たがえず申し上げます。──『神々は人の治世のありように口は出さず。エンデ村のこともしかり』……」


「エンデ村だと?」「神々がなぜ」「いや、勇者であれば王の周辺を見ていても」「それよりも、このことは自室におられた王女様には知りようがない」「では、本物と言うことか」


「聞いたな、みなの者」


 ざわめきをアインアルがった。王の視線がハルベルに向く。


ようしんたくが下った以上、最大のねんふつしよくされた。よって、余はじゆうしんとうしたハルベル・エリュズに、希望通りエンデ村のこうぼう化、そして税のちようしゆうふくめた運営を預けたい。異論はあるか」


 アインアルがえつけんの間をわたす。反対派ふくめ、声は上がらない。


「良し。だが、前提条件は変わらぬ。ハルベルはこのまま王立養成学園に通い、ほう使つかいの資格を取得することが条件だ。術のれんふくめ、一年のゆうあたえる。より一層、修練にはげむがい」


「は……はい! ありがとうございます!!」


 ハルベルがあわてて頭を下げる。こぼれるように「やった……やったよ、みんな……!」となみだごえれた。


 アルはそれを、後ろからほっとする思いで見る。が、かれにとってのしようげきはその直後だ。


「うむ。それでは次だ。今回、勇者アルヴィスが天上に神としてあることが判明した。それゆえ、余は勇の神として、アルヴィス・アルバースの神像を作りたい! ゆくゆくは連合と協議し、しん殿でんも計画したいが、どうか」


「はい?」思わず、がつこつから声がれた。だがそれは、直後のエルデスタルテのかんせいによりかき消される。


らしいお考えです……! 流石さすがはお父様にあらせられます!」


「はっはっは、さもあろうさもあろう」


「確かに」「これは名案」「ぼうけん者の信者が多く集まるでしょうな」「くにの王女にしんたくがあったのですからな」


(待て待て待って……!)


 泣きそうな気持ちのアルだ。無論、表情にはビタイチ出ない。


「うむ、それではこの事はまた後でかくを練るとしよう。さて、ハルベル・エリュズ、アル、ミクトラ・クートよ。再びの登城、たいであった。下がって良し!」


   ○


呼ばれたか分かっておるか? なあ、が勇者」


「ナンノ、コトカ、ワカンナイナー」


 ここはか。世界のどこでもない。上位次元、神々のいます空間。それも、最高神である光明の神マルドゥのしん殿でんだ。


 アルはそこへ精神だけを呼び出され、おおがみが座すさいだんの前に立っている。


 ──かつて、勇者時代のアルにおうとうばつしんたくを下し、神聖けんスカットゥルンドをしたのがこのマルドゥ神だ。それ以来、アルはぼうけんかたわがみまわされた。正直言って苦手の部類なのである。


 マルドゥはおそろしいまでのこう(神々のりよくだ)をまとい、ほおづえをついてしどけない姿勢のままにやにやと、ねこものを見るようにアルをながめる。


「風のうわさでな」風もつかさどる神性が、白々しく言う。「なんじが神をやっておると聞いたが、はて、なんじは我のさそいをきよし、こともあろうにりようとして地上にるのではなかったかな?」


(いちいち地上のぞいてんじゃねーよひまがみ


「おや、骨が何か言うたかな? 聞こえんな?」


「心読めるだろーが。──悪かったよ。でもお前ら人間に大して興味ないしかかずらうこともねーんだから本当のことじゃん」


「ふうん。ほおう。言いおるわ。だがそれと神をしようするのは別問題よな?」


 にやにや、ねちねちと神は笑いつのる。ちなみに、マルドゥは正義もつかさどる。


「人助けのためだったんだって……」はんばくするアルの口調はしかし弱い。


「おお、あのむすめ二人な。エンラルうええいと、……ふむ、ネーガル殿どのの……」


「え、何?」


「ああ、口がすべった。わするるがい。大した話では無いわ。……ふむ、さてなあ。人の世ににせ神は数多いとはいえ、張本人を前ににしたものか! はてさて!」


 大変に楽しそうな最高神様である。


「……やらせたいことがあんだろ。今回はおれが悪かったから、骨のほそうででやれることならやるよ。言えよもう」


「おや!? そんなこと言ったかな? いやはや、気をつかわせてしまったかな?」


(う、うぜえ…………)だれだこいつに神界の全権をあたえたのは。


「ふうむ……さて、そうだな……うん、思いついた。ではが勇者よ、翌日になんじの……何と言ったか、ぼうけん者組合か。そこに行くがい。一つ、ぼうけん者らしく仕事をやってもらおうか」




 すさまじいけんたい感と共に、アルの意識が降りてくる。


「くそ……いやな予感しかしない」


「どうかしまし……したか、アル」


 アルが視覚を起動させると、グラスを持ったミクトラの姿が映る。ほおがほんのり赤い。


 ランテクートていに帰ってからは、エンデ村のお祝いとして簡単なしゆえんが設けられた。主役のハルベルは少しはなれたソファで、あまくちワインのびんいてごうちんしている。


「酒乱の気があるなあいつは……。なんでもないよ。用を思い出しただけ」


「そうか。先ほど、父上と話をしてきた」


 ミクトラの目がアルのかたわらに向けられる。そこには、アルの白いわんこつくようにしてねむるカルネルスの姿がある。かれの目元にはもうクマもない。


「ふふ。あれだけ貴方あなたこわがっていたのに。なつくと早いものだな」


 かれは今回の事件解決に際しアルのかつやくを聞いて、ようやっとけいかいを解いたのだ。えんかいの間中どこかしらの骨にひっついていたものである。


「プーチを思い出したよ。元気にしてっかな。……で、マクドナル氏はなんて?」


「ああ。王の再びのほうしようもだが……カルネを回復させたのが大きかったかな。私のぼうけんぎようを認めてくれた」照れくさそうに言ってから「まあ、私は今回あまり役に立たなかったんだが」と笑う。


「いや、貴族街から情報取ってきてくれただけでも十分十分。……おれが王都で動けるのも、君のうしだてがあるからだしな」


 事実、アルは存在としてはランテクート家の、ぼうけん者としてはミクトラのわたっているのが大きな点だ。けいやくアンデッドということもあり、王都に来て数ヶ月、それなりに自由に出歩けるようになってきている。散歩や仕事の時間も増えた。


「おめでとさん。一ぱい付き合おう」


「ありがとう。これからはより一層、貴方あなたの仲間としてずかしくないようがんらせてもらおう。……あと、生前のこんやくうんぬんは私もハルベルもなつとくしていないからな」


「それは忘れろ。いいから」


 たがいにしようして、グラスを合わせる。アルのゆううつもちょっとだけ晴れた。

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