四章 勇者、久しぶりに本気出す(10/10)
◯
四方からの影腕は見もせずに打ち払い、障壁は同時かと
さらには、空間の
セッケルの
「なー!
アルの基礎能力が上がっていることが、全てに影響を与えていた。
(おのれ! この
「影族の『シャドウアーム』、
心を読んだかのように
(どういう戦闘経験をしている……! 本当に勇者の仲間だったとでも言うのか!? アンデッドの仲間など情報にはなかったはず……)
追い詰められ、たまらずセッケルは三度目の体内爆発を行う。しかしそれも、最接近していたアルは素早く真横の安全圏へと回り込む。
「あと、お前の正体も大体見当は付いた」
爆発後のセッケルの硬直に対し、アルが振りかぶる。セッケルの魔法による魔力をたっぷりと吸収した聖剣を。
「っ……ぬううぉ!」
「……次元
巨木に張り付いたセッケルの姿へ、その名前を口にした。
◆次元
その名の通り次元を操作する能力を持った
体格は足の長さを含めれば三メルほどもあり、人間も補食するため危険であるが、
勇者アルヴィス
「……真体まで
先ほどまでとは別人のように沈んだ声。
「ううむ、前見たのより大分キモい」
「──では、死ぬがいい」
直感で、アルは横に飛んだ。右腕部に
(短気過ぎるだろこんにゃろ! ……にしても、この
「……『次元糸』」
「御明察」
いつの間にかセッケルの周辺、宙にいくつもの線が浮かんでいる。
次元を切り
八方から気配。アルの聖剣が神速で周囲を舞った。剣先が正円の結界を描く。静剣『
「……やる」
「その聖剣……高位存在からの
「生前、いけ好かない神様にな。目ぇ付けられると苦労するんだ」
セッケルは話半分に聞きつつも納得する。高次元に座する神々の品であれば、この次元の切断で斬ることは出来ない道理だ。
(
糸の上を滑るように動き、時には霧となり、矢継ぎ早に糸を飛ばしていく。さらに、
「
アルは切り落とし、かわし、被弾は最小限に抑え、徐々にセッケルへと接近していく。
何手先までも計算に入れた、
「ああくそ、ちくちく痛い!」
ゆえに、セッケルは次に破壊される糸を予想するのも簡単だった。かわされることも、切り落とされることも、
「!」
アルの剣が宙で止まる。糸が剣へと
「離さんよ」
剣へ力が
現在のアルの力をして、剣は中空でびくともしない。これを動かすならば、森ごと吹き飛ばす必要があった。
「こいつは……!」
アルの周囲に、次元の穴が開く。数十の次元糸がその先端を
「詰みだ。もう二手あれば、君の剣が届いていたかな」
セッケルが静かに王手を宣言する。事実、アルが剣技でこの状況を切り抜ける手段は
「じゃあ、盤面をひっくり返すか」
アルの
「
音も無く。吸い込まれた黒い
(何を……構うか)
物理的な影響は何も無かった。次元糸がアルへと到達する。驚異のスケルトンを、千々に
「────
アルはそのまま、そこへ立っている。いくつもの次元糸が彼に
聖剣も自由となる。一振りで厚く
「何をした、貴様」
「辺り一帯を、高次元に遷移させた。三次元を斬る次元糸は、ここでは何一つ
さらりと、
アセンション。主に対象となる
「属性反転させたから、
それを、次元糸をしのぎながら着々と準備し、空間そのものに適用し発動させた。対象を広げるための
「対局をしていたつもりだったのは私だけか……!」
「
返答に、セッケルが
(……おかしい。有り得なさすぎる。何でも出来すぎる。こんな能力を持った
仲間。セッケルの
「さあ、第三局だ」
のうのうとアルが言ってのける。セッケルは、
「……喜びたまえ。腕比べは君の勝ちだ……だから、次局はハンデを
あらゆる力に対し防御を張っていた黒の
「──『
セッケルの魔力の波動に、アルが
「ちょおま……! それナシだろ……!」
動きが鈍る。どうにか振った
「耐えるか……! だが」
セッケルの足がアルの
「早く従いたまえ。そうしなければ、低レベルな
「ぐぬぬ……! こーのーやーろー!」
アルがセッケルを
反面、セッケルもまた、次元糸が使えない上にその身に取り込んでいた魔物たちも吹き飛ばされた。故に、ヴァンパイアロードの
それらが出来ることと言えば、単純な肉弾戦だ。いや、もう一つ。
「いっって……!」
アルの
「フツーの鋼糸か……
「今の君ならばなんとか切り
「……もてなしてくれる?」
「消化液を
「グラスに入らなそうだな。遠慮するわ」
軽口を
「次は小細工もさせん。このままじっくりと押し込んでくれよう」
糸による
「
セッケルが注意深く確認する。それは正しかった。
だが、アルは不敵に
初めて、この土地で戦った場所へ。
「そうだねえ、無いね──俺にはね?」
その時、木々が揺れた。セッケルの横から、角を備えた獣が
「ぬっ……」
「ブルオオオオオオオオオ!」
獣──グレイトホーンのゾンビは叫び、持てる
彼は死の苦痛に正気を失っていた。かつて自分を飼い慣らし森へ配置した主も、
「おのれ、幾つ手を打っている、貴様」
セッケルが獣へと足を組み付かせる。しかし、獣の
「ええい、
いくつかの攻防の後。とうとう糸に動きを止められたグレイトホーンゾンビが、その全身を再び切り刻まれてどうと倒れた。
(ちっ……偶然発生したのか……? いや、もしや何者かの施術……。いや待て、何者かの!?)
「お前か……!」
アルの向こう。糸の向こうに怒りの
「来ちゃうもんなあ」
残っていた糸を
「私が来なくてどうするの。私の戦いよ」彼女は親指で頬の血を飛ばす。
「ごもっとも」アルが
「それに──来て良かったでしょ、私のお骨さん」
「──ごもっとも」
「おのれ、おのれ……。そこな
ハルベルの手がアルの背骨へと触れる。
「ぜんぶ持っていって。そして、あいつを──」
セッケルを視界に映す。
ハルベルは自分の何かが
「ぶ・ち・の・め・し・て!」
【画像】
「あいよ。仮だが、我が主」
どくん。
胸の
「お、おおおおお……」
セッケルが驚異の声を上げた。
「その牙……貴殿か、ディスパテ! そうか、そういうことなのか。しかし……しかし!」
光が満ちる。アルの姿がその中にかき消えた。
同時、ハルベルが魔力切れで草の上へ倒れ込んだ。
その代わりというように光の中から現れたのは、ぴんと立つ黒髪だ。細身ながら均整の取れた筋肉。
「お前……お前は」
セッケルが正面に立つその人物を見て総身を
魔王はその
「
人間たちからはこう呼ばれていた。
「勇者! アルヴィス・アルバース!」
全ての幻術を見通すと言われた紫の
「おお、髪まで黒い。さて、舞台を
アルヴィスが一歩を踏み出す。設置された糸が迫るが……溶けて消えた。体にまとった
「魔王を倒した勇者……。貴様を打破したなら次の魔王へ
「やってみるか」
返答とばかり、セッケルの頬がこれまでの高貴さとはかけ離れて
セッケルの
アルの
「KaaaaAAAAAAaa………………」
きりきりきりきり、と。いびつに
その速度は一跳ねごとに速くなる。
やがてセッケルが左後上方からアル目がけ突っ込んでいく。
「ッ…………!」
そして、大地へと
「動剣奥伝『
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