エピローグ
エピローグ
目を見開いた彼を迎えたのは、差し込む朝の光だ。不快感に顔をしかめると同時、
(あれ? おや? うむ? やけに復活早いな……?)
セッケルは疑問を抱いた。勇者に敗北した以上、無事な訳はない。
「お、起きたか。大変だったんだぞそこまで再生させんの」
「アルが吹っ飛ばしすぎなのよ」
言葉にセッケルが視線を向ければ、スケルトンの姿に戻ったアルと、ハルベルがいた。さらには、ガンティの姿もある。
さらに後ろの風景から、ここが室内だとセッケルにも知れた。日の光は窓から入っている。
冒険者組合、その倉庫室である。
「なんと監禁! 何のつもりかね」
「お前が寝てる間に色々相談してな」
アルの言葉にセッケルは首を
「おや! 君も無事だったかね」
「ま、成り行きでよ……」
そこで、セッケルは違和感を覚えた。ヘリャル
「契約は解除したぞ、
「……
意図が
「お前をこの村で雇う。ガンティさんら──村の
「……何と?」
「この村に娘を縛りつけるのは
次に口を開いたのはガンティだ。
「一つ! 聞きたいのだがね。それを私が身の安全と引き替えにやると……まあ仮に
せせら笑うセッケルの前へ、ハルベルが進み出た。アルを振り返り、
「いいよね?」
「一発だけな」
なにを? とセッケルが聞き返す前に、
「つぇい!!」
彼の顔の中心に
「捕虜の
不満を
「む、これは! もしや!」
「ふん。ほんのちょっとだけすっきり。
ハルベルが宣言し、セッケルが
「ぬうう! 君たち! 私が『死んで』いる内に契約術式を通したな!? ぬおお、禁止条項山盛りではないか!」
「五十回は失敗したわ、契約
「死んでた癖に抵抗力高過ぎなんだよお前」
「同意無しとはなんというブラック! 恥をしりたま……おぶ!」今度はチョップが飛んだ。
「うっさい! 病気
「それはその通り! そして止めてくれ、支配者の
「どうどう。はいしどうどう」
ひょい、とアルが興奮するハルベルを抱き上げて後方に配置する。
「ま、そういうことだ。どちらにせよ、村全体がこうなっている以上、届けはせにゃならん。でないと調査が入った時にゃ、最悪村ごと
「しかし、娘が離れれば我々は天に
「本当は
事実である。セッケルほどに力をつけたヴァンパイアの個体は、完全に世界の摂理に背を向けた存在となる。仮に
「……なるほど? 理屈は見えた。私には
「……俺らは村を守る
ヘリャルが補足する。アルが水を向けた
「不満か」
「いや。また
「なんだなんだ! 私が不満だったのかね君! 労働環境はそんなに悪くなかっただろ!」
「失敗するとアンデッドにするのはどうかと思うねえ」
「黙ってなさい」
ハルベルの鶴の一声。それに、セッケルは居住まいを正した。
「……ぬう。ふん! まあいい! 良かろう! やってやろうさ」
「素直じゃないか」
アルが意外そうに
「
あまりにあまりな、力の論理である。アルがハルベルへ
「本気。私には
「まあ私が管理するからにはだな! あの芸術的なゾンビども、ランクアップさせまくってやろうぞ! あれだけ質が
ガンティが
「……ところで! あの
「……まだ寝込んでるんだと」
「アルの正体知って気絶したのよ、あの人……」
◯
当のミクトラは、民家の一つの客間、ベッドの上でシーツにくるまっている。
あの後、帰ってきたハルベル
(アルが勇者様……アルはアルヴィス様……えへ、えへへ……うそ……うそだあ……)
そしてなにより、勇者への
何度も行ったプロセスだが、繰り返しそこに思いが至る度、彼女の顔は真っ赤に染まる。
(うわあああああああ~~~~! 死にたい! 死ぬ! 死なせて! あああああああああああ!)
明け方から延々、この調子である。家主の夫婦が、伝わる振動に二階を見上げた。
「ミクトラさん、まだ
「そっとしておいてあげましょうね……」
◯
「ええと、まあそういうわけなんだけど」
『お主……ほんっと! ほんっとにああもうああ!』
場所は戻って、再びアル
彼女は
『いー
最高権力の一角からの
「だ、第二の母くらいには思ってるよ……」
『ぬっ』
不意を突かれたようにフブルが顔を引く。やや頬が赤い。ここがチャンスとアルが拝み倒す。
「お願いしますフブルさん! こんな大仕事を頼めるのは
『はー……分かった分かった。分かったわい。
「あ、は、はい!」
かちこちに緊張して、ハルベルが前に出る。それを見て、フブルが表情を
『……苦労したの、少女よ。良く頑張った』
「っ……」
アルへのそれとは打って変わって、その声には
『不安じゃったろう。だが、もう心配はせんでよい。悪いようには、せんでな』
ハルベルの内心を見通し、優しく包むような言葉だった。彼女は涙を浮かべ、頭を下げる。
『うむ。それでは、そこの面倒発生器の骨を連れてこっちまで来ておくれ。なに、旅費だのなんだのはそやつに全部投げてしまえ』
「はい……はい」
涙が床へと落ちる。アル、ガンティ、受付嬢、そして村の人々が彼女を優しく見ていた。
◯
「行くか」
「うん」
「……はい」
数日後。旅の準備を終えたアルとハルベル、そしてミクトラが元通りとなった村の入り口へと立っていた。
「ご両親とはもういいのか?」
「うん、昨日たっぷり甘えたもん。それに、
ハルベルが
「その……私も同行してもいいのでしょうか、アルヴィスさ……あ、いや、アル、様?」
「様は止めてくれっつったでしょー。俺ただの骨。君友達アンド仲間」
「は、はい……じゃない、分か、った。うん、努力しま……するます」
まだまだ時間は必要なようである。
「私はアルのご主人様だもんね。敬語使ってもいいのよ、アル」
「仮だろが。お調子に乗るんじゃありません。半人前さん」
指骨をぐりぐりと
「とりあえず、俺らは
「以前話に出たお仲間の一人でしたね……ごほん、だったな。
「
「き、緊張するんだけど……勇者の仲間の弟子とか」
「ただ、
「ああ」「うん!」
村人
戦争は続いている。しかしそれでもこの一時、太陽は空高くにありてその光を地に与えていた。その下を、
世界に
了
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