三章 元勇者、子育てをする(6/8)
◯
「たのもーとりゃあ!」
「お、おいなんだテメギャッ」
アンドルス家
「お、おいなんだテメギャッ」
「そいや!」
判で押したような対応をする受付の『
(奥から多数の人間の気配。そんで……金貨銀貨の音)
そう、ここは会場であった。アンドルス家と『
アンドルス家は歴史ある貴族だが、権力の場から長く離れ、今代になってからは財務状況も
「そーっと……おお、いるいる」
内部に作られた扉を静かに押し開き、アルは会場を見る。まず目に映るのは壇上に上げられた子供たち。そして子供たちを見上げるように、幾人もの
大陸五ヶ国連合において、数年前より連合国内の
『戦時において貴重な人的資源を、私的財産として
「盛況だなおい。泣けてくる。アンドルス氏は……あれかな多分」
アルは記憶の隅にある男性を、壇上奥に座る仮面の人物たちの中に
(さあて、どう踏み込みますかね)アルが算段を始めた時だ。
「よく来てくれたじゃないか」
アルの左後方、階段の上から声が降る。
「一緒に仕事するって約束だったしな。慈善事業にいそしむ高名な冒険者様との」
「ああ、そうだったそうだった。まあアンドルスの旦那もなあ。商品の頭数
扉を閉めつつのアルの皮肉を込めた軽口へ、高名な冒険者──ガルムが
「さて、仕事の話の前に──骨さんよ、お前本当は何者だ?」
「勇者の仲間なんてホラ話だと思っていたが、お前の荷物見て笑ったぜ。そこらの
「あ、やっぱ持ってってたんだ。他人の家のモノ持ってくとか、非常時の勇者以外は違法だぞ」
アルはやれやれと腰に手を当てる。ちなみに、勇者の非常時徴発を受けた場合、後で国から補償が(新品換算で)出る。そのため、民衆は勇者を率先して家に招きたがる。
「聞いてるだろう。俺は勇者を手助けしたスケルトンさ。多少制作者にいじってもらってるけどな。道具袋の中身は勇者の形見分けだよ。モノによっちゃ扱い間違うと死ぬぞ」
それに、ガルムは一瞬複雑な表情を見せた。
「ふん、まあいい……全くのデタラメでもないんだろうよ」
(
「そしてお前自体中々見所がありそうだ。どうだ、変に俺たちを
「は?」
「『
アルは
「ここは就職
「死人の真っ当ってなそうなるのか? ……
言って、彼は階段を登っていく。上階の部屋の扉を開きながら、付け加えた。
「気が変わったらいつでも言えよ。ここまで届くように大声でだ」
階下の別口から現れた二十を超える『
「今日二度目だな、こういうのは」
階段にいる二人──ランズとスタイブがそれぞれの得物を構える。
「さあて、この人数に加えて俺ら二人相手だ。多少は腕に覚えがあるようだが……」
「貴様、
「同格ね」
アルは奥のホールから聞こえる『人を
「じゃあ、ちょーっとだけ頑張っちゃおうかな」
◯
「お前の保護者はどうなるかな。倒されるならそれも良し、ここまで来るなら
倉庫の二階を丸々使った部屋。巨大なソファの上で、ガルムは手足を縛って転がしていたプーチへと半ば
「アルはまけないよ。ゆーしゃのなかまだもの」
はっきりとした返事が返ってきたのを意外に思い、ガルムはプーチを見返す。
「……まあお前もおかしな
「アル、こわくないよ」
それを聞いてガルムの
「お前の方が余程度胸があるな!」
扉に幾条もの
それを
「同じ
「アルー!」
のそりと、
「おまたせ、お姫さま」
「遅かったじゃないか。……だがまあ。
くつろいだ様子で、ガルムは片手を広げてみせる。
「そいつら程度じゃ話にもならないってのが。それでこそ、俺の右腕に
アルは黒剣を
「犯罪組織の右腕骨なんざ、
「はん、勇者の元仲間のプライドか。そんなにその立場が
「勇者がどうなった? 散々勝手な民衆の言いなりになって最後は
(むう。別に言いなりで動いたつもりはないんだが)
ちょっと
ガルムが立ち上がる。その背後に、ぽつりと幼女の声がかかった。
「ゆーしゃ、すきだったの?」
空気が凍った。ガルムが一瞬目を見開いて、プーチを
「……さえずるなよ、
ガルムが両の短剣を抜き放つ。その切っ先がプーチの
「こらこら、子供の言うことだろ!」
「最後のテストと行こう。お前を従えれば、この町に
アルは、黒剣を構えた。先の二人には見せていない、東国の剣術を聖剣でも
(うむむ、俺のせいでこいつのような踏み外した
そこまで考えて、カカカと歯を鳴らして笑う。びしり! とガルムを力強く指さす。
「思うわけねえ───だろこの野郎! そのひん曲がった性根
アルは聖剣を振りかぶり、突き出した。当然間合いの外だ。しかし、その剣先はガルムへと迫る。
(投げただと!?
ガルムが短剣で
(剣まで手放して……!)
手から剣が離れているため、先の
「よっと」
アルの指骨がプーチの
「アルー!」
プーチが、
「……なるほど、
ガルムが
ゆえに。その魔力を強く操れるならば、今のような曲芸も可能だと言うわけである。
(あ、でもけっこー魔力使うなこれ……)
「まあ
ガルムは
「だってさ。端っこでおとなしくしてなさい」
「あぶなくない?」
アルが
「がんばれー。アルー」
「おーう。任せとけぃ」
声援に応えて、アルは
「剣を捨てるか。よもや、返してもらえると思っているわけではないな?」
「思ってないけど、優しさって大事だぞ人として。俺と違って血も涙もあるんだから」
嘆息するガルム。
「得物を捨てて俺の相手が出来るとでも?」
返答の代わりと言うように、ごき、とアルが指骨を鳴らす。ガルムの目が
「死んだ野郎が慢心してんじゃねーぞオラァ!」
ガルムがソファを
(うお早っや……
それを
だが、アルは半身になり体ごと踏み込む。当然のように
「アルッ!」
──叫ぶプーチの声に
「肉を切らせて骨を
そのまま、
「なんて、肉無いけどな」
「っつ……ふ、ふん! あいつらでは相手にもならんわけだ」
鼻を鳴らして血を飛ばし、ガルム。
「少々
短剣を
ばあん、と空気が鳴る。
「遅いぞ骨野郎!」
高い音が響き、ガルムの二の剣がアルの肩をかすめた。避けきれない。
(
アルが力任せに振り抜いた一撃は当然当たらない。天井を
「良く防いだ。……だが、もうお前に勝ち目はない」
アルがかろうじて攻撃をしのげたのは、自身も
(先日のアセンションに神聖剣の封印解除──こっちがやるには
無いものは仕方がない。気を取り直してアルは構えを解いた。
「はーびっくらこいた。無い心臓が口から飛び出るかと思ったわ。──それでは」
「ほお、拳闘か」
「あたり。しゅっしゅ」
素振りをしつつ、
「出来れば
ぼ、と人体が風を抜く音を発してガルムが打ち込む。その速度はやはり圧倒的だ。
二合、
数度の交錯の後、ガルムの回し
「アルッ!」
プーチが悲鳴を上げた。だがアルは壁を蹴りつけることで激突を防ぐ。
「なんのまだまだ。俺はほうれん草と小松菜食ってんだ」
ガルムが短剣を握ったまま、アルを指さす。
「これが
「達人ね」
好機とばかりに、アルは返事をしつつ各所の可動を確かめる。
「だが
ガルムの陶酔。アルは軽く、ひとさし指骨をくいくい動かして返事とした。かかって来いや。
「はっ!」
挑発に乗ってくるガルム。それは当然のことで、今の彼とアルの戦力差で、注意することなどない。それは、戦力だけ見れば確かなことと言える。しかし。
「ッ!!」
交戦から二度目。再びガルムの顔が跳ね上がる。
「何……
ダメージはほぼないが、ガルムが意外そうな顔をする。アルは拳を開きぷらぷらと揺らした。
「もう
これまで
「図に乗──」
「そりゃお前だ。──本当の達人に会ったこと無いんだな」
断ち切るようにアルが言葉を
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