二章 スケルトン冒険者、アンデッドらしく地下ダンジョンに挑む(5/6)
その状況を横目で見ながら、アルは飛ぶ。
「させるカアッ!」
ゴブキメラがその巨体をローリングさせた。だが、アルはその時中空に飛んでいる。
「
落下の勢いを加えた強烈な
「んギャ────────!!」
「んでさらに、こ・う・だッ!」
のたうつ大蛇を
「「っ!」」
ふたりの間を大蛇が横断し、そして犬型ゴーレムを巻き込んで行き過ぎる。瞬間、
「「────!」」
二人が交差する。互いの振り切った剣が、ミクトラの肩を、ヘリャルの頬を浅く
(鋭い!
「ハッハ! お前恐怖ってもんがねえのか! それとも俺の剣が甘いか!?」
反転し向き直る途中で、ヘリャルは
(こりゃいよいよこの隊も終わりだなァ──なら、好きにやるかね!)
ヘリャルの刃が再び走った。しかしそれは、ミクトラへ飛びかかる目玉コウモリへだ。その羽が切り裂かれて地に
両者が再び構えを取った。
アルからも、打ち合うふたりは見えた。しかし、大蛇を投げた
「火葬してくれるワァァァァッ!」
ファイアブレス。ゴブキメラの切り札とも言える
「ぬおお……!」
「これはッ!」
部屋全体を照らす光と高熱に、剣を振るミクトラが声を上げる。
アルはマントで炎を受けている。勇者時代の様々な耐性
「ぜえぜエ……ムハハハハ……勝負あったナ……」
ゴブキメラの息も絶え絶えな
「あっつう……」
そこへ、最後の一体となった目玉コウモリが飛来する。これまで介入できる戦力ではないと見ていたが、アルが弱ったと見るや口を開けて急降下する。
しかし。アルの眼孔に
「魔力消費考えるとやりたくなかったが……」
──そのまま、あろうことか自分の口へ持って行く。
「俺が予想以上にびっくりするほどヘボい!」
目玉コウモリの直径よりも大きく開けられた
「味分からなくて助かるわ……あと調子に乗んなよお前! いくら俺が骨でも熱いだろうが!」
「キ、貴様、何をしていル!」
たじろぎながら、魔法とファイアブレスによる消耗から立ち直ったゴブキメラがさらなる攻撃を構える。
「
対して、小さく
「蓋を開けよ。浸食を許可する」
ゴブキメラの
「なんだありゃあ……
ミクトラと打ち合うヘリャルが、帽子の下で目を見開いた。
「
────死がもたらす死の道標となれ」
炎はアルの胸より
「「「……………………!」」」
現れたのはそのような存在だ。その姿を視界に納めた瞬間、この場全ての存在が、自分の死を幻視した。
「くっ、くたばレェェエエッ!」
しかし、恐れを振り切りゴブキメラが爪を振るう。同時に放たれる『ストライクボルト』
「よっこいしょ」
対するアルが剣を
結果は劇的だった。一瞬の黒い波が走り、キメラの腕が爪先から根本まで吹き飛ぶ。『ストライクボルト』が
「静剣──『
発声器官を失ったゴブキメラが声も無く巨体をねじれさせ、くずおれる。
「おいおいマジか……」
ヘリャルの
アルが言っていた。魔力を体に流して自分自身を強化する。あのキメラもやっていたことだ。だがそれを彼が行うと、ああまで次元の違う力が出る。
そこでアルの全身から黒の炎が消え、同時にゴブキメラの全身から力が抜け、息絶える。
「よ──し、勝ち……!」
ガッツポーズを決めるアルがミクトラとヘリャルの方を見る。
「で、お前さんどうするよ。──そろそろ参ったしない?」
──状況は完全に決したように見えるものの、実の所アルも魔力がもう残り少ない。これ以上の戦闘は出来れば避けたいのが本音であった。
「冷めるこというなや
ヘリャルはミクトラへ刃を向ける。
「こいつとのケリの後にな」
「ヘリャル……」
「もう全員おっ
アルがむ、とうめく。
「俺が
「別に
「良かろう」
答えたのはミクトラだ。
「アル。ここは私に。捨てたとはいえ元は貴族の端くれだ」
エイン王国にしろ他国にしろ、貴族とは元々
「戦士の声には
「おうおう、途中だもんな。そう来なくちゃ!」
両者が構えを取る。共に上段。数秒、息の詰まる沈黙が場を支配した。
ヘリャルが回転、
(受け
「『センタフォール』」
──正中線。デオ流における基本にして
最短を行く剣は円を描く剣に到達速度で勝り。重力に完全に正しく振り下ろされる剣は、
回転による重さ早さもまた力の道理ではある。だが今回においては、垂直落下という力の道理がそれを従わせた。
ぎんっ、と澄んだ音が響く。ミクトラの剣はヘリャルの剣を打ち落とし、またヘリャルの
アルが
「──ぃよし。おみごと」
血で濁った声で
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