二章 スケルトン冒険者、アンデッドらしく地下ダンジョンに挑む(3/6)
◯
「くらえ
どうにかミクトラをなだめ、
「……!」
それは正確にゴーレムの
「
ゴーレムの
◆ゴーレム(人類敵対度……無し。製作者に準ずるため)
魔法で作られる兵隊。形態は動物型から人型まで様々あり、最小はネズミ程度、最大は
しかし、やはりポピュラーなものは土や石などから作られる巨体の人型タイプである。これらは単純な物理攻撃で打倒するのは困難であるため、優秀な門番、衛兵として機能する。
変わり種として、死体で作られるフレッシュゴーレム、各種鉱物を使い作られるマテリアゴーレムなどがあり、素材は問わないとされる。
勇者アルヴィス
しかしそれですら、アルは大部屋から現れた一団を確認した直後に踏み込み、瞬時に始末してのけた。敵は奥へ伝令に行く
(強い……! これが勇者一行に加わる実力か)
ミクトラは息を飲む。地下遺跡に入ってからおよそ二時間。ここまでに倒した魔物は先ほどのゴーレムとゴブリンを含めば三十を越える。仮に国主導のミッションであれば
(私一人であれば、明らかに手に余っていたな……だが、得る物も多い)
ミクトラは
地下遺跡は最初の回廊と同じ構造が続く単純なものだが、かなりの広大さを持っているようで
「魔物のリーダーが奥にいるのだろうか……」
考えるミクトラを
「やったぜついてる」
「え? なに?」
「まとまった食事の跡がある。終わったばかりだ。こいつらはこの辺のフロアを担当してる
「奥の敵に戦闘音を聞かれていないかな」
「これまでで確認してみたけど、防音の
(強さだけではない。彼の冒険者としての経験は、自分を
ことここに至って、ミクトラはアルの実力を完全に受け入れた。勇者の手助けをしたという話も、完全な
さらに次のフロアを確認すれば、そこは無人である。アルの言が証明された形になった。
「ところで──
やや
「いや、つい生前の癖で……。置いてある
言い訳しつつも勇者の
「悪癖だな……。街ではやらない方がいいぞ」
「努力はしてる。
「それなら、少し
「あ、そっか。そりゃ生きてる人が二時間戦い詰めは疲れるわな。そうしよう」
アルは失念していたとばかりにかしゃりと
「アンデッドは疲れないのか?」
ゴブリン
「まァ、疲れるというか……別の意味で
アルは荷袋を持って来ている。座り込みながら中身を取り出す。
「アンデッドは
ミクトラはふむふむと
「そういえば……勇者様には一般に知られる老剣士マガツ殿、大魔導師フブル様の他にもう一人の仲間がいたと聞く。ここからは
「ええと……良く出来たお話ですねとだけ言っとく……」
「ふむ。やはり
アルが引っ張り出しているのは、前のフロアで倒した大コウモリである。飼い慣らされていたのか利用されていたのかその
「具合良く
「た、食べるの、それ?」
思わず叫んでから、ミクトラは大コウモリをてきぱきとさばくアルをまじまじと見て、気付く。彼は骨だ。
「私が!?」
「携帯食何持ってる? 俺常備はしてないんだ。胃袋無いし」
皮を
「ねえ私の話聞いて!」
「お、ピクルスあるじゃないの。でかした!」
「あ、あ、あああああ……大丈夫だろうな!? 本当に食べられるんだろうなこれ!?」
「さらにここに、原材料名は法に触れるから言えないが
「なんか増えたぁ……」
──数十分後。大コウモリの肉と酢漬け野菜の
(
「魔物食は長期間のダンジョン攻略では避けては通れぬ道……どうか
顔を
「あの種は
「
はあ、とミクトラはため息をついて、顔を上げる。
「こう言ってはなんだけれど……
共に食事を取っていたアルに持っていた疑問を、ミクトラは口にする。
「食い物を
「魔法まで使えるのか……」
「練習したんだぜ? それ使う魔力と食い物を変換した魔力。ま、大した魔力補給にはならないけど、差し引きプラスにはなる」
「その……味は?」
「味覚を再現する魔法も一緒に使うと、赤字かいいとこトントンにしかならないんだよね……。だから、食事を楽しめる状況でしかやらない」
会話をしている内に、アルは食事の片づけを済ませてしまっている。
「
「あんまり面白味のない人間だったよ。遊びも大してやらずに一つのことしか考えてなくて。──結局、そのまま死んじまった」
君は? とアルの視線が求めた……目玉は無いのだが。
きょとんと彼を見返したミクトラだが、軽く笑って語り出す。ここまで来て、何を隠すわけでもないという気持ちになった。
「私は……その、元々、エインの貴族の出でね。知らないかもしれないけれど、ランテクート家。本名はミク=ト=ランテクート」
「割と大きな家じゃん! 昔大臣もやってた」
アルが生前に何度か聞いた名だ。なにせ、当時は連合五カ国全ての王族と会ったことがある。
(どうりで妙に民だのなんだの、使命感が強いと思った。正しく貴族ってわけだ)
だがミクトラは
「今は権力からは遠いものよ。昔の両親には男子もいなかったから、親は私に一つの縁談を持ってきた」
「ほほう。えんだん」身を乗り出すアル。
「勇者アルヴィス・アルバースと結婚しろって。最悪側室でもいいからと。勇者の子を家に
アルが
(ランテクートさぁぁん! そういうの早めに俺に言え! 生前に! 直接! 姿絵持って!)
「どうしたの?」
「い、いやなんでもない。それで、今冒険者なのはどうして?」
ミクトラは照れ臭げにする。
「そのね、笑ってくれて構わないんだけど。当時の私はまんざらでもなかったの。勇者様の冒険
表情が曇る。アルが察して、言葉を継いだ。
「あー……勇者は死んでしまった。魔王と
ミクトラが
「丁度その頃。弟が産まれてね。そうなってくると私は適当な家に
「跡継ぎがいるとはいえ……良く許してもらえたもんだ」
「いえ、
ミクトラの表情は晴れない。
「勇者様のように人の助けになれればと思うけど。それは貴族の理念にも
でも現実は、というとね。女ということで妙な
アルとしては、そこまで深刻に考えることでもないとは思うが、そんなことを言ったところで慰めにもならないだろう、と判断する。
(でもまあ、俺の責任もちょびっとはあるよなあ、これ)
そんなことを考えながらアルはミクトラを見ている。と、そこで彼女は笑った。
「何だかおかしいね。他の誰にもこんな話はしたこと無かったんだけど。
アルは不思議そうに
「男だの女だの人間関係だの、ましてや家の都合とか。私の悩みなど、
「単なる骨だぜ? 俺。いやまあ物理的には軽いんだけど」
「単なる骨は死んでまで人を助けないでしょう。なるほど
アルは
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